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リベラル書籍紹介+α

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このマガジンでは、Y-SAPIXのオリジナル授業「リベラル読解論述研究」で使用した書籍紹介や、国語コンテンツを中心に情報発信しています!
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記事一覧

【国語力を高める100冊】 #7「理解」・西林克彦『わかったつもり』/光文社新書

どの科目でもそうですが、「わからない」ことを「わかった」状態に変えることは大事なことです。そのために受験生は一生懸命勉強しています。ずっと分からなかったことが分かった瞬間、そこには純粋に知の喜びがあるでしょう。しかし、その「わかった」という感触が、実は「わからない」ことの原因だと言われたら、どう思うでしょうか。こう言われると、多くの人が戸惑うはずです。「わからない」のは、知識不足や理解不足のせいであって、「わかった」ことが「わからない」の原因だなんて、一体どういうことだ、とい

【国語力を高める100冊】#6「論旨」/『議論入門』(香西秀信 ちくま学芸文庫)

東京大学の国語試験の第1問(現代文)には、120字の記述問題(問4)があります。今回は、東大受験生にとっての鬼門、この120字記述問題(問4)について考えてみたいと思います。したがって、今回の記事は東大受験対策に焦点を当てたものとなります。是非、東大受験を考える受験生に読んでもらえればと思います。 さて、この120字記述問題(問4)には、近年では、ほぼ必ずと言っていいほど、「本文全体の論旨を踏まえた上で」という条件が付されます。あるいは、年度によっては、「本文全体の趣旨を踏

リベラル書籍紹介#34『 西洋美術とレイシズム』岡田 温司

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。 ■読書習慣は、大学受験の基礎力をつくります!授業内容を動画で紹介中! 今回は、高校生10月期で使用した『西洋美術とレイシズム』です。 西洋美術とレイシズム。芸術と人種差別。 一見、全く異なる二つの領域は、どのように絡まり合っているのでしょうか。 ■大学受験塾のSAPIXをご存知ですか? 『西洋美術とレイシズム』は、古くから伝わるキリスト教美術に

【国語力を高める100冊】 #5「聞く」/『対話の技法』(納富信留 笠間書院)

前回は、「話す」こと(【国語力を高める100冊】 #4「話す」/『日本語からの哲学』(平尾昌宏 晶文社))について書きました。 当然ながら、対話は、相手の話を聞く人がいなければ成立しません。というわけで、今回は、「聞く」ことについて考えてみたいと思います。 「聞く」ことは、あまりにも日常的な行為のために、なかなか考察の対象にならないものですが、「聞く」を分節してみると、いくかの段階があることに気づきます。「聞く」とは、相手の音声を単に聴覚に響かせることではなくて、相手の話を

【国語力を高める100冊】 #4「話す」/『日本語からの哲学』(平尾昌宏 晶文社)

 Y-SAPIXでは、「リベラル読解論述研究」という議論型の授業があります。この授業では、受講生にあらかじめ課題図書を読んでもらった上で、授業では、本の内容に基づいて議論を行います。そして、最終的に自分の意見を小論文という形でまとめてもらいます。  こんなことを言っていいのかどうか分かりませんが、この「リベラル読解論述研究」の授業では、常に議論が活性化しているわけではありません。というのは、この授業には議論好きな生徒だけが集まっているわけではないからです。なかには講師や他の

リベラル書籍紹介#33『文系と理系はなぜ分かれたのか』隠岐 さや香

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。 ■読書習慣は、大学受験の基礎力をつくります!授業内容を動画で紹介中! 今回は、高校生9月期で使用した『文系と理系はなぜ分かれたのか』です。 本書では、「文系」「理系」というカテゴリーが成立した歴史的過程や、その分類が人々の生活や社会制度とどのように関わっているか、そしてその両者の連関についての現状が述べられており、それらを踏まえて、「文系」と「理系

【国語力を高める100冊】 #3「書く」/『日本語作文術』野内良三 中公新書

多くの生徒にとって、書くことの難しさは小論文で経験することになります。小論文の授業では、最初に「作文」と「小論文」との違いから説明します。たいてい、「作文」は自分の体験や感想を書くもので、「論文」は根拠を伴った主張を書く、という風に教えることになります。ただ、根拠のある主張をしているからといって、それだけでは小論文になりません。もうひとつ、小論文にとって必須の事柄があります。それは、文体です。実は、私は、文体こそ作文と論文との大きな分岐点だと思っています。このことが分からない

リベラル書籍紹介#32『いのちを“つくって”もいいですか?―生命科学のジレンマを考える哲学講義』島薗進

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。 ■読書習慣は、大学受験の基礎力をつくります!授業内容を動画で紹介中! 今回は、中2生が夏期講習で使用した『いのちを“つくって”もいいですか?―生命科学のジレンマを考える哲学講義』です。 近年、バイオテクノロジーの発達に伴い、人々の「より長く、より健康かつ幸福に生きたい」という願いを実現するための医療技術が多く生み出されてきました。これらは正常に機能

リベラル書籍紹介#29『池上彰の憲法入門』池上彰

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。 今回は、中学1年生が5月期で使用した『池上彰の憲法入門』です。 この書籍は、題名通り日本国憲法について詳しく学ぶための入門書です。この書籍を今から初めて読もうとしている人はおそらく、憲法について「そもそも憲法とは何のためにあるものなのだろう」「なぜ私たちは憲法を学ぶ必要があるのだろう」などと思っているかもしれません。しかし著者は、冒頭「はじめに」の副

リベラル書籍紹介#28『動物農場[新訳版]』ジョージ・オーウェル

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。 今回は、中学3年生が4月期で使用した『動物農場[新訳版]』です。 この社会が生きづらい。 みなさんはそういうとき、どうしましょうか? 先日統一地方選挙があったため、選挙で変革を訴えている候補者に投票して……と思った人も多いかもしれません。 しかし、選挙という制度がない体制ではどうでしょうか。 自分たちの苦痛を訴えるすべがない。 それどころか為政

リベラル読解論述研究~憲法記念日特別編

 Y-SAPIXでは毎年5月に『池上彰の憲法入門』を読んでいます。  この本は池上氏の著作のなかでも特に読みやすく書かれています。小学校で習った程度の知識があれば十分に読み通すことができます。大事なところは太字になっていてポイント整理が簡単です。  この本は中学1年生の授業で扱いますが、毎年憲法記念日が近づいた頃に読み返せば、その度に憲法とは何かという根本に立ち返ることができます。当たり前にあるように思われる憲法というものについてじっくりと考えるきっかけになります。  

リベラル書籍紹介#27『世界の教科書でよむ〈宗教〉』藤原 聖子

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。 今回は、中学2年生が春期で使用した『世界の教科書でよむ〈宗教〉』です。 4月といえば……新年度を迎え、新しい学校・学年への期待に心躍らせる季節ですね。新しい教科書を受け取り、「今年はどんなことを学習するんだろう?!」とワクワクしながらページをめくってみた人も多いのではないでしょうか? 本書では、そんな「教科書」から宗教とはどのようなものかを考えていき

リベラル書籍紹介#26 『不平等を考えるー政治理論入門』斎藤 純一

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。 今回は、高校生が2月期で使用した 『不平等を考えるー政治理論入門』です。 この本、面白いタイトルですね。本書における「不平等」な事態とは、「値しない」(=不当な)有利-不利が社会の制度や慣行のもとで生じ、再生産されている事態を指します。 これとの関連で「運の平等主義」という概念が出てきます。本人に帰責することのできない、諸事情によって引き起こされる

リベラル書籍紹介#25 『アートは資本主義の行方を予言するー画商が語る戦後七〇年の美術潮流』山本 豊津

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。 今回は、高校生が1月期で使用した 『アートは資本主義の行方を予言するー画商が語る戦後七〇年の美術潮流』です。 みなさま、突然ですが芸術はお好きですか?  とりわけ現代アートと言われる作品群、いかがでしょう? 「正直よくわからないなぁ」という人も多いのではないでしょうか。 実際わたくしも高校時代、世界史の資料集で「泉」や「マリリン」といった作品を見て