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リベラル書籍紹介#39『犠牲のシステム 福島・沖縄』高橋 哲哉

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。


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今回は、中3生春期で使用した『犠牲のシステム 福島・沖縄』です。

「犠牲のシステム」とは?

 2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。そこから13年となる今年、1月1日に発生した能登半島地震の被害状況が報道され、志賀原発が動いていたらどうなっていたろうかという論調がニュースで目につくようになるとともに、東日本大震災の被災地・被災者は今・・・、福島第一原子力発電所は今・・・、という記事が目に入るようになってきました。本書はこの原子力発電所を抱えた福島と米軍基地を有する沖縄とを考察することによって、戦後の日本に「犠牲のシステム」があることに注意を引き起こし、犠牲を起こさせないための方策を考えていこうとするものです。


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 「犠牲のシステム」とは何でしょうか。それは次のように定式化されます。

「或る者(たち)の利益が、他のもの(たち)の生活(生命、健康、日常、財産、尊厳、希望等々)を犠牲にして生み出され、維持される。犠牲にする者の利益は、犠牲にされるものの犠牲なしには生み出されないし、維持されない。この犠牲は、通常、隠されているか、共同体(国家、国民、社会、企業等々)にとっての『尊い犠牲』として美化され、正当化されている。」

『犠牲のシステム 福島・沖縄』高橋 哲哉著、集英社新書、27ー28頁、2012

 どういうことか著者の議論の一部を追ってみましょう。原子力発電所は、平常稼働しているときでもそこで働く人を被曝させ、事故が発生すると収束にあたる人に加えてその立地周辺の人々と環境、そして放射性物質の拡散によって広大な地域の人々と環境とを犠牲にします。また放射性廃棄物をどのように処理するのかという問題をはらみ、さらにそれを地方や海外に押し付けようとする動きがあると言います。その動きに著者は「植民地主義」を看取します。これはつまり、力を持つ中央が、それを有さない周縁を支配し、利用し、搾取しているのではないかという指摘です。このような福島と、もちろん違いはあるものの、同じようにして、沖縄も犠牲のシステムに組み込まれているというのが著者の議論です。このとき著者は、第二次世界大戦後に日本政府が沖縄をアメリカ政府に犠牲として差し出して利益を得ようとしたことや、2004年の米軍ヘリコプター沖縄国際大学墜落事件で米軍の治外法権的な状況に対して日本政府が抗議しなかったことを事例として挙げています。このような事例から、日本人(ヤマトの日本人)は沖縄を植民地支配していると著者は自身を含めて日本人を告発し、そもそも犠牲のない社会は可能かを検討していきます。

「犠牲のシステム」を理解して

 本書で展開されている議論の最大のポイントは、やはり「犠牲のシステム」の定義でありましょう。というのは、ここでいう「利益」は、本書で

原発を過疎地に押しつけて電力を享受してきた(筆者を含めた)都市部の人間の責任も免れない」

『犠牲のシステム 福島・沖縄』高橋 哲哉著、集英社新書、39頁、2012

と述べられているように、私たちの日々送っている「便利な生活」というものも含まれるからです。評者はこれを読んで、上述のヤマトの日本人による沖縄支配の件を読んだときと同じように、「私も加害者なのか・・・!」とドキッとしましたが、この定義をもとに私たちの生活を思い起こしてみると、たしかにそれは誰か、あるいは何かの犠牲の上に成立しているのかもしれません。たとえば本年は「物流の2024年問題」が注目されていますが、これは私たちの生活がドライバーの長時間労働のもとに――すなわち健康と生活を犠牲にして――成立していたことを明らかにしたと言えましょう。あるいは――これもあくまで評者が個人的に理解したところですが――近年注目を浴びている「SDGs(持続可能な開発目標)」とは「誰に、あるいは何に対しても犠牲を強いない社会・経済活動のありかた」と言えるのかもしれません。評者も授業を担当しておりますが、このような視点を提示すると、生徒たちは興味深そうに、それぞれ自分たちの生活を思い起こしているようでした。

 書籍の内容――今回は「犠牲」という仕組み(関係)――を理解し、他の受講生と意見を交わしながら、それを他の事象に当てはめて分析する、他の事象のうちにそのような仕組みがないか、見極めて精査する。これがリベラルの要であります。いま受講されている方も、今後の受講を検討されている方も、一緒にいろいろなものの見方を身につけていきましょう。


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