リベラル書籍紹介#25 『アートは資本主義の行方を予言するー画商が語る戦後七〇年の美術潮流』山本 豊津
この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。
今回は、高校生が1月期で使用した 『アートは資本主義の行方を予言するー画商が語る戦後七〇年の美術潮流』です。
みなさま、突然ですが芸術はお好きですか?
とりわけ現代アートと言われる作品群、いかがでしょう?
「正直よくわからないなぁ」という人も多いのではないでしょうか。
実際わたくしも高校時代、世界史の資料集で「泉」や「マリリン」といった作品を見て衝撃を覚えたものです、「え、これが芸術なんだ?!」と。
さて、その芸術作品とは何か、それを考える一助となるのが本書です。
著者の山本豊津は画廊のオーナーであり、また画商、すなわち作品の流通を日々目にする立場にある人ですが、本書で次のように語ります。
〈アートはこの現代社会を構成する一要素である。野菜が「農作物」であると同時に「商品」であって、「価格」がつけられて人の消費行動に影響を与えるように、アートも「美術品」であると同時に「商品」であって、「価格」がつけられている。そして、ある作品にある価格がつけられるという事実に、ある社会の中に生きる人々の価値観が映し出されている〉、と。
これはつまり、その作品に価値があると判断している人がいる、すなわち、その作品に感動し、価値を見出している人がいる、ということです。
それは、著者によれば、〈その作品を制作した側が生み出した価値が人々に伝わったということであり、「価値の転換」がなされた〉、ということです。
価格と「価値の転換」の関係がわかりにくく感じる人もいるかもしれませんが、次のように考えてみてはいかがでしょうか。
例えば、ここに石があります。空き地で拾ってきたのならば、原価はゼロです。しかし、この石に何らかのアレンジを施してオブジェをつくります――オブジェとすることで何らかの価値を付したわけです。これを親しい人に見せると「かわいい」と言われるかもしれませんし、フリーマーケットで出品してみると売れるかもしれません――すなわち付された価値が認められたという次第です。
このように著者は、あるものがなんらかのコンセプトのもとに再構成され、価値が付与されたためにその価格がつけられ売られているというプロセスを論じていく中で次のように述べます。
そしてこのような芸術作品と共通点を持つのが、じつはお金であると著者は論じます。どういうことだ? そう思った方はぜひ本書をご一読ください。
著者はフォンタナ、イブ・クライン、もの派、……といった様々な芸術家たちがどのような作品によっていかなる価値転換をなしていったかを説くとともに、資本主義の仕組みから各国の文化政策まで、幅広く議論していきます。
いわく、〈マーケットは中心から周縁へと移動していく、なぜなら利益を出すには安く買って高く売ることが必要であり、そのためにまだ注目されていない周縁作家の作品を安く買うのだから〉、〈諸外国は文化によって国力を高めようとしている一方で、日本の文化政策は国内政策にすぎず外交ではない、ハコモノをつくるだけでソフトの戦略がない〉、等々……。
多くの事柄が議論されているがゆえに筋が見えにくいと感じる読者もいるかもしれません。しかし、だからこそ経済や政治、歴史など芸術以外の領域に関心を持つ読者も、読んで得られるものがあるに違いありません。
実際授業では、芸術の奥深さとともに「資本主義のパラドクス」に触れ、文化政策までも考えていくという盛りだくさんな内容を扱いました。
生徒たちもそれぞれの関心から本書を楽しんでいたようです。
https://www.y-sapix.com/method/curriculum/liberal/