リベラル書籍紹介#45『データはウソをつく―科学的な社会調査の方法』 谷岡 一郎
この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。
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今回は、中2生が9月期で使用した『データはウソをつく―科学的な社会調査の方法』です。
私たちは情報を入手する際、それが信頼できるものであるか疑い、その根拠を求めることが重要です。
たとえば、いかにも真実らしく伝わっている情報でも根拠をたどると、最初は一個人の憶測から始まり、不特定多数の人々の目にふれるうちに曲解され、事実のように伝わっているだけの情報であった、ということも少なくありません。特にインターネット上では、個人が意見を手軽に表明できる特性から、このように信頼性の低い情報が広まりやすいという欠点もあります。
それでは、多くの関係者のチェックが入る新聞や書籍、テレビが発信する情報であれば即座に信頼しても問題はないのでしょうか。必ずしもそうとは限りません。すべてのメディアから発信される情報は、そこに発信者によって加えられた何らかのゆがみがないか、一度検討してみる余地があるといえます。
本書『データはウソをつく』は、メディアから発信される情報に潜むゆがんだデータの存在と、そのようなデータを真実らしく見せるための手法について詳しく紹介されています。
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本書では、情報やそこに含まれるデータに恣意的に手を加えることで、受け手に事実と異なった印象を抱かせるさまざまな手法が紹介されています。
たとえば、発言の一部分を切り取って強調することで誤解を与えたり、特定の意見のみが多数派に見えるように加工したグラフや表を提示する、といった手法がそれにあたります。近年特にネットニュースで見られる、ささいな出来事でもセンセーショナルな見出しをつけることで大きなニュースのように思わせ、閲覧数を稼ぐ手法はまさにそれにあたるものと言えます。
また本書では、たとえ情報やその元となった調査の数字が事実でも、よく見るとその調査方法に問題があるという点も指摘しています。そのひとつが「第三の変数」という問題です。
その例として本書では、過去にいくつかの新聞で実際に報道された
という論をあげています。この論を提示した教授は「論理的思考を持つ人が社会で重宝されるから」「数学学習が職業の選択肢を増やすことに結びつくから」などといった推測を述べています。
ここまで読んで、なんとなくこの論に納得したという人はぜひ本書を手に取って読んでみることをおすすめします。著者がこの論に抱く疑問点や、「第三の変数」とは何なのかを知り、データのゆがみの構造を確認するチャンスとなるからです。
情報やそこに含まれるデータのゆがみに注意しなければならないのは、情報を受け取る時だけではありません。レポートや論文を書くとき、私たちは論の根拠を探すために、関連する情報を調べます。しかしそれがゆがんだデータに基づくものであった場合、私たちはそれを元に論を展開するため、一転してゆがんだ情報を広め、誤解させる側になってしまうことになるのです。
第三章から第五章にかけては、調査をする際に客観的なデータをとるためにはどうすればよいか、その調査方法が紹介されています。これだけ読んでも、信頼に足るデータを取り出すためには大変な手間がかかることがわかります。今世の中に広まる情報から真実を見つけ出すためにも、また、偽の情報を広める加害者にならないためにも、本書を読んで学習しましょう。
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