リベラル書籍紹介#28『動物農場[新訳版]』ジョージ・オーウェル
この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。
今回は、中学3年生が4月期で使用した『動物農場[新訳版]』です。
この社会が生きづらい。
みなさんはそういうとき、どうしましょうか?
先日統一地方選挙があったため、選挙で変革を訴えている候補者に投票して……と思った人も多いかもしれません。
しかし、選挙という制度がない体制ではどうでしょうか。
自分たちの苦痛を訴えるすべがない。
それどころか為政者は自分たちを虐待することを当然とみなしている
――本作はそのような状況下に置かれた農場の動物たちが、農場主であるジョーンズ氏に対して反乱を企てる場面から始まります。
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私たちの労働の産物を奪う人間がいなくなれば、豊かで自由な暮らしを送ることができる。
そのように思い始めた動物たちは、ある日自分たちに鞭を振るったジョーンズ氏に反撃し、驚いて逃げ出したジョーンズ氏をそのまま追い立てて、農場から追い出してしまいます。
こうして反乱は成功し、動物たちは「動物農場」と改められた農園で「動物主義」を体現した「七戒」を守って幸せに暮らしていくかに見えました。
しかしそうはいきません。
歯車は少しずつ狂っていきます。
ある日農場の管理を司るブタたちによってミルクとリンゴが彼等だけで消費されていたことが発覚しました。
動物たちは不満に思うものの、さもなくばジョーンズが戻ってくるのだから!と訴えられて納得します。
その後、リーダー格の2頭のブタ「ナポレオン」と「スノーボール」が何につけても対立していることにみなが気づき始めます。
悉く意見の合わない2頭は風車の建設を巡ってもやはり反目しあい、ある日曜の朝……。
すでに予想されている通り(あるいは結末をご存じの方も多いかもしれません)、動物たちは幸せになれません。
ですから本作を読むたびに私は考えてしまうのです。
動物たちは豊かで自由な生活を望んでいたのに、なぜこのような状況に陥ってしまったのかしら、と。
それは彼等が批判的精神を持たなかったからでしょうか。それともブタたちが権力欲に取りつかれてしまったからなのでしょうか。
本作は旧ソ連を批判した諷刺小説として知られますが、
フランス革命期における恐怖政治や連合赤軍による山岳ベース事件も併せて考えると、
この農場で生じた一連の出来事はただ旧ソ連においてのみ生じた出来事ではなく普遍的に引き起こされうる事態であり、その意味で人間の有するある一面を余すところなく照射していると言えましょう。
そう思うと「動物農場」を対岸の火事と済ませることはできないのではないでしょうか。
実際、私たちの誰が、言うべき事を言えなかったという苦い経験から、あるいは権力を振るったときの陶酔感から自由になれましょうか
――だからこそ、言うべきことをきちんと言うという、あるいは相手ときちんと向き合うという訓練を生涯にわたってし続けなくてはならないのです。
生徒たちも身につまされることがあるのか、考え考え発言していました。
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