【国語力を高める100冊】 #11「近代」/『近代性の構造』今村仁司 講談社選書メチエ
みなさんは、「近代」にどのようなイメージをお持ちでしょうか。生徒にこの質問をすると、「自由」「文明」「個人主義」といった言葉がよく出てきます。実際、私たちは様々な自由を享受し、文明の利器に囲まれ、個人の選択が尊重される時代に生きています。まさに私たちは近代社会の恩恵を受けながら、生きていることが分かります。
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今村仁司『近代性の構造』(講談社選書メチエ)は、「近代性の根源」として、企ての精神を析出しています。近代は、現状を変革するために計画を立て、理想を現実化するために人々に働きかけます。将来に向けて計画を立てるということは、当たり前のことかもしれませんが、こうした企ての精神は、近代になって生まれたものです。このことは、時間の概念も変えました。前近代の時間観念は、循環するものでした。時間は、神が定めた自然のリズムに合わせて巡り、回帰していくものであって、そこには発展や前進という概念はありません。しかし、企ての精神が駆動する近代は、時間を直線的にします。なぜなら、計画をするということは、未来を先取りするということであり、その未来との関係において今を捉えるからです。これは言い換えれば、近代になって、人類は「歴史的」な存在になったということです。歴史には、当然、過去と今があり、そしてこれから進んでいく未来があります。人類の歴史は、この直線的な時間を歩む発展の歴史として位置づけられるわけです。先ほど出てきたキーワード「自由」、「文明」、「個人」は、この直線的な時間認識を土台にしています。人は何事かを成し遂げるために「自由」を求めますし、未開を脱して、「文明」へと向かおうとします。そして、自らを取り巻く因習を拭い去って、「個人」として成長する。これらは、すべて直線的な時間認識の上に成立する価値観なのです。
こうした近代の思想を進歩史観とも言いますが、まさに近代の直線的な時間認識が生み出したものでした。家族、学校、工場、企業、政府等、いかなる組織でも、この企ての精神を内面化しています。企ての精神がないと、組織は存続できません。この近代性の根源は、まさに私たちの今を規定しています。
ところで、人類は本当に進歩しているのでしょうか。近代文明の所産である科学や産業は、私たちの生活を間違いなく豊かにしましたが、2020年にはコロナ・パンデミックが世界中を席巻し、2022年にはウクライナ戦争がはじまりました。人類は、いまだに感染症や戦争を克服できているわけではないという厳しい現実もあります。むしろ、核兵器や大量破壊兵器の開発によって、むしろ、人類は絶滅のリスクすら負っているという意味では、人類史上もっとも愚かなのは、現代の我々なのかもしれません。もちろん、スティーブン・ピンカーの『21世紀の啓蒙』(草思社)のように、人間の歴史を進歩として全面的に称賛するという見方もあります。しかし、入試で出題される評論文においては、豊かさをもたらす近代の裏側に貼り付いている負の側面に言及したものが圧倒的に多いということは知っておいた方がいいでしょう。それは、現代社会が、格差、ポピュリズム、人種差別、環境破壊といった問題によって、どんどん息苦しくなっており、これらは近代の論理が生み出したものではないかと考えられているからです。そういう意味では、近代を考えるということは、「今」を考えるということでもあります。
さて、前回の記事(#10「教養」)で、入試現代文を解く上で「教養」を身に付けることが大事だと述べました。評論文の筆者と問題意識を共有するためには、その問題意識が前提としている知識(=教養)が必要だからです。では、具体的にその「教養」の中身とは何か。少々乱暴に言ってしまえば、入試現代文で必要な教養とは、「近代に関する思想、文化、制度についての知識」と言っていいでしょう。近代に関する知識は知っていれば知っているほど、有利です。また、そうした教養の土台があることで、もっと主体的に文章を読むことができるようにもなります。次回以降、近代に関する様々なテーマを取り上げながら、私たちの生きる時代について、根本的に考えていきましょう。
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