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模試・教材制作の現場から【リベラル編】

討論を通じて論理的思考力を育む
オリジナル講座「リベラル読解論述研究」


受験生にとって模試と教材は、志望校に合格するための重要なサポートツールです。Y-SAPIXではそれらをどのように制作しているのでしょうか。今回は、厳選された課題図書を読み、討論を通じて論理的思考力を育むオリジナル講座「リベラル読解論述研究」にスポットを当てます。その教材制作のポイントや授業で大切にしていることについて、Y-SAPIX東大館リベラル読解論述研究科の與那覇文哉先生に聞きました。

Y-SAPIX 東大館 リベラル読解論述研究科 與那覇文哉

自分でことばを探し、説明する
その経験こそがまず重要に

Y-SAPIXが中1生から高校生まで展開している「リベラル読解論述研究」は、一冊の良書を題材に、受講生同士が討論を通じて論理的思考力を育むオリジナル講座です。授業はアクティブ・ラーニング型で行い、「読む力」「書く力」「話す力」「聞く力」を総合的に伸ばしていきます。
 受講生に求められるのは次の3点です。①課題図書をあらかじめしっかり読み込んで授業に臨む。②授業では読み取った内容をベースに受講生同士で討論し、他者の価値観や考え方を知ることで、より高度なものの見方を獲得する。③内容の理解をさらに深めたうえで、自分の意見をわかりやすく小論文にまとめる。
 思考力は大学入試改革のキーワードの一つですが、わたしたち人間は何かを考える際にはことばを用います。「リベラル読解論述研究」では、その「ことば」を駆使して考える力をつけるために、どのような姿勢で授業を行っているのでしょうか。
Y-SAPIX東大館リベラル読解論述研究科の與那覇文哉先生は次のように説明します。
 「この授業で最も避けたいのは、誰かに先に意見を言ってもらい、それに乗ってしまうこと。これではその受講生が何も考えていないに等しいからです。受講生には自分が最初に意見を言わなければ駄目だと指導しています」
 一般的に、中1くらいの年齢では、人前で意見を述べることを恥ずかしがり、進んで挙手することはあまりありません。しかし、與那覇先生はこうも話します。「何度も発言を促していくうちに手を挙げるようになっていきます。むしろ、まずは挙手し、発言内容はそれから考えるくらいでちょうどいい。最初に意見を述べる怖さと向き合うなかで、みずからことばを探し、説明の仕方を考えているときが最も頭を使っていると考えられます。その経験が重要なのです」

大学入試にも役立つテーマを
討論につなげるオリジナル教材

授業では課題図書を毎月ほぼ1冊ずつ読んでいくため、年間では10冊程度を読破することになります。その選定は、「リベラル読解論述研究」を担当する講師が集まり、合議の上で行います。選定基準は①内容がおもしろい、②大学入試で問われそうなテーマを扱っている、③テーマがバラエティーに富んでいる、の3点です。
 「たとえば、現在なら科学論、医療技術、国際社会、格差・貧困、少子高齢化といった社会問題を取り上げたものなどが選定の対象になりやすい。それに加え、最近の大学入試でよく問われているようなことから逆算し、その本にまとめられている知識を理解しておくと小論文や現代文で役に立つと考えられるようなテーマに絞り込んでいきます。中1・2生の場合、岩波書店や筑摩書房のジュニア向け新書からよく選びますが、基本的に大学入試を見据えてテーマを決めることに変わりはありません」
 しかし、課題図書を読み込むことは、「リベラル読解論述研究」では授業の出発点に過ぎません。その本質的な学びは、前述したようにY-SAPIXの教室で講師を交えて行う受講生同士の討論から始まります。このときに重要な役割を担うのが、講師が少人数のチームを組んで制作した教材(テキスト)です。具体的にはどのような内容になっているのでしょうか。
 「基本的な問いは二つです。本文中に記された現象と同じような事例(類比)を問うものと、本文中にある現象の背景や、その現象から派生し得る結果を問うもの(因果)です。数学と違って正解が一つだけとは限らないので、答えは受講生の人数分出てきます。答えが出そろったら、その類比や因果が正しいかどうかなどについて討論するわけです」
 このように、「リベラル読解論述研究」のテキストの特徴は、課題図書の内容を討論につなげるためのさまざまな問いを掲載している点です。ただし、「リベラル読解論述研究」は国語の授業でもあるので、内容を理解しているかどうかを試す設問も用意しています。
 「テキストは授業のたびに配布します。ですから、答えを事前に調べることはできません。授業中に初めて設問と出合い、その場で考え、ことばを見つけて自分なりの答えを組み立てていくからこそ、考える力が身につくのです。小学校での国語の授業は、誰かがことばを組み立てて書いた文章をしっかり読むことが中心ですが、『リベラル読解論述研究』の授業ではそれが逆転します。自分が文章を組み立てる、ロジックを構築する側に回るのです。そのプロセスを通じて、考える姿勢を身につけることが大事です。この考える姿勢はいずれ国語以外の教科にも波及していきます。『リベラル読解論述研究』では受講生の主体性を育てていくことを重視して、テキスト制作と授業展開を行っているのです」

課題図書ごとに仕上げる小論文で
論理的な文章作成をトレーニング

「リベラル読解論述研究」の成績は、課題図書ごとに仕上げる小論文で評価します。課題図書は基本的に毎月1冊選定されていますから、1か月のうち3回の授業で討論を行い、4回目の授業で小論文をまとめるのが基本的な流れです。
 受講生が書いた小論文は講師がきめ細かく添削します。筋の通った文章構成になっているか、因果関係を正確に理解しているかといった点を確認し、コメントを添えて返却します。さらに、漢字の間違いなどもチェックします。授業中に完成させることが基本ですが、時間切れになったけれど書き上げたいというときは、持ち帰りも認めています。
 「『リベラル読解論述研究』は、論理的にことばを組み立てることに加え、自分が述べた意見に責任を持つことの楽しさも実感できる授業です。実際に体験してみると、他人にわかるように説明することの難しさを痛感するでしょう。思考力を養うためにも、ことばを選び、組み立て、時には間違える経験を積み上げてみませんか」

この記事は2023年4月17日刊行『さぴあ』2023年5月号に掲載された記事のWeb版です。

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