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大学歴訪録#25 順天堂大学

基礎医学も臨床医学も
日本の医学をリードし続ける

健康関連の9学部を擁する順天堂大学は、「健康総合大学」を標榜する唯一無二の大学です。

その中核を成す同大学医学部出身で、2024年4月に学長に就任した代田浩之先生に、SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表がお話を伺いました。


始まりは蘭医学塾 日本医学に大きな足跡

髙宮 今回初めて日本医学教育歴史館におじゃましましたが、センチュリータワー17階からの眺望は素晴らしいですね。この歴史館はいつオープンしたのでしょうか。

順天堂大学 学長 代田浩之先生

代田 2014年4月10日です。ちょうど順天堂創立175周年の記念式典が行われた日で、天皇皇后両陛下(現・上皇上皇后陛下)のご親臨を賜るとともに、こちらもご視察いただきました。

髙宮 皇室とのご縁はどのように結ばれたのでしょうか。

代田 直接の結び付きは、本学の心臓血管外科教授(現・特任教授)である天野篤先生が、2012年に天皇陛下の心臓冠動脈バイパス手術を執刀されてからですね。

さらに歴史をさかのぼれば、戊辰戦争の際、順天堂第3代堂主・佐藤進が新政府軍の陸軍病院頭取に任命されたというご縁もあります。

髙宮 先ほど拝見した展示物のなかにも、菊の御紋の入った病院の旗がありましたね。

代田 当時、野戦病院に掲げられていた病院旗です。この時初めてわが国で「病院」という名称が使われました。

日本医学教育歴史館の展示資料は、16、17世紀の西洋の医学書、『解体新書』をはじめとする江戸期の医学書や解剖図、明治初期の学生の講義録など120点を数える。開館日は毎週木曜日、開館時間は13時〜15時、入館料は無料だが、要電話予約。

髙宮 貴学の根幹にあるのは、やはり医療と医学なんですね。

代田 本学の歴史は1838(天保9)年、学祖・佐藤泰然が日本橋薬研堀に蘭医学塾「和田塾」を開設したことから始まります。泰然はその後、千葉県の佐倉に移り、病院兼蘭医学塾の「順天堂」を開きました。第2代堂主の佐藤尚中は明治政府の招聘で門人を率いて東京に戻り、大学東校(現・東京大学医学部)の初代校長に、第3代堂主の佐藤進は東大医学部附属第一医院長・第二医院長になります。本学は東大医学部とも深い関わりがあるわけです。

取材時の様子
聞き手 SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表 髙宮 敏郎

世界88機関と提携し 国際化を強力に推進

髙宮 私はアメリカ留学で大学経営学を修め、“mission-centered”と“market-smart”という重要な二つの概念を学びました。「不易流行」、つまり「守るべきものを守るために、変えるべきことを変えていく」ということだと理解しています。貴学にとって守るべきは何だとお考えですか。

代田 本学は医療・医学からスタートしているので、「仁」を学是にしています。「人在りて我在り、他を思いやり、慈しむ心。これ即ち『仁』」です。本学には「仁」を備えた人材を育成する責務があり、「仁」に基づく医療を提供する責務があります。この学是は開学以来ずっと変わりません。

髙宮 逆に、ここ10年くらいで変わったことはありますか。

代田 それは「国際化」でしょう。本学はもともと蘭学から出発した教育機関であり、第3代堂主の佐藤進は日本のパスポート第1号を受領してドイツ留学を果たしました。本学の歴史はいわば国際化の歴史でもありますが、今日の医療・医学のグローバル化を受け、入試制度やカリキュラムのさらなる国際化を進めています。

医学部では国際的に活躍する医師・研究医を育成すべく、入試で外国人選抜、帰国生選抜、国際バカロレア/ケンブリッジ・インターナショナル選抜、研究医特別選抜の枠を設けました。さらに、2013年度から国際医学教育塾も開講し、学生、大学院生、初期臨床研修医を対象に、アメリカでの医師資格を持つ教員も指導に当たり、英語による国際レベルの臨床実習指導なども行っています。

さらに、全学部で英語教育を強化中です。新入生全員にTOEFL®を受験してもらい、1年後に再度受験。英語力がどれだけ上がったかを確認しています。

髙宮 1階にウクライナの写真が展示されていますが、ウクライナからも留学生を受け入れているのでしょうか。

代田 はい。ウクライナを支援するために私たちにできることを考えた結果、ロシアの軍事侵攻によって教育や研究を続けられなくなった医学生たちを支えようということになりました。ウクライナの学生6人、研修医6人、研究者3人の計15人を受け入れたのです。往復の航空券を本学が負担するとともに、本学の寮を無償提供し、授業料は不要、生活支援金として1人毎月6万円を支給しています。

髙宮 代田先生は今、事もなげにさらりとお話しされましたが、国際貢献という観点から重要な意味を持ちますね。学内でも大きな反響があったのではないですか。

代田 留学生を受け入れる現場スタッフの対応は従来どおりだったと思いますが、学生たちは大いに刺激を受けたようです。ウクライナで起こっていることを自分事として受け止めるようになり、世界に向けて視野が相当広がったと感じています。今回のケースはウクライナの人たちよりも、むしろ本学の学生や教員たちの方が得るものは大きかったかもしれません。

髙宮 貴学は海外大学との連携にも積極的ですね。

代田 現時点で28カ国・地域の88機関と提携しています。また、海外大学との連携強化のため、2021年に国際共同研究機構を立ち上げました。現在、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学、カリフォルニア大学デービス校、中国の北京大学、タイのマヒドン大学などと連携体制を確立しており、各大学と共同研究や人材交流を進めています。

これからはデジタルが医療を変えていく

髙宮 代田先生が今、学長として最もチャレンジしてみたいのはどんなことでしょうか。

代田 学長としてというより、一循環器内科医として、あるいは一個人として大いに興味を抱いているのがデジタル医療です。オンライン診療や遠隔モニタリング、AIによる画像診断など、最先端のデジタル技術がこれからの医療の在り方を大きく変えていくことは間違いありません。

髙宮 代田先生は特にどのような点に期待されますか。

代田 AIは医療に限らず、あらゆる分野のワークフローを劇的に改善してくれると期待しています。私たちの世界はこれからの5年10年で大きく変わると思います。

例えば、電子カルテのシステムに生成AIが入ることでサマリーが簡単に作れるようになるなど、業務が一気に効率化します。診断面でも、医師とAIが協働することで安全性と精度が飛躍的に高まるでしょう。

髙宮 そういったデジタル技術の進化は今後の医学教育にどのような影響を与えるのでしょうか。

代田 医師が患者さんと直接触れ合う領域、例えば問診や聴診、医療面接時のコミュニケーションなど、基本として学ぶべきところは恐らく変わらないでしょう。ただし、「学生に医学をいかに効率良く学修させるか」という教育システムについては、デジタル技術で大きく変わっていく可能性がありま
す。現にCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックを契機に、オンライン授業の普及などで医学教育も大きく様変わりしましたから。

医学部1年生は寮生活 国家試験対策も万全

髙宮 貴学には、医学部1年生は1年間、学生寮で生活するというユニークな制度がありますね。

代田 はい。医学部医学科の1年生約140人とスポーツ健康科学部の1年生約600人は全員、さくらキャンパスにある啓心寮で1年間の寮生活を送ります。スポーツ健康科学部にはオリンピック出場を目指すトップアスリートも多数在籍しており、医学部生とは全くタイプが違うので、互いに刺激し合い、それまで知らなかった価値観や考え方に触れることで、人間的に大きく成長します。また、協調性と高いコミュニケーション能力が身に付き、かけがえのない友情が育まれます。私自身も寮生活を送った1年間は人生の宝物になりました。入寮者は誰もがきっと貴重な体験をするはずです。

順天堂大学の学生寮である啓心寮は、千葉県印西市のさくらキャンパスにある。北寮、南寮、東寮、西寮A、西寮Bの5棟があり、共に女子寮の西寮Aは2017年、西寮Bは2021年に竣工したばかり。男子寮は2人部屋×8の16人ユニット、女子寮は2人部屋×9の18人ユニット。ユニットごとに1人ずつ2年生の室長が付く。寮費(光熱費込み)は年額男子26万7000円、女子29万7000円。布団リース代は年額1万4520円。食費は自己負担で、学生食堂の利用者が多い。門限は男女とも23時。家族も友人も寮内立ち入り禁止だが、室長に許可をもらえば外泊可。

髙宮 貴学の大きな特色の一つに、医師国家試験(国試)の合格率の高さが挙げられます。2024年は98・5%で、過去10年間・20年間の平均でも全国第2位を誇ります。その秘密は何ですか。

代田 学生と教員との距離が極めて近いことでしょう。本学医学部では全学年でクラス担任制を導入しており、医学部を6年間で卒業し、ストレートで国試に合格できるよう、教員が親身にサポートし続けます。また、学生同士が協力し合い、刺激し合う関係も功を奏しているようです。センチュリータワー13階には「勉強部屋」と呼ばれるスペースがあり、そこでは誰かが必ず国試対策の勉強をしています。それにつられて別の誰かが勉強を始め、分からない問題は質問し合うなどして、気付くといつの間にか「国試対策自習室」のようになっています。

髙宮 そうやってモチベーションが伝播していくところが素晴らしいですね。

代田 とはいえ、国試合格がゴールではありません。「国試をものともしない知性と感性、教養あふれる医師の育成を目指す」が私たちのモットーで、そのために重視しているのが卒後研修です。

実は、この卒後研修にこそ本学の強みがあります。本学は六つの附属病院を有し、総病床数3589床と日本最大規模を誇ります。卒後臨床研修の受け入れ体制は盤石です。今日の医療は高度に専門分化していますが、6病院はそれぞれ得意とする医療領域が異なるため、病院ごとに極めて専門性の高い研修を受けることができます。本部のある順天堂医院では日々最先端の医療が行われ、静岡病院は伊豆半島全域をカバーする救命救急病院として多くのドクターヘリを受け入れています。順天堂東京江東高齢者医療センターでは認知症にも対応する高齢者医療が施され、順天堂越谷病院はメンタルヘルスに特色があり、浦安病院と練馬病院は地域医療を担う拠点病院として機能しています。

髙宮 最後に、医学部受験を目指している読者にメッセージをお願いします。

代田 人生100年時代を迎えた今、時代の要請に応えてこの10年で5学部を新設した本学は、「健康総合大学」として時代の先端を走り続けています。その中核を担うのが、創立以来180年以上の歴史を持つ医学部です。COVID-19患者を最も多く受け入れるなど臨床医学で日本をリードしてきましたが、1年次から参加できる「基礎研究医養成プログラム」を設け、基礎研究で大学院に進むコースも用意しています。医学を総合的に学びたい人はぜひ本学の門をたたいてください。

■プロフィール
学長 代田だいだ 浩之ひろゆきさん
1979年順天堂大学医学部卒業。虎の門病院内科勤務。1987年順天堂大学医学部内科学教室・循環器内科学講座助手。1992年博士(医学)取得(順天堂大学)。1993年アメリカ・メイヨークリニック循環器疾患部門の客員医師兼研究員に。1995年順天堂大学医学部内科学教室・循環器内科学講座講師を経て、2000年同講座主任教授。2014年順天堂大学医学部附属順天堂医院院長。2016年順天堂大学大学院医学研究科研究科長・医学部学部長。2019年順天堂大学保健医療学部学部長。2023年順天堂大学大学院保健医療学研究科研究科長。2024年4月順天堂大学学長に就任。

■順天堂大学 オフィシャルサイト

この記事は2024年12月20日刊行『Y-SAPIX JOURNAL』1・2月号に掲載された記事のWeb版です。

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