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大学歴訪録#14 中央大学

大改革の年、2023年を迎え
文理融合・連携へと大きく舵を切る


1978年、都心の他大学に先駆けていち早く多摩地区にキャンパスを移した中央大学が、2023年に法学部を茗荷谷キャンパスへ移転し、多摩と都心で二大キャンパスを形成します。今、中央大学で何が起こっているのでしょうか。2021年5月から学長を務める河合久先生に、SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表がお話を伺いました。

2023年、法学部は
茗荷谷キャンパスへ


髙宮 本日は車で伺ったのですが、キャンパスがあまりに広くて運転手が迷ってしまいました。先ほど調べてみたところ、多摩キャンパスの面積は東京ディズニーランドとほぼ同じなのですね。

河合 そうなんですよ。面積は約51万9000㎡と、東京ドーム約11個分の広さを誇ります。

中央大学 学長 河合久先生

髙宮 私はアメリカで大学経営について学びましたが、多摩丘陵の地形を生かした貴学のランドスケーピングは実に見事です。久しぶりに大学のキャンパスらしいキャンパスにお邪魔しました。

SAPIX YOZEMI GROUP 髙宮 敏郎 共同代表

河合 ありがとうございます。本学がこの地に移転したのは1978年で、私は商学部の2年生でした。多摩キャンパスは優れた建築作品であるとして、1979年に建築業協会(現日本建設業連合会)のBCS賞を受賞しています。早いもので築40年を超えてしまいました。

髙宮 2023年4月に茗荷谷キャンパスを開設し、看板学部である法学部を移転することの背景にはそうした事情もあるのですね。

茗荷谷キャンパスの学生食堂(イメージ)。中央大学の創立者が学んだ
イギリスのミドル・テンプル(法曹院)をインテリアのモチーフにしています

河合 2023年は本学にとって、多摩キャンパスが開設されて以来の大改革といえる、都心移転の年になります。
まず、茗荷谷キャンパスと駿河台キャンパスを新設し、法学部と大学院法学研究科を多摩キャンパスから茗荷谷キャンパスに移転させます。さらに、専門職大学院のロースクールを市ヶ谷キャンパスから駿河台キャンパスへ、もう一つの専門職大学院であるビジネススクールを後楽園キャンパスから駿河台キャンパスへ、それぞれ移転させることにしています。


2023年4月開設の駿河台キャンパス(東京都千代田区)。専門職大学院法務研究科(ロースクール)と同戦略経営研究科(ビジネススクール)の新キャンパスです

髙宮 法学部と大学院法学研究科、ロースクール、ビジネススクールを地理的に統合するわけですね。どんな狙いがあるのでしょうか。

河合 学長として最も強化したいと考えているのは、学内組織間の連携です。特に意識しているのが法学部。法学部は本学の伝統ある看板学部です。

髙宮 “法科の中央”はブランドとしてあまりにも有名です。かつては司法試験の合格者数で東京大学としのぎを削っていました。

河合 その後、司法試験制度は大きく様変わりし、近年では学部3年+ロースクール2年で完結する「法曹コース」という新たな選択肢も生まれています。こうした新たな法曹養成教育に対応するには、法学部とロースクールの連携をこれまで以上に緊密に図っていかなければなりません。そこで、法学部とロースクールを距離的に近接させることで、学生と教員の相互交流を促進。さらに、連携を深めることにより、法学部から本学ロースクールへの道筋を明確にし、法曹養成教育の基盤をより強固なものにしていきます。

茗荷谷キャンパスは地上8階、地下2階建てで、延べ床面積は約3万3600㎡。駿河台キャンパスは地上20階、地下1階建てで、延べ床面積は約1万5700㎡。どちらも2023年4月から利用が開始される。


法曹コース(連携法曹基礎課程)とは2019年度入学生からスタートした、裁判官・検察官・弁護士など法律の実務に携わる人材を養成する教育課程のこと。法学部を設置する大学がロースクール(法科大学院)と連携し、法曹養成教育を一貫的かつ体系的に行うことで、法曹になるまでの期間を従来より短縮できるようにした。かつて法曹になるまでには、法学部4年+ロースクール2年+(司法試験+司法修習)約2年の合計約8年が必要だった。しかし、法曹コースを選択すれば、大学を1年早く卒業でき、かつロースクール在学中に司法試験を受験できるため、法学部3年+ロースクール2年+司法修習1年の最短6年で法曹資格を取得することが可能になる。

都心と多摩の
二大キャンパスに


髙宮 法学部が茗荷谷キャンパスに移転するとなると、かなりの“民族大移動”になりそうです。

河合 約6000人が移動しますからね。多摩キャンパスに残るのは経済・商・文・総合政策・国際経営の5学部です。一方、茗荷谷と駿河台に近い後楽園キャンパスには理工学部が、同じく至近の市ヶ谷田町キャンパスには国際情報学部があります。法学部移転後の都心4キャンパスと多摩キャンパスの学生数は、ほぼ半々になる計算です。これからの本学は都心と多摩の“二大キャンパス”となり、それぞれを知の拠点として機能させながら、DX(デジタルトランスフォーメーション)によって相互の連携を強化し、全学の一体的な発展を目指します。

髙宮 今後は都心にある学部間の連携を密にし、文理融合も進めると伺いました。

河合 茗荷谷の法、後楽園の理工、市ヶ谷田町の国際情報の3学部共同科目として、「学問最前線」という学部横断型の科目を2023年度から1年次を対象に開講します。現代社会に生じるさまざまな問題は複雑化する一方で、そうした課題を解決するには、文理の垣根を越えた複眼的思考が求められます。この科目では多様な専門領域の教員が講師を務め、現代の諸問題に対する実践的なアプローチを模索し、検討します。さらに2年後の2025年度からはその発展形として、3・4年次を対象に「学際最前線」を同じく3学部共同科目としてスタートさせる予定です。

髙宮 市ヶ谷のロースクールと後楽園のビジネススクールも、2023年4月から駿河台キャンパスに同居することになります。こちらについてもシナジー効果が期待できそうですね。

河合 現代のビジネスシーンでは「経営」と「法律」の境目がなくなりつつあり、経営の分かる法律家と法律の分かる経営者が求められる時代になりました。駿河台キャンパスは複眼的な知識を持つ人材の養成拠点となり、教員同士の交流や共同カリキュラムの作成など、さまざまな連携が期待できます。本学のビジネススクールは2022年にビジネス教育の国際認証を取得しましたが、今後はロースクールと切磋琢磨しながら、それぞれ経営と法律のプロとして、さらなる高みを目指していきます。

二つの「国際」学部が
2019年に誕生

髙宮 貴学は法、経済、商といった100年以上の歴史を持つ学部に加え、2019年には国際経営学部と国際情報学部を新設されています。この春、両学部の最初の卒業生が巣立ちますが、「国際」と名がつく二つの学部について、どのような手応えを感じていらっしゃいますか。

河合 卒業見込み生の就職状況は、民間企業を中心に極めて順調です。他の学部と同様に、多くの優良企業への就職が内定しています。国際経営学部ではコロナ禍でありながらも外資系やグローバル企業など、「国際」らしい特色のある結果が見られますし、国際情報学部では強みを生かしてIT系企業への就職が多く見られます。本学から海外への留学や海外からの留学生の受け入れは、予想よりもコロナ禍の影響を大きく受けました。今後の感染状況とともに、世界の動向をもう少し見守りたいと思います。

髙宮 国際交流という観点でいえば、多摩キャンパス内にある国際寮もユニークな存在ですね。

河合 はい。2020年、多摩都市モノレールの駅からすぐのキャンパス内に、国際経営学部の施設として教室やホールなどが入るグローバル館を新設しました。このグローバル館に併設されているのが、国際教育寮という定員300人の学生寮です。もともとは外国人留学生向けに用意したものですが、日本人学生も入寮しています。全室個室ながら、6人で1ユニットを形成。そのユニットごとにトイレ、シャワー、ミニキッチン等を共有しているので、個人レベルでの国際交流が日常的に生まれています。

全学部生を対象とした
AI・データサイエンス教育

髙宮 貴学では2021年度に文理を問わず全学部生が履修できる「AI・データサイエンス全学プログラム」を導入されました。

河合 今、国策として、高等教育機関におけるデータサイエンス教育が求められています。その要請に応えることは大学の責務でもありますから、本学でも全学生の情報リテラシーを底上げするため、このプログラムの導入に踏み切りました。本学では「全学連携教育機構」が2013年度から既に稼働しており、そのプラットフォームを活用することで、オンデマンドを中心にプログラムの運用がスムーズに進んでいます。

髙宮 高校では「情報Ⅰ」が必修科目となり、2025年度からは大学入学共通テストの科目に「情報」が加えられます。こうした流れについて、貴学ではどのように受け止めているのでしょうか。

河合 大人になる直前の高校生が「情報Ⅰ」の授業で何を学ぶのか。それは大学にとって必要な教育なのか。これらの問いに対する明確な答えはまだ誰も見つけていないはずです。本学もしばらくは静観するほかないと考えています。
ただ、懸念はあります。データサイエンス系の教員からよく聞くのは、「最近の学生はパソコンが使えない」ということ。ディレクトリが何かも知らず、データがどこに保存されているかも分からない。スマホやタブレットは直感的に使えるため、仕組みまで理解する必要はありませんが、結果として「マニュアルを読んで使い方をマスターする」という文化が失われてしまったのかもしれません。

髙宮 類した話はよく耳にしますね。最近は大学入学共通テストの願書の書き方まで、高校や塾で指導しなければならなくなりました。「願書の書き方」というマニュアルを読んでも、その通りに書けない生徒が増えています。

河合 由々しき事態ですが、今の学生がそうであるなら、それに合わせて教育すればいい。データサイエンスには「ネット等を活用して必要な情報をどう入手するか」という情報リテラシーの面と、「ある目的のためにコンピューターに演算させる」プログラムの面があります。本学では両方とも基礎からしっかり学ぶことができます。

「AI・データサイエンス全学プログラム」は、文理を問わず全学部生を対象に、AI・データサイエンス分野を基礎から応用まで系統的に学修するもの。「大学生としての基礎力」「専門で応用する基礎力」「エキスパート」の三つのレベルごとに、講義と実習で理解を深めていく。例えば「大学生としての基礎力」のレベルでは、「AI・データサイエンスと現代社会」という科目で、データサイエンスがもたらす価値やデジタル社会における課題など、入門的な知識を学習する。その上の「専門で応用する基礎力」ではExcelやプログラム言語のRuby、Pythonなどの使い方などを学ぶ。

髙宮 最後に読者の皆さんへのメッセージをお願いします。

河合 将来、自分は何になりたいのか。高校生ならまだ分からなくて当然です。ただ、自分の得意なことを伸ばしていけば、この社会のどこかに必ず受け皿はあります。本学は「あなたの夢」と「社会」とをつなぐ懸け橋です。どうか勇気を持って、未来へ足を踏み出してください。中央大学はそれを全力でサポートし、あなたの夢の伸び代を最大限まで引き伸ばすお手伝いをしたいと考えています。

■プロフィール
学長 河合 久さん
かわい ひさし
●1977年中央大学附属高等学校卒業。1981年中央大学商学部卒業。1983年中央大学大学院商学研究科博士前期課程修了後、他大学専任教員を経て、1996年中央大学商学部助教授、2000年商学部教授。2011年商学部長・学校法人中央大学理事。2018年副学長。2019年中央大学国際経営学部教授・学部長。2021年5月、中央大学学長。日本管理会計学会理事・常務理事、日本会計研究学会評議員、日本原価計算研究学会常任理事、中央大学附属高等学校・文部科学省「スーパー・サイエンス・ハイスクール事業」運営指導委員長などを歴任。現在の学外活動は、大学コンソーシアム八王子副会長、日本私立大学連盟常務理事、大学基準協会評議員。専門は会計情報システム論。

■中央大学の紹介

法学部の新キャンパスとなる、2023年4月開設の茗荷谷キャンパス(東京都文京区)。
東京メトロ丸ノ内線・茗荷谷駅から徒歩1分の便利さ

中央大学は1885(明治18)年、18人の若い法律家有志が設立した「英吉利イギリス法律学校」から発展した大学です。

建学の精神は「實地應用ノ素ヲ養フじっちおうようのそをやしなう」。分かりやすくいえば、「実社会に役立つさまざまな力を養成する」ということです。その「力」とは、例えば問題を解決するための思考力・判断力・表現力・コミュニケーション力などを指します。「学問は机上の空論であってはならず、現実社会に役立ち、貢献するものでなければならない」という実学の思想です。

その教えはユニバーシティメッセージである「行動する知性」へと受け継がれました。今日では法・経済・商・文・理工・総合政策・国際経営・国際情報の8学部、大学院8研究科(※)、専門職大学院2研究科、4附属高校、2附属中学校で行われている実践的教育の礎となっています。こうしたことから、中央大学の校風はしばしば「質実剛健」と評されます。

大学のキャンパスは、多摩・茗荷谷(2023年4月開設)・後楽園・市ヶ谷田町の4カ所に広がり、2025年には創立140周年を迎えるなど、社会からの注目度はさらに高まりつつあります。

※2023年4月、市ヶ谷田町キャンパスに国際情報研究科を開設。

国際情報学部のメインキャンパス、
市ヶ谷田町キャンパス(東京都新宿区)のコミュニケーションホール

この記事は2023年2月21日刊行『Y-SAPIX JOURNAL』2023年3・4月号に掲載された記事のWeb版です。

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