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リベラル書籍紹介#44『悪意の心理学 — 悪口、嘘、ヘイト・スピーチ』 岡本 真一郎

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。


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今回は中3生夏期で使用した『悪意の心理学 — 悪口、嘘、ヘイト・スピーチ』です。

『悪意の心理学 — 悪口、嘘、ヘイト・スピーチ』 岡本 真一郎(中公新書、2016)

ヘイト・スピーチの裏に潜む差別意識

みなさんは「ヘイト・スピーチ」という言葉をご存知でしょうか。

「ヘイト・スピーチ」とは、特定の人種的、民族的集団の社会的評価を損ねるために行われる攻撃的なスピーチのことであり、具体的には社会の中のマイノリティへの、差別的表現を用いた罵倒行為等が念頭に置かれています。

日本では在日外国人に対して行われてきた歴史があり、2016年にヘイト・スピーチを規制するための法整備がなされました。ただ、今年に入ってからも埼玉県でクルド人排斥運動が起こるなど、現在でもヘイト・スピーチは後を絶たないところです。

ヘイト・スピーチの根底には特定の人々に対する差別意識があるのは論を待ちませんが、そもそも「差別」とはどのようにして生じるものなのでしょうか。

書籍に即して見てみましょう。まず、我々は特定の集団の人々を、各々の個性を無視しひとまとめにして特徴づけることが往々にしてあります。

ひと頃流行した、「B型の人は自由でマイペースだ」などという血液型性格診断はその分かりやすい事例といえるでしょう。これを「ステレオタイプ」といいます。

この「ステレオタイプ」に感情的要素が加わると「偏見」になります。すなわち、「B型の人は自由でマイペースだから気に食わない」などという思いは「偏見」なのです。そして、「B型の人は自由でマイペースだから一緒にいないようにする」などというように、選択や意思決定などの行動までもがなされるとそれが「差別」ということになります。

ヘイト・スピーチに関しても、このような形で在日外国人に対し何らかの「ステレオタイプ」が付与され、それに基づく「偏見」が抱かれたうえで罵詈雑言を浴びせるという「差別」に至っている、と考えることも出来るでしょう。


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身近な「悪意」を考える

この本においては、世の中の様々な場面で表出する「悪意」について、以上のような形で社会心理学、言語心理学的な観点からの分析が行われていきます。先述したように「ステレオタイプ」的なものの見方は誰しもある程度はしたことがあるはずです。

また、説明が回りくどい人に対し「本当に説明が丁寧ですね」と皮肉るなど、表面的にはポジティブな意味を持つ言葉を用いつつ批判的な意図を相手に向けた(向けられた)経験がある人もいることでしょう。

このように、「悪意」は我々にとって非常に身近なものであると考えることができます。

冒頭で紹介したヘイト・スピーチについては、インターネットとの関わりが深いといわれています。

皆さんもご存知だと思いますが、インターネットでは互いの顔が見えない状況でやり取りが行われ、発信者が誰かを特定することが困難であるため、攻撃的な発言を行ってもその場で反撃を受ける可能性が低いといえます。加えて、非対面の状況では相手の苦痛を直に感じ取ることもありません。

以上の要素がヘイト・スピーチでなされるような過激な発言を助長すると考えられるのです。

また、インターネットでは自分と同じような意見の集まるサイトにばかり注目するようになりがちであるため、極端な意見が更に先鋭化してしまう傾向も見られます。そのような意見がコピー&ペースト等によって拡散されることもヘイト・スピーチの温床になり得るのです。

ここまで述べてきた状況にあることをふまえると、我々が日常生活において「悪意」に直面する、または意図しない形であっても「悪意」を向けてしまう機会は少なくないと考えることができそうです。

この本を読み、「悪意」について根本的な部分から理解することを通じ、いかにして「悪意」に対処していくべきかを是非検討してみてください。


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