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リベラル書籍紹介#23 『噓つきアーニャの真っ赤な真実』米原 万里

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。


今回は、高校生11月期で使用した『噓つきアーニャの真っ赤な真実』です。

米原 万里、『噓つきアーニャの真っ赤な真実』(角川文庫)

〇書籍の概要

本書は、著者が1960年代のプラハにあったソビエト学校で少女時代を過ごした時の体験を元に書かれたエッセイです。三つのエピソードが掲載されていますが、中でも表題となっている『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』は、ナショナリズムとアイデンティティについて深く考えさせられる内容となっています。

〇授業の論点

 物語は大きく分けて二つに分かれます。一つは著者とアーニャの子供時代のエピソードであり、もう一つは二人が大人になってから再会したときのエピソードです。

 リベラル読解論述研究の授業では、様々な答えがありうるような問いを扱い、多角的な視点から物事を考えることを学びます。今回の書籍で注目するのは、子供時代のアーニャと大人になったアーニャの考え方の違いです。
 子供時代のアーニャは、祖国であるルーマニアをこよなく愛する少女でした。自国と自民族を誇りに思わないような人に対して「どの民族をも愛せない」という軽蔑の言葉を吐き捨てるほどでした。

 一方で大人になったアーニャは、著者に対して極めて強いコスモポリタニズム的思想を展開します。民族や言語をくだらないものとし、国境の意義も否定します。それは、プラハにいながらルーマニア人としての自負を忘れなかった子供時代とは正反対の考え方です。

 そうした考え方に対して、著者は強い反発をおぼえます。人は特定の国の文化、言語、環境によって育てられるものであり、それと無関係に生きる人間など存在しないというのです。

前者は、グローバル化が叫ばれて久しい現代では比較的受け入れやすい考え方かと思います。一方でそれに批判的な視線を投げかける著者の意見もまた、一考に値するでしょう。

〇授業中の取り組み

 授業では、まず関連する重要概念を学びます。たとえば「コスモポリタニズム」「ナショナリズム」「文化相対主義」といった言葉です。これらは大学受験レベルの文章を読むために要求される語彙ですが、日常生活を送る上で必要不可欠の知識とは言えません。受験生には日常の枠を超えて、大学の求めるレベルまで言語能力の水準を上げることが求められています。

 そして、生徒一人一人にどちらの意見に賛成するかを考えてもらいます。最初は直感的に共感できるというだけでも構いません。立場を決めて、なぜ自分がその意見に賛成したのかを掘り下げていきます。講師の導きに従ってお互いに話し合っていく中で、一人では気がつかなかった点に思い至ることがあります。そのような体験を通して、当初はぼんやりとしていた自分の考えが明確になっていき、言語化できるようになります。

これがリベラル読解論述研究の醍醐味でしょう。みなさんの参加を心よりお待ちしています。

■リベラル読解論述研究ってどういう授業?

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