リベラル読解論述研究~憲法記念日特別編
Y-SAPIXでは毎年5月に『池上彰の憲法入門』を読んでいます。
この本は池上氏の著作のなかでも特に読みやすく書かれています。小学校で習った程度の知識があれば十分に読み通すことができます。大事なところは太字になっていてポイント整理が簡単です。
この本は中学1年生の授業で扱いますが、毎年憲法記念日が近づいた頃に読み返せば、その度に憲法とは何かという根本に立ち返ることができます。当たり前にあるように思われる憲法というものについてじっくりと考えるきっかけになります。
この当たり前にある感じのする憲法の存在を皆さんは意識することがありますでしょうか。意識するのはどのようなときでしょうか。
私たちの毎日が穏やかなものであることの主な理由のひとつは「憲法があるから」というものです。
今の憲法がなかったらどうなるか、どうなっていたか、ということを考えてみましょう。今あるもの、この国のありとあらゆる、ほとんど意識さえしないようなもの、その色々なものが場合によっては成り立たなくなることがあります。
憲法についてほぼ意識しないまま私たちが日々の生活を穏やかに送れているのは、憲法がこの国のありとあらゆるものの基盤となってその役割を果たしているからです。
この国では、子どもたちは学校に通い、教科書を与えられ、机がそこにあり、時間割が組まれ、先生が教室に立って授業をしてくれます。
学校に通わない選択をしても教育の機会は保障されています。
いじめや虐待があれば学校や教育委員会や自治体が問題解決に向けて動きます。十分な教育資金が家庭で用意できなくても、皆さんの進学をサポートしてくれる制度がたくさんあります。
仕事を失った人は、必要な手続きを行えば次の職を見つけて新しいスタートを切れるまでのお金をもらえます。
好きになった人と自由に恋愛することができます。
誰かともめたときは裁判で決着を図ることもできます。
年を取れば年金をもらって生活の支えにすることができます。
葬式をする際は、申請をすれば自治体から葬祭費が支給されます。
政治家は民主的プロセスを経て有権者に選ばれます。
死刑囚には刑執行までの間も毎日きちんと食事が供され、太陽の下で体を動かす権利が保障されています。
家には水道が通り、電気がつきます。公園にはたくさんの緑があり、ベンチがあり、集まる人たちの笑顔があります。
この国に生きる人の日常は憲法によって支えられています。
私たちは憲法を意識することはさほど多くありませんが、今、皆さんがこうしてこの文章を落ち着いて読んでいられるのも、憲法がちゃんと機能しているからです。憲法についてことさら強く意識するようになるのは、一つには、憲法の安定感が失われそうになったときでしょう。
安定していると思いませんか、皆さんの日常というものは。
病気になって苦しいときに健康のありがたみに気がつくように、コロナ禍で行動が制限されたときに自由だった日々を懐かしく思うように、いつか憲法の安定感が失われたときには、憲法がいかに私たちを支えているかを知ることになるでしょう。
憲法記念日が近づいてきて、憲法について考えるというのは、年中行事的なところがありますが、日々の生活で、私たちのありとあらゆることがどういうふうに憲法に支えられているかということを考えてみると、この国の憲法がいかに大事なものであるか身をもって感じられることでしょう。
以上、憲法と私たちとの関わりについて考えてみました。国会議事堂近くの憲政記念館を訪れてみるのもよいですし、YouTubeで勉強するのもよいですし、とりあえず街を歩くのもよいですし、いろんな学びがありますが、これを読んでくれたのをよい機会に、池上氏の著作に当たってみてください。
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Y-SAPIXのリベラル読解論述研究・指定書籍
『池上彰の憲法入門』池上彰(ちくまプリマ―新書、2013)
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