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割り算の本来の意味①【コラム:算数と数学の間で】

最近ネットを見ていたら立て続けに「なぜ分数の割り算は逆さにして掛けるのか」「なぜ0で割ってはいけないか」という記事が目に入りました。その記事やコメントがかなり気になる内容でしたので、こちらのコラムを書きました。
保護者の方向けですが、■印をつけた部分はお子さまと一緒に読んでいただくことが十分可能だと思います。


画像提供:PIXTA

割り算の本来の意味(定義といいます)…■

上の二つの疑問、実は一つの理解から簡単に説明が可能です。それは「割り算とは掛け算の逆である」という理解です。「引き算が足し算の逆である」のと同じです。

「そりゃそうだよな。で、$${\LARGE\text{逆って何}}$$?」

…ですよね。

掛け算の逆は、次のように考えてみてください。
「÷Aのあと×Aをすると元に戻る(または×Aのあと÷Aをしても元に戻る)」
例えば15÷5であれば、5をかけて元に戻る(15になる)ような数が知りたいわけです。 

このように考えられれば「なぜ分数の割り算は逆さにして掛けるのか」については

×$${\text{\(\frac B A\)}}$$÷$${\text{\(\frac A B\)}}$$で元に戻るけど×$${\text{\(\frac B A\)}}$$×$${\text{\(\frac A B\)}}$$だって元に戻るんだから÷$${\text{\(\frac B A\)}}$$と×$${\text{\(\frac A B\)}}$$は同じ作業。

以上で説明は終了です。

同じように0で割ってはいけないルールがある理由は

$${\underline{\text{□÷0}}}$$ ×0は□に戻らない。

からです。もし□÷0に何か値△があれば、△×0をしたら元に戻る(□になる)はずだけど元に戻らず0になってしまう。このように何か値がある、とすると困るので0で割らないルールにするわけです。

(ちょっと細かく…じゃあ、□が0だったら戻るんじゃね?と考えた人、素晴らしいです。0÷0がダメな理由は0以外÷0と少し異なります。0÷0=1としても、0÷0=2としても、何だったら0÷0=$${\frac{200}{3}}$$としても0をかけたら0に戻ってしまう、つまり「0÷0の結果は何でも良い」という結論になってしまいます。であれば0÷0も計算してはダメとしておいた方が良いですね。

さらに余談ですが「(-A)を引く」すなわち-(-A)と「Aを足す」すなわち+(+A)が同じであることも同様に説明可能です。どちらもこの後+(-A)をすると元に戻りますよね?じゃあ同じ作業です。)

冗長な説明が多いのはなぜ…?

これだけで話は終わってしまうのですが、もう少し踏み込んでみます。割り算を掛け算に直す説明が冗長になってしまったり、0で割る話の際に「無限」に踏み込んだり、困ったことになってしまうケースが多いのですが、このときにありがちな説明は「□で割るのは、□が何個入っているかを求めること」というものです。この「何個分」という考え方が実は曲者です。
「何個分」というのは日常使う数の世界では割り算をそのように捉えられる、というだけなのです。

もちろん、「何個分」というとらえ方は日常使う数の世界で、非常に重要なのですが、数学を学んでいくと数の世界が沢山みつかります。それら世界に掛け算・割り算が存在する場合でも、掛け算・割り算は必ずしも「何個分」では解釈できませんが、割り算は必ず「掛け算の逆」として位置づけられます。無限は必ずしも存在しませんが、0を掛けると必ず0になります(だから0で割れません)。

日常的に使う数の世界のための「何個分」で全部説明しようとすることが冗長になってしまう原因なのではないでしょうか。

次の章では日常的に使う数の世界を改めて掘り下げ、さらに他にどんな世界があるのか紹介をしていきたいと思います。

日常的に使う数の世界~整数に限定された世界~…■

ここで爆弾発言をひとつ。割り切れないとき、余りを出します。例えば
14÷4=3…2です。

でも、これ本当に割り算ですか?

少なくとも、前回述べた「掛け算の逆」では全くないですよね。
これ、実は掛け算の逆の「代用品」でしかないのです。代用品にも「割り算」という名前がついており、実は割り算には二つの意味があるのです。

掛け算の逆の「代用品」としての割り算…■

余りを出す方の割り算は、「数を整数に限定して考える」など掛け算の逆がいつもできるわけではない場合に、掛け算の逆に近いことができないか、と考えてできた代用品にすぎません(1,000円を3人で割り勘することはできませんよね)。

「割り切れない(逆に戻せない)」ときに掛け算の逆を行えるように、割った数より小さい数(余りですね)を$${\LARGE\text{取り除く}}$$」…(※)

この作業が割り算の代用品として適切だよ、ということを示すために「割る数の何個分か」という見方が活用できます。「14個のお饅頭を4個ずつに分けてみようか。2個余るからこれを取り除くと、$${\LARGE\text{掛け算の逆が可能}}$$になるよね」というわけです。

なお、これが代用品に過ぎないことは、別の代用品でも構わないことからも分かります。(※)を

「割り切れない(逆に戻せない)」ときに掛け算の逆を行えるように、割った数より小さい数を$${\LARGE\text{加える}}$$」…(※※)

としても良いはずです。
割り勘の例だと、こちらの代用品を使わないとお金払えないじゃないですか。
(1000+2)÷3=334より334円ずつ集め、2円はレジ横の小さい箱に入れてください。

「なんだったら四捨五入的に決める…半分より余りが小さければ取り除き、余りが半分以上なら不足分を加える」…(※※※)

という手もありますが、キリがありませんね。あくまでも決め事、ということです。
ただ、(※)以外を採用すると日常の世界における筆算が限りなく面倒になります。何か具体的に筆算してみてくださいね。

日常的な数の世界で、割り切れる場合には確かに「掛け算の逆」は「何個分なの」と解釈できますが、しつこいようですが掛け算の逆を「何個分なの」と考えること$${\LARGE\text{も}}$$できる、というだけで、決して割り算の意味(定義)ではありません。

▲▽▲ここからは小学5・6年生以上の方向け▲▽▲

この割り算と代用品の違いは、普段はあまり意識されませんが、時々顔を出します。

例えば、同じ「整数の性質」の単元にある問題でも割り算と代用品が入り混じっています。

4で割っても5で割っても3余る最も小さい二けたの数を求めなさい

という問題なら、当然代用品の方で考えますが、

1×2×3×4×5×6×7×8×9×10を繰り返し2で割ると何回割り切れるか

という問題なら、代用品の方でとらえると実際に割ってみるしかありませんが、掛け算の逆としてとらえると単に$${\frac{1}{2}}$$を何回掛けると約分できなくなるか、という問題になります。数の性質の問題でも「割り切れる」問題は実はこちら(掛け算の逆)のケースが多いです。余りを考えるときはほぼ代用品確定なのに…。

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さて、ここまでは整数だけの世界で使われる割り算(の代用品)についてお話してきました。
次の章では、これに少数と分数を加えます。

小数や分数が加わった世界(有理数といいます)…■

前章は整数だけの世界で使われる割り算(の代用品)についてお話してきました。
これに小数や分数が入る世界では、必ず…いや、0で割る以外であれば、割り算(掛け算の逆)が可能です。
この世界では、整数の世界で考えた「何個分」を分数や小数に広げ、分数の個数や小数の個数を考えることが可能です。これが皆さんがあまり好きではないアレなのですが、分かりますか?

ピザが$${\frac{1}{3}}$$枚($${\frac{1}{3}}$$個分)

そうです、割合ですね。~の$${\frac{1}{3}}$$ではなく、~$${\frac{1}{3}}$$個分であるとか、2割引きではなく0.2個分の値段を引くとか言ってくれればよいのですが、習慣的な言葉遣いに合わせ、この個数の部分が消えてしまったり表現を変えたりするので、分かりづらく感じられます。

さて、割合で割り算を使用するときはこの「何個分」を強く意識すると少し分かりやすくなります。
1個200円の饅頭は1,000円で何個買えるかが知りたいときは
1,000円は200円何個分と考えて
1000÷200=5で5個分と考えることになります。

であれば、80円は200円何個分(何%)?と聞かれても、80÷200=0.4個分(40%)とすればよいのですよね。

また、5個で600円なら1個でいくら?
と聞かれれば、当然600÷5=120円 とすると思います。
では、何かの$${\frac{2}{3}}$$(個分)が300円なら何か(1個分)は何円か、と聞かれれば
300÷$${\frac{2}{3}}$$=450円ですよね。

(ここまで読んだ人は1個分に「戻すんだから」$${\frac{2}{3}}$$で割る、という方が分かりやすくなっているかもしれません。)

割合の3用法のうちの2用法が割り算ですが、こんな風に個数で理解しておくと少しスッキリすると思います。さらに、割合同士の足し算引き算ができたりできなかったりするのも、割合=個数と考えれば当然に思えてきます。太郎君のお小遣いの$${\frac{1}{2}}$$とお父さんのお給料の$${\frac{1}{3}}$$を足しても何かの$${\frac{5}{6}}$$(個分)が出てくるわけではないのは、ミカン3個と机2個を足さないのと同じで当然ですよね。

割合は個数の拡張なのだから個数で説明すれば諸々うまくいくのですが、教科書などでは逆に「割合=くらべる量÷元にする量」という$${\LARGE\text{呪文}}$$を使って、「掛け算の逆」で説明しようとしてしまっています。しかしこれは、説明が回りくどくなるだけではなく、割合同士の和や積を考えることを難しくさせてしまう可能性があります。
「速さ」は「確率」などは呪文のせいで分かりづらくなる典型です。これらは機会があれば別に扱います。

割り算や掛け算になおす話や0で割る話とは逆の意味で「説明するステージを間違えている」のではないでしょうか。

このように日常的に使う数の世界では、掛け算や割り算を考えるときに「何個分」と考えることは確かに非常に有効です。
しかし、「日常で使う数の世界における掛け算・割り算」という掛け算・割り算があり、全てを「何個分」ととらえようとするのは有効ではない…と言いたいのですが、そもそも日常的に使う数の世界以外に、どんな数の世界があるのでしょう?
次回に続く…

(Y-SAPIX 山口拓司)

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