リベラル書籍紹介#13『古典を読んでみましょう』橋本治
この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。
今回は、冬期の中2で使用した『古典を読んでみましょう』です。
古典の読みづらさをユニークに解説
「『古典』て、なんでしょう」――こう問われたら、どのように答えますか? 実はこれが本書の冒頭の章タイトルで、答えはその一行目に書かれています。そして、続く章から、具体的な作品が題材にされて、古典の特徴が説明されていきます。まず取り上げられるのは樋口一葉『たけくらべ』の冒頭です。著者は黙読と音読を読者に促したあとに、「この文章はなぜ分かりにくくて読みにくいのか?」を分析していきます。
そこに浮かび上がる古典の特徴とは――
①現代では意味が分からない言葉が多い
②仮名遣いが歴史的仮名遣いになっている
③読点(「、」)が続くばかりで句点(「。」)が出てこず、一文が長い
の3点です。
そして、著者は内容を解説しながら樋口一葉が名文家とされるその理由も説明しているのですが、次のトピックに進みましょう。
次のトピックでは、著者はひたすら句読点の話をします。
原文を提示しては、『たけくらべ』は上述の通り句点が出てこない、『源氏物語』には句点どころか読点も出てこない、『南総里見八犬伝』は句点ばかり、そして原文から活字化された『枕草子』のテキスト複数を取り上げて、テキストによって句読点の打たれ方に違いがあるという具合です。
しかし、著者はただ句読点の話だけをするのではありません。
句読点を出発点として、日本語には和文脈と漢文脈がある、文体には当時の美意識が表れる、句読点の位置が変わることによって意味が変わり、自由な発想を持つことができる、というように、日本語の特徴や文章を読むときの面白みにまで話を広げていきます。
その裏付けについても言及があります。例えば――。
『枕草子』第一段は一般には「“春は曙がいい、夏は夜がいい”」と理解されていますが、「物は付け」は『枕草子』全体を通して「一段にお題は一つ」という原則があるため「まず総論があって、各論が続く」という書き方になります。
ですから、一般的な理解だと第一段にはお題が四つあることになりますが、これはその原則に反します。そこで、著者は自分の解釈を示しますが、「『そう考えるとすっきりするな』と思うだけで、その解釈が正解だとは思いません」とあっさりしています。
さて、みなさんはどのように解釈しますか(著者がどのような解釈を示しているかは、ぜひ本文をお読みください)?
まずは読んでみること
そこがスタートライン
このように、著者は飄々とした語り口で議論を進めていきます。そして、ところどころで「だから古典を読んでみましょう」と促してきます。
曰く、「そんな考え方があるの?」「そういうこともあったのか?」と教えてくれる、知ることができる、多くの表現スタイルに触れて、日本人が多種多様な事柄を考え、感じてきたことに触れることができる、等々です。だから、著者の言う通り、遠ざかったままでいるのはもったいないから古典を読んでみましょう。
そして、著者の議論に時に膝を打つこともありましょうし時に首を傾げることもあるかもしれませんが、本書も一緒に読み進めていきましょう。ちなみに著者は、他分野にわたる旺盛な執筆活動で知られた橋本治氏――。先だって長編小説『人工島戦記』が刊行されましたが、本書は死してなお名を轟かす氏の語りに気軽に触れることができる、貴重な一冊でもあるのです。