【国語力を高める100冊】 #10「教養」/『教養としての大学受験国語』石原千秋 ちくま新書
大学入試で出題される評論文は、基本的には、「である」調で書かれています。#4「話す」(『日本語からの哲学』)でも取り上げましたが、文体としての「である体」の特徴は、表現主体の一人称に読み手を同化させることで、知の共同体の構築を目指すことでした。そして、当然ながら、この知の共同体に参入するためには、書き手と問題意識を共有していなければなりません。たとえば、「無意識の発見は近代的主体への挑戦だった」という文章を目にしたときに、辞書的な意味でのみ理解する場合と、近代思想に関する背景知識の中に落とし込んで理解する場合とでは、読みの深さが全く違ってきます。つまり、知の共同体に参入するためには、教養が必要なのです。
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『教養としての大学受験国語』(石原千秋 ちくま新書)は、まさにこの教養という視点に立った、入試現代文の解説書です。著者は、早稲田大学教授である石原千秋です。大学受験国語を突破するためには教養が必要だ、というのが本書の主張ですが、アカデミズムの人間が、このような本を書いた意味は非常に大きいでしょう。石原氏は、「はじめに」のところで、次のように述べています。
石原氏は、実際に入試問題を作ることもあるそうですが、「これだけのことは身につけて入学してほしい」という言葉には出題する大学側の本音が出ているでしょう。つまり、現代文の試験とは、正確な読み取りの技術だけでなく、一定の教養を試す科目でもあるということです。言い換えれば、現代文の試験とは、知の共同体に参入する資格があるかどうかを問う、そのような試験だとも言えるわけです。入試の現代文で問われるテーマは、だいたい決まっています。合理主義/科学技術/国民国家/ナショナリズム/資本主義/規律権力/監視社会/社会契約論/民主主義/ポピュリズム/歴史修正主義等のテーマであり、これらは広く人文知と言われるものです。
文章を読むということは、あらゆる外部情報を排除し、目の前の活字を虚心坦懐に読むことだと思いがちですが、先ほども述べたとおり、評論文を読む場合、知の共同体に参入するために書き手が想定する読者レベルにまで自分を高めていかなければなりません。書き手の議論についていくためだけの人文知的な教養が必要なのです。こうしたテーマについて、一体どういうことが言われているのか、何が問題なのかを少しでも知っていた方が、文章はもっと読みやすくなります。石原氏は、読むために必要な教養のことを「思考のための座標軸」と呼んでいます。
ところで、この本は、二〇年以上前の本です。そのため、昨今の人文知については当然ながら、フォローしていません。二〇〇〇年以降、人文知は、大きく進展しました。人新世、ビッグデータ、ルッキズム、エクスポジション、パンデミック。そういった最新の思想については、この本では当然ながら、取り上げられていません。この連載では、二〇〇〇年以降に論点となった人文知の最新のテーマについても取り上げていきたいと思っています。
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