リベラル書籍紹介#26 『不平等を考えるー政治理論入門』斎藤 純一
この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。
今回は、高校生が2月期で使用した 『不平等を考えるー政治理論入門』です。
この本、面白いタイトルですね。本書における「不平等」な事態とは、「値しない」(=不当な)有利-不利が社会の制度や慣行のもとで生じ、再生産されている事態を指します。
これとの関連で「運の平等主義」という概念が出てきます。本人に帰責することのできない、諸事情によって引き起こされる不平等というものがあります。各人が選択し得ない事柄については責任を問うことができず、他方、その人が選択できる事柄については責任を問うことができるという考え方、それを著者は「運の平等主義」と呼びます。
Y-SAPIXの授業は、制度や慣行のもとで生じるあらゆる不当な有利-不利にあたると思われる、現代社会における不平等の具体例を取り上げるところから始めました。
その許諾・正当化し得ない不平等の是正がどのように正当化できるか、またその正当化はどのような難点を伴うかについて話し合いました。ここで取り上げた具体例は、本書に取り上げられている事例(障害の有無や経済的不平等、人種の不平等、ジェンダー、性的志向、エスニシティ、宗教において生じる不平等といったものなど)、その他です。
著者は、各人の生において他者への意思への依存を回避し、市民間に平等な関係を保つことを重視しています。連帯に基づく社会保障が、家族や職場などの関係で被支配的な立場に置かれても退出できる生活条件を保障することで、人々の自律的な生を可能にします。
連帯に基づく社会保障についてもう少し考えてみましょう。市民社会における相互行為は、市民同士に接点を生みやすく、新たな問題発見、問題解決につながるものです。加えて、社会の支配的価値評価を相対化し、問い直す動きにもつながります。
さらに、連帯形成に資する価値評価を政治文化のうちに定着させるきっかけにもなります。よって、公的制度に媒介されない市民間の相互行為は制度的なルートの弱点を補いつつ、連帯を生んでいけるというわけです。
授業の最終講では、1980年代から続いている格差の拡大に、市民は制度によっていかに抗することができるか検討しました。
この記事を読んでくださっている方も、どのような不平等がなぜ問題なのか、社会保障やデモクラシーの制度は正当化できない不平等にどのように対応できるかについて著者の考えを踏まえながら考えてみてください。
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