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リベラル書籍紹介#48『QOLって何だろう — 医療とケアの生命倫理』小林 亜津子

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。

今回は、中学1年生が冬期で使用した『QOLって何だろう — 医療とケアの生命倫理』です。

『QOLって何だろう — 医療とケアの生命倫理』小林 亜津子(ちくまプリマー新書、2018年)

QOLって何だろう ~授業の現場から~

現代社会において、高度な医療技術が発達しつづけていますが、その技術が必ずしも人々の幸福や満足につながらないケースもあります。例えば望まない延命、デザイナーベビー、エンハンスメントなど、問題は多岐にわたります。

そのような諸問題について考えるY-SAPIXのリベラル読解論述研究の授業のなかで、今回は医学部の受験で頻出のテーマであるQOL・生命倫理について中学1年生の授業で扱った内容の一部を紹介します。

さて「QOL」という言葉を聞いたことはありますか?

Quality of life。「生活の質」がこの言葉の直訳になりますが、QOLは生命倫理を考える上で重要な言葉です。生きる本人にとっての「幸福」や「満足」を意味します。

例えば、余命3ヶ月を宣告された患者がいたとします。治療をすれば余命を1年延ばすことができますが、その治療には痛みや費用を伴うと言われた場合、あなたなら延命を希望しますか?

治療に痛みや費用が伴う場合、一定期間自分のやりたいことが出来なくなるためQOLは低下します。一方、延命することに重点を置く場合、延命できないこと自体がQOLを下げます。さらに、医師としては生命を救うことが責務ですから、患者に治療をすることが本来義務づけられています。

このような状況の時にあなたならどうするか。説得力のある答えがだせるかどうか。それが授業のポイントです。

このような問題を扱う場合、「正しい答え」というものは存在しません。あくまでも生徒自身がどのように考え、説得力を持って主張できるかが授業のテーマとなります。

実際の授業では、まずは生徒自身にとって「よく生きる」とはどういうことかを考えることからはじめます。そして書籍の内容を確認しながら、QOLに関する諸問題にふれていきます。そして、上記の問題や、Y-SAPIXの医学部コースでは医師を志している生徒も多いことから、医療者に課せられている「無危害原則」と「善行の原則」が対立した場合どちらを優先するかといった、医学部入試で実際に出題されたことのあるテーマを用いて議論を重ねました。

議論の一例として、「生命はその人個人のものであるため、同意書を書いてもらう等の制度を確立した上で、その人自身が望む方法を選択できるようにするべきだ」という意見に対して、「同意書などを書くことができない状態であったり、判断力に欠ける状態であったりしたらどうするのか。また、思考は時に変化するものであるため、常に同じ考えとは限らないので無効である」といった意見の対立が見られました。

このように、授業ではたとえ答えが一つに決まらない問題であっても、現実に起きていることに対して真摯に向き合い、書籍から知識を得ながら議論をすすめていきます。

生命とはそもそも誰のものなのか。いつから人間・生命ははじまるのか、などの問題も含め、「医学部受験に必要な知識だから」ということだけでなく、今後の人生においても必要な様々なテーマを扱っている授業、それがY-SAPIXのリベラル読解論述研究です。


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