リベラル・アーカイヴズ#1 市村弘正編『藤田省三セレクション』(平凡社)
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リベラル・アーカイヴズ#1 市村弘正編『藤田省三セレクション』(平凡社)

大学受験 Y-SAPIX

『リベラル・アーカイヴズ』とは?

note連載記事「リベラル・アーカイヴズ」では、Y-SAPIX公式サイト内で過去に取り上げた作品の中から、受験生の皆さんに一緒に考えてもらいたい書籍を厳選し、紹介していこうという企画です。

第1回目は、

市村弘正編『藤田省三セレクション』(平凡社)

2010年夏、東京・代々木にY-SAPIX東大館を開校したときに、SAPIX YOZEMI GROUPの教材研究・カリキュラム&各種企画立案に携わるプロフェッショナル(講師陣)が集い、そこで誕生したのが新科目――それが「リベラル読解論述研究」です。

さまざまなジャンルから厳選した課題書籍を一冊丸ごとテキストにして、精読、討論、論述を行うオリジナル科目です。毎週1冊配布するサピックスオリジナルのテキストとのコラボレーションにより、生徒一人一人の思考力、表現力を総合的に鍛えていきます。

1冊読み終えると、小論文として自分の考えをまとめあげる練習にもなり、担当講師が丁寧に添削し、フィードバックを行います。

中1から高3までの6年間で60本近くの小論文を執筆していきますから、

”受講しているだけで相当な力が身につく”わけです。 

ただの国語の授業ではないことが、ご理解いただけたでしょうか。


入試頻出!藤田省三作品を深堀り


リベラル読解論述研究では、市村弘正編『藤田省三セレクション』(平凡社)を扱いました。藤田省三は入試でも頻繁に出題される政治学者・思想家です。

はじめに、「苦痛を避けて不愉快を回避しようとする自然な態度」と「不快を呼び起こす元の物(刺激)そのものを除去して了いたいという動機」との相違について、環境問題を題材にして考えました(388頁1-4行)。

たとえば、夏の暑い日に、日本の伝統的な家屋では窓を開け、風通しをよくします。建築そのものが風通しをよくする造りになっています。庭先では打ち水をし、空間に温度差を作ることで、空気が流れるようにすることで私たちは涼しく感じることができます。風通しのよい家屋構造や、打ち水などは日本の文化と言ってよいでしょう。土地に適応し、より快適に生きようとする生活の知恵がここにあります。これが、「苦痛を避けて不愉快を回避しようとする自然な態度」です。

一方、空調設備を整えて涼しい部屋に閉じこもるのは、「不快を呼び起こす元の物(刺激)そのものを除去して了いたいという動機」に基づきます。夏の暑さという不愉快を回避する自然な態度というよりも、暑ささえ感じなくさせる環境に身を置くことで、不快の元の物そのものを除去しています。空調などを使うことで、電気を消費し、温室効果ガスを排出しています。これが地球温暖化の原因の一つとなっていると考えられます。

ここで、「忍耐を内に秘めた安らぎ」が「他人(ひと)を自由にし他人に自発性の発現を容易にする」(390頁7-9行)とありますが、なぜこのようにいえるでしょうか。

私たちは「忍耐を内に秘めた安らぎ」によって、「安楽」への狂おしい追求をせずにすみ、「安楽」喪失への不安から逃れられます。忍耐を内に秘めない隷属状態は、平静な虚無精神と異なり、他の諸価値を尽く支配しながら、自然反応のない状態を求めて止まないという点で、「能動的ニヒリズム」といえるでしょう。安楽を第一としないことで、他人は自然な状態でいることができるので、自発的な行動をすることができるのです。

以上を踏まえて、「安楽への隷属」のコストが「喜び」という感情の消滅である(391頁10-11行)ということはどういうことか、我々の消費生活を具体例にして考えました。講師解答例は次のとおりです。

■講師解答例


生徒の皆さんにわかりやすく「解答例」と表記していますが、一講師の考えを小論文の形式に則って書いてみた、というスタンスです。リベラル読解論述研究の授業では、講師も生徒の皆さんと対等な立場で議論し合います。「解答例」を読んで「これはおかしいぞ!」と異論・反論があれば、ぜひY-SAPIXの先生までお気軽にどうぞ(笑)。

では、解答例を紹介します。

 日常生活において、私たちはついつい楽をしたがる。例えば、代々木から原宿へ行くのに、迷わず電車に乗ろうとする。しかし、急ぎではないのなら「少し歩いてみよう」という、筆者の述べるような「自発性」がここにあってもよいはずである。
 たしかに、交通機関を利用しなければ、体は少し疲れるが、実際に歩くことで、ほほを伝う風やつぼみが開きつつある街路樹に春の訪れを知ることができる。こうして新しい季節に出会う「喜び」は、何物にも代え難い。
 すると、現地に着くことだけが目的になっているのも不自然だと思えてくる。電車に乗ってしまうことで、私たちは簡便さという「安楽」に隷属してしまっている。そのとき、明治神宮の森がどれほど豊かな生命をたたえ、人びとにおおどかな時間を提供しているかを私たちは忘れている。したがって、安楽に隷属するために私たちの払うコストというものは、得られるものよりも、相当に大きいものだと考えられる。(約400字)

​次回をお楽しみに。

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