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リベラル書籍紹介#11『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。

今回は、10月期の中3で使用した『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』です。

202110_G3_加藤陽子『それでも日本人は戦争を選んだ』_新潮文庫

『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』加藤陽子
(新潮文庫、2016)

本書の目次は以下の通りです。

序章 日本近現代史を考える
1章 日清戦争
2章 日露戦争
3章 第一次世界大戦
4章 満州事変と日中戦争
5章 太平洋戦争

本書は、東京大学文学部教授加藤陽子による、栄光学園で行われた日本近現代史講義をまとめたものです。加藤教授による日本近現代史講義は、豊富な情報もさることながら、専門的知識が細かく整理されているため、日本の近現代の歴史を、臨場感をもって学ぶことができます。また、本書のなかでしばしば行われる加藤教授と歴史研究部に所属する高校生のやりとりを読むと、歴史は暗記中心の科目という認識が大きく変わります。歴史を議論することは面白い、歴史を学ぶことは楽しいと感じさせてくれます。

本書の大きな特徴は、日本近現代史を戦争という観点から捉えていることです。たしかに、日本の近現代は戦争の歴史といっても過言ではありません。近代日本にとって、初の対外戦争となった日清戦争にはじまり、大国ロシアを打ち負かした日露戦争と続き、満州事変、日中戦争、そして太平洋戦争……。日本近代史を駆動していたのは、戦争でした。書店に行くと、日本の戦争を扱った書籍がたくさん目につきますが、その多くは太平洋戦争を扱ったものです。しかしながら、太平洋戦争の中身について考えるとき、満州事変や日中戦争を切り離すことはできません。そして、満州事変と日中戦争についても、日清戦争や日露戦争と切り離して考えることはできません。本書の着眼点は、日清戦争から太平洋戦争までの歩みを、戦争という一本の軸として眺めてみるということです。そのような視点を取り入れたとき、日本近現代史の姿が鮮やかに浮かび上がってきます。

戦争を考えるということは、同時に社会を考えるということでもあります。戦争という非日常が出現することによって、さまざまな社会の矛盾や課題が浮かび上がってきます。たとえば、日本では日清戦争終結から二年後の一八九七年に、民権運動家の中村太八郎や木下尚江たちが、普通選挙期成同盟会を創設しています。なぜ、戦争直後にこのような民権運動が出て来たのでしょうか。それは、日清戦争勝利によって獲得した遼東半島を三国干渉(ロシア、ドイツ、フランス)によって、返さなければならなくなった事態に民衆が憤慨したからでした。国民が血を流して獲得したものを弱腰の政府のせいで勝手に変えてしまった、政府にそういう勝手な行動をさせないためには、普通選挙が必要だ、という流れです。当然ですが、戦争というのは、政治家や軍人だけがやるものではありません。民衆による戦争支持もまた重要な要素でした。特に第一次世界大戦以降の戦争の特徴は、国家の存滅をかけた総力戦です。総力戦時代にはおいては、生活、学問、芸術など、民衆の生活と深く結びついたものが、戦争のために利用されました。戦争の近現代史のなかで、民衆は何を考え、どう行動したのでしょうか。そういう問題についても考えてみましょう。

あの戦争は何だったのか、という問いは現在でもたびたび議論になります。歴史家による論争だけでなく、小説や映画の主題にもなります。学校では、戦争を学ぶために様々な取り組みを行っています。このことは逆に、いま戦争を学ぶことがいかに難しいかということの証左でもあります。戦争を知る世代の多くが鬼籍に入り、生の戦争体験を継承する機会が少なくなってきています。戦争体験を風化させないためにも、いま一度、戦争を知らない現役世代の私たちが、あの戦争は何だったのかと考える必要があるのではないでしょうか。本書では、講義をする加藤教授に向って、学生たちが実にさまざまな質問を投げかけます。加藤教授はどの質問でも真剣に受け止め、学生たちの素朴な問いに向き合っています。リベラルの授業でも同じように、疑問に思ったことを先生にぶつけて、一緒に考えてみましょう。歴史を議論する楽しみを、是非授業で味わってください。

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