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【解法解説】2024年度 東京大学 世界史

2024年度(令和6年度)の東京大学(前期)の世界史について、現役生対象の大学受験塾Y-SAPIXが徹底分析しました。


出題傾向

出題形式としては,前年度から大きな変更点がありました。第1問の大論述が20行(600字)から,12行(360字)・5行(150字)となりました。出題内容については,大問全体の難易度は昨年と同程度ですが,今まで以上に過去問からの出題が多かった点は特筆すべきでしょう。第2問の問(1)(a)(b)は最たる例です。2024年度は旧課程最終年度の入試でしたが,過去問研究と対策をきちんと積んでいればしっかり得点をできたはずです。

第1問 
20世紀後半における
新興独立国の政治動向・経済問題

35年ぶりに2問(12行+5行)に分かれての出題でしたが,読解力はさほど必要ありませんでした。1964年3月のウ・タント国連事務総長による演説の一部が引用されていますが,この史料文から読み取るべき内容は,次の問⑴・問⑵で指示された箇所だけでも十分です。1960年代における国際的な動向をどの程度まで学習して臨んだかで,得点に差がついたと言えるでしょう。ただ,対策として過去問演習にしっかり取り組んでいれば,「東大が20世紀後半の論述問題を出題する」ことは想定できたかと思います。

問⑴
1960年代のアジア・アフリカにおける戦乱や対立

史料2段落目で1960年=「アフリカの年」への言及がありました。そのあとで「ラテンアメリカ諸国における重要な変化にはずみ…」とありましたが,本問の対象外でした。指定語句に限定して叙述するならば,最低限以下の情報は必要になります。

コンゴ動乱(1960~65)は背景や対立構図も含めて,受験生の間でも差がついたのではないかと思います。というのも,コンゴはベルギーから1960年に独立を達成しましたが,その直後に生じたのがコンゴ動乱でした。そのため,コンゴ動乱はコンゴが独立を求めた戦争ではない,という点に注意が必要です。そのため,「宗主国ベルギー」と書いた場合に加点されない(減点される)かもしれません。さらに,設問文の「戦乱」はこの動乱を想起させるものでしょうが,解答にはしっかりと「内戦」と対立状況が伝わるように明記したいところです。また,1980年に開始されたコンゴ内戦を書かないよう気を付けましょう。

最後に指定語句以外で叙述できる要素を以下に挙げます。

※中東はおよそ西アジア(古代オリエント地域)とも重なる部分があり,第3次中東戦争は西アジア世界の事象と挙げることができます。

問⑵
1960年代における経済的問題の歴史的背景と国際連合の取り組み

演説で述べられている経済的な問題とは,3段落目2行目の「しかし…」以降の部分から読み取りましょう。「発展途上地域は深刻かつ持続的な低開発の状態に苦しんでいる」という主旨でした。

叙述の順序は「①歴史的背景→②経済的な問題→③国際連合の解決策」となります。

①歴史的背景
上記の発展途上とされる地域が成立した背景を考えればよいのです。およそ大航海時代(大交流時代)を契機として「世界の一体化」が進展した16世紀。そこから,17~18世紀には西欧諸国が「植民地獲得をめぐる競争」を繰り広げ,18世紀末以降から「(第1次)産業革命」が始動・拡大しました。その後,およそ1870~80年代からは帝国主義の時代となり,先進国が工業製品を輸出し,後進国が一次産品を輸出するという貿易の不均衡な構造が生まれました。ここまで振り返ってみても,200~300年間ほどの長い期間をかけた背景があることに気付けたでしょうか。設問の対象が1960年代(20世紀)なので,およそ16~19世紀の間における「キーワード」から抽出して,簡潔に述べましょう。

②経済的な問題
演説を読んでも,具体的に「それは貿易問題である」とは書かれていません。自ら読み取る必要があります。
注意点として,人口増加・生活水準の悪化という表現に引っ張られてはいけません。人口増加の原因やなぜ生活水準が悪化したか,という点について,世界史の学習内容から答えられますか?世界史の知識と史料内容をもってしても,歴史的背景まで想起することはできないのです。

さて。経済的な問題について,史料文の内容を読解していきましょう。例えば,「工業化された社会に比べても遅れているということは,農業などの第一次産業を主要産業とする(せざるを得ない)国家・地域のこと?」と類推できます。ここでモノカルチャー経済という経済的な問題を一例として想起できれば,歴史的背景も叙述しやすいです。

アジア・アフリカの新興独立国が「発展途上・低開発」にさせられている状態を想起し,その原因を貿易構造の不均衡(南北問題)に求めましょう。これらを説明する際には,「自由貿易」「モノカルチャー経済」などの語句も有用です。

1960年代は東西冷戦の対立が貿易問題としても浮上した時期でした。西側では西ドイツ・日本が国際市場で参入して,アメリカ経済に打撃を与えました。東側では,西側の資本主義体制に対抗して,ソ連・衛星国間とのコメコン(COMECON)による分業も進めていました。しかし,「アフリカの年(1960)」が象徴するように,第三世界としては,アジア・アフリカ諸国が政治的な独立を達成したものの,かえって,「経済的には低開発状態」という点にフォーカスされた結果,国際的な問題となったのです。

③国際連合の解決策
「UNCTADの創設と貿易援助」まで言及できていれば十分でしょう。明らかにUNCTAD(国連貿易開発会議)を想定した問いなので,文脈と主旨が伝わっていれば,この機関名だけでも加点される可能性が高いと考えられます。

第2問
書物に関する歴史と考察

書物というテーマであれば,2004年度第3問「書物の文化の歴史」とも通ずるものがありました。全体的には過去問のリサイクル要素が強く,難易度が易しかった印象です。

問(1)『新約聖書』の編纂
『新約聖書』に関連するのは(c)だけでした。
(a)(b)は,《2013年の第2問の問(1)(a)「キリスト教徒がローマ皇帝に迫害された理由(2行)」,(b)「キリスト教がローマ皇帝によってどのように公認されたか,公認の理由(2行)》とも類似していました。

2023年度から遡って10年分の過去問に取り組んでいた場合,ちょうど2013年度のこの問題を事前に解いていたことでしょう。

(a)は帝国における政治権力はすなわち皇帝ですから,皇帝がキリスト教(キリスト教徒)をどのように扱ったか,という点を軸に叙述するとよいです。また,関係の「推移」は,○○→△△→××というプロセスにおける「変化」とも換言できます。つまり,皇帝・キリスト教の関係が「対立」から「提携」へとシフトすることを念頭に置きましょう。

こうした組み立ての下で論述する場合,「対立」(ネロ帝~ディオクレティアヌス帝の迫害時代)→「協調」(コンスタンティヌス帝の公認・教義統一化の時代)→「提携」(テオドシウス帝の国教化の時代)という流れを意識しましょう。協調と提携の間には大きな違いもないので,対立→協調(提携)の推移を明確にしましょう。

(b)はニケ―ア公会議と異端・正統とされた宗派の名称までは必須です。その上で,アタナシウスの説に言及できるとよいでしょう。「ニケ―ア公会議で三位一体説が確立された」は誤りなので注意しましょう。詳細は以下の通り。

三位一体説 父なる神,子なるイエス,聖霊の3者は同質であるとする考え。アタナシウスの説が,381年のコンスタンティノープル公会議で再確認され,完成された。

世界史用語集 p.69,山川出版社,2023年

(c)「12世紀ルネサンス」の文脈でアリストテレスをおさえていれば即答でした。翻訳の歴史を知らずとも,「万学の祖」の異名で判断できるので,正答率は高いと思われます。

問(2)カシュガリー著『トルコ諸語集成』(1077年頃)
(a)執筆の時期はリード文から1077年頃と判るので,セルジューク朝と判断したいところ。

(b)国家成立以前は,イスタンブルという名称ではなくコンスタンティノープルでした。第4回十字軍によってラテン帝国が建てられたことを想起しましょう。その際に,関連情報としてヴェネツィア商人やビザンツ帝国を追加できれば,問題ないでしょう。

(c)セリム1世の対外戦争は南方のマムルーク朝と東方のサファヴィー朝との間で2種類あります。今回は「成果」なので,マムルーク朝を滅ぼしてメッカ・メディナの保護権を得てスンナ派の盟主となった点に触れる必要があるでしょう。サファヴィー朝との戦争(チャルディラーンの戦い)に触れる場合は,しっかり「勝利」した点に触れなければ成果になりませんので,注意しましょう。

問(3)清の支配
(a)反清的な著者・書物を取り締まる文字の獄と禁書についてはすぐに想起できます。書物や編纂物の名称とあるので,『康煕字典』『古今図書集成』『四庫全書』のうち1つ以上挙げたいところ。ただし,ただ挙げればいいのではなく,それを清の政策としてどのように表現するかが問われています。

(b)清の時代に発展した学問は,明末清初期の考証学と清末期の公洋学派(儒学の一派)があります。前者が解答として適切ですが,その本質が文献学であることを理解しておくとよいでしょう。学者の名は,顧炎武(1613~82)か黄宗羲(1610~95)の二択です。銭大昕せんたいきん(1728~1804)も代表的学者ですが,活躍した時期が設問の「清初」と合いません。

第3問
征服と支配・それに対する抵抗に関する歴史

読解も含めて平易な問題が中心でした。読解に関しては,設問文の最後まで,前文との関係性に留意しながら読むようにしましょう。

なお,問(6)サティーは2010年度第2問(「問(3)(b)ラーム=モーハン=ローイが批判した風習」)でも出題されており,決して難問ではありません。

問(10)サイード(1935~2003)は文化史学習の練度で差が付きました。政治史の文脈ではあまり登場することのない人物(語句)だったので,盲点だったはずです。

サイードを細かい知識と評するのは容易ですが,現行課程最後の入試の一問としてどういう意図が東大側にあったのかは,気になるところです。以下はサイードに関する新課程対応用語集の説明文です。

サイード(1935~2003)
パレスチナ出身のアメリカ人で,文学研究者。ヨーロッパのオリエントに対する見方・偏見を鋭く指摘した1978年の著作『オリエンタリズム』は36カ国の言語に翻訳された。そのなかでサイードは,ヨーロッパが自己と正反対のものとしてのオリエントに,後進性や停滞といったイメージを画一的に押しつけた,とした。サイードの著作により提起された批判はポスト=コロニアル研究の起点となった。

(世界史用語集 p.360,山川出版社,2023年)」


そして,ポスト=コロニアルとは,

帝国主義による植民地支配が終わったのちも,先進国による文化面での支配・影響力が依然として存在するため,支配されていた民族独自の文化がゆがめられているとする状況。また,その状況を批判的にみる研究。

同上,山川出版社,2023年)


とあります。まとめると「帝国主義の文化面における負の影響」といったところでしょうか。

2024年度の第1問⇔第3問
最終問サイードとも繋がる?

上記の文章から,サイードの著作と2024年度入試第1問で問われたアジア・アフリカの戦乱・対立などの政治的動向,貿易不均衡などの経済的問題との関連性がみえてきます。

それは,「16~19世紀における歴史」が20世紀後半の政治・経済・文化を一定のレベルで規定しているということです。これから世界史を学習する方は,こうした視点を持っていても良いかもしれません。

新課程に向けて

旧課程最後の入試で,35年ぶりに第1問の出題形式を変更させたという点は特筆すべきだと思います。ただ,東大が問う「内容」については過去問30~40年ほど遡ってみても,一貫しており不変的です。出題傾向を把握し,いかに問いに応えている論述を書けるか,という点が東大世界史対策のエッセンスとなります。

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