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リベラル書籍紹介#7 『新しい幸福論』 橘木俊詔

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。

今回は6月期に高校リベラルの授業で使用した『新しい幸福論』です。

書影:『新しい幸福論』 橘木俊詔

『新しい幸福論』 橘木俊詔
(岩波新書、2016)

さて、突然ですが、3月20日は何の日かご存知ですか?

正解は「国際幸福デー」です。2012(平成24)年に開催された国連総会で制定されました。国連は毎年この日に合わせて「世界幸福度ランキング」を発表しています。

このランキングは、以下のような項目のアンケート結果をもとに過去3年の平均値で順位を決めています。

・一人当たりの国内総生産(GDP)
・社会的支援(Social support)
・健康寿命(Healthy life expectancy)
・社会的自由(Freedom to make life choices)
・寛容さ(Generosity)
・汚職の無さ(Perceptions of corruption)

今年発表されたランキングでは、日本は昨年の62位(過去最低)から順位を上げ、56位となっていますが、先進国では高い順位とは言えません

また、日本の評価項目で特に評価が低いのが「人生評価/主観満足度」です。日本人はものごとを悲観的に捉えやすい傾向にあると言われるため、単純に他の国と比較することはできないかもしれません。しかし、内閣府の「平成20年度国民生活白書」(第1章第3節)を見てみると、1981年から2005年までの間、国民一人当たりのGDPは上昇傾向にある一方で生活満足度は低下しており、日本の中で見ても、不幸を感じる人が増加していることが分かります。さらに、急速に少子高齢化が進む日本では、労働力不足や家計の需要減少からGDPも低下していくことは避けられません。お金をたくさん稼いで贅沢な暮らしをする、という幸福の形が実現しづらくなる中、私たちは「幸福」についてどう考えるべきなのでしょうか

経済学の視点から「幸福」を考える筆者は、この本のはしがきで次のように述べています。

経済的には豊かさを増したにもかかわらず、幸福ではない、という気持ちが高まったのである。そうであるならば、経済成長率を上げることより、国民が心豊かな、幸せを感じられる政策を考えることのほうがより重要ではないか、という問いが生まれる。

そして、この問いを考えるキーワードとして挙げられるのが格差の縮小です。日本の中で深刻化する格差社会の現状とその原因、社会のさまざまな制度の問題点を指摘しつつ、どうすればより幸せに生きられるのかを考えていきます。

格差解消に関わる要素の一つが、経済成長です。筆者は経済成長の弊害を挙げながら、脱経済成長を唱えます。

たとえば、経済成長を求めることが大切だと考える人の中には、大企業が成長することによって、いずれ中小企業も恩恵を受け、ともに成長していくと考える、トリクルダウン理論から経済成長率を高くすることが格差を縮小することに繋がると主張する人もいます。

一方で、経済成長によって大企業が享受した利益が中小企業まで浸透せず、大企業だけが利益を得るという想定をウィナー・テイク・オール理論といいます。

筆者は日本の景気循環を振り返り、ウィナー・テイク・オール理論が作用してきたのが現実だと述べます。

経済大国ではない普通の国であっても、国民一人一人が満足できる、心豊かな生活を送ることのできる国の在り方を考えるとともに、個人がそれぞれ、自分にふさわしい生き方や幸せな生活を送るための方法を考えることの重要性を説いています。

この本を読むなかで、この国が、そして自分自身が幸せに生きるためにどうすべきかをあらためて考えてみてください。

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