数学こぼれ話#36 ~通過領域を徹底攻略!(その2)~
皆さん、あけましておめでとうございます。
Y-SAPIX数学科がお届けするこぼれ話では、高校数学を一歩踏み込んで理解するためのヒントをお伝えしています。前回に引き続き、入試の頻出テーマである「通過領域」について、見ていきましょう。
さて、前回の記事(数学こぼれ話#35)では、順像法(自然流)の考え方を使いながら、次のような【問題】を解きました。
今回は、この問題を逆像法(逆手流)という第二の手法で扱ってみようと思います。
順像法(自然流)に比べると少し抽象的な感じのする方法ですが、強力な考え方ですので、ぜひ理解してほしいと思います。
〇まずは感覚から
逆像法を使うときに大切なのは「求めたい結果は、存在が確定している」という意識です。今回であれば、「$${t}$$を与えて直線$${l_t}$$を引く、これを繰り返す」という操作は誰が実行しようと同じなので、我々が求めたいと思っている通過領域$${D}$$は(残念ながら真の姿はまだ見えませんが)、$${xy}$$平面内で確定した存在のはずです。「そんなの当たり前でしょ」と思うかもしれませんが、この「確定しているものを浮かび上がらせよう」という意識が、逆像法を使う上では大切です。
では、まだ見ぬ領域$${D}$$を浮かび上がらせるにはどうしたらよいでしょうか?今回の領域は$${xy}$$平面内にあるので、「点$${(x,y)}$$が領域$${D}$$に含まれるための$${x,y}$$の条件」が分かれば、自動的に領域$${D}$$は判明します。例えば(大嘘ですが)、もし仮に「$${(x,y)∈D⇔ x^2+y^2=1}$$」であれば、領域$${D}$$の正体は「単位円」ということになりますね。
〇もう少し進めると…
上の議論をもう一段階深めるために、まずは2つの<問題>を考えたいと思います。授業でもよくやるのですが、「理由」を含めてYES or NOで答えてみてください。
どうでしょうか?この場合、YES or NOを判断するには「直線$${l_t}$$がその点を通るような実数$${t}$$が存在するか?」を確認するのが良さそうです。このあたりの感覚をお伝えするために、簡単な図を用意しました。
言うなれば、直線が動いていく様子をビデオカメラで撮影したときに、「この瞬間(=時刻$${t}$$)に直線が通った!」と言える点だけが、通過領域$${D}$$に含まれるということです。裏を返せば、一度も直線の一部になったことがない点は、通過領域$${D}$$に含まれるはずがありませんよね。
結局、$${0=2t・1-t^2}$$は実数解$${t}$$をもつので、<問題1>は「YES」です。一方、$${2=2t・0-t^2}$$は実数解$${t}$$をもたないので、<問題2>は「NO」ということになります。
〇一般化してみよう
上の「実験」をふまえると、次のような言い換えが成り立つことが分かります。
(*)の部分は、実数の組$${(x,y)}$$を与えるごとに真偽が定まるので、「$${x,y}$$の条件」です。(このあたりの言葉遣いは、以前の記事(数学こぼれ話#5)で扱っています。)
であれば、一応は文章で書かれてはいるものの、もっとシンプルに「$${x,y}$$だけの式」で書けそうなものです。実際、(*)は「$${t}$$の2次方程式$${t^2-2xt+y=0}$$が少なくとも1つの実数解をもつ」と言っているだけなので、判別式を考えることにより、$${{(-2x)}^2-4・1・y≧0}$$すなわち$${y≦x^2}$$と同値です。まとめると
ということになり、前回の記事(数学こぼれ話#35)で求めたものと同じ通過領域$${D}$$が出てきました!
要約すると、逆像法は「値域とは、定まり方と定義域で決まるものである」という当たり前のことを突き詰める手法です。今回の例であれば、「直線$${l_t}$$を引く」というのが「定まり方」で、「$${t}$$は実数」というのが「定義域」です。
それでは、次の数学こぼれ話でお会いしましょう!
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