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数学こぼれ話#13 深掘りシリーズ vol.4~高校生からの記号論理学~

皆さん、こんにちは。Y-SAPIX数学科では、「一歩先の理解」を目指す方々を対象に、「深掘りシリーズ」の記事を発信していきます。

今回のテーマは「全称($${\forall}$$)と存在($${\exist}$$)」です。高校生には馴染みが薄いものの、これらの理解を試す入試問題は、ときどき出題されています。また、大学以降の数学を深く学んでいくためには欠かせません。普段の数学から少しだけ背伸びして、視野を広げてみましょう!


〇「条件」を「命題」へと変えるもの

まずは用語の確認から。「$${\sqrt{2}}$$は無理数である」のように、真偽が定まる文や式「命題」です。「真の命題」と「偽の命題」があることに注意してください。一方、「$${x^2-1=0}$$」の真偽は、$${x}$$に具体的な数を入れて初めて決まります。例えば、$${x=1}$$とすれば「$${1^2-1=0}$$」となるので真ですが$${x=2}$$とすれば「$${2^2-1=0}$$」となるので偽です。ここに挙げた「$${x^2-1=0}$$」のような

$${\boldsymbol{x}}$$を与えるごとに命題となる(真偽が定まる)文や式

のことを、「条件」(あるいは「命題関数」)と言うのでした。 以下 、$${x}$$は全て数とします。

では、次の2つの文章を見てみましょう。見かけ上は$${x}$$が含まれていますが、実は「条件」ではなく「命題」です。さて、それぞれの真偽はどうなるでしょうか?

  ①「全ての$${x}$$に対し、『$${x^2-1=0}$$』」
  ②「ある$${x}$$に対し、『$${x^2-1=0}$$』」

①は、例えば$${x=2}$$とすると『$${x^2-1=0}$$』が成り立たないので、偽の命題です。ちなみに、all, anyに由来する記号$${\forall}$$を使って、$${\forall}$$$${x  [x^2-1=0]}$$と書かれることがあります。
  「全ての/任意の」を表す$${\boldsymbol{\forall}}$$は、一切の例外を認めない
ということです。全称の$${\forall}$$が、「条件」を「命題」に変えている点に注目してください。

また、②は例えば$${x=1}$$とすれば『$${x^2-1=0}$$』が成り立つので、真の命題です。ちなみに、existに由来する記号$${\exist}$$を使って、$${\exist}$$$${x  [x^2-1=0]}$$と書かれることがあります。
  「ある/適当な」を表す$${\boldsymbol{\exist}}$$は、1つでも存在していればOK
ということです。存在の$${\exist}$$も、「条件」を「命題」に変えている点に注目してください。


〇入試レベルに挑戦!

全称$${\forall}$$と存在$${\exist}$$に慣れてきたあたりで、旧帝大の入試レベルに挑戦してみましょう。しかし、その前に
  存在を追求した変数は自然と消える
という合言葉を掲げておきたいと思います。文字定数を含む2次方程式の問題でよく出てくる次のようなものが、良い例です。

($${a}$$は実数)
  $${x^2-2x+a=0}$$が実数解$${x}$$を持つ $${\Leftrightarrow}$$ $${a\leqq1}$$

$${\Leftrightarrow}$$で結ばれた左側を言い換えると「ある実数$${x}$$が存在して、『$${x^2-2x+a=0}$$』」ですが、これと同値な「$${a\leqq1}$$」からは、いつの間にか$${x}$$が消えていますね。(間を埋めているのは、もちろん「判別式$${D\geqq0}$$」です。) 上の合言葉にも、納得がいくと思います。

では、いよいよ本題に入ります。ここまでの総まとめとして、次の【問題】を考えてみましょう。

【問題】
ある実数$${x}$$が存在して、全ての実数$${b}$$に対して$${ax^2+bx+c=0}$$となるような、実数$${a}$$,$${c}$$についての条件を求めよ。

「ある」と「全ての」が入り混じっていて、初見では確実に「ウッ…」となるタイプの問題です。見た目が複雑で分かりづらいので、まずは構造を捉えるところから始めます。前半部分を二段に分けるだけで、急に見えやすくなります。

ある実数$${x}$$が存在して$${\cdots}$$②
  全ての実数$${b}$$に対して$${ax^2+bx+c=0}$$となる$${\cdots}$$①

1°「$${ax^2+bx+c=0}$$となる」は、「全ての実数$${\boldsymbol{b}}$$に対して」により、$${b}$$が消えて「$${\boldsymbol{x,a,c}}$$の条件」に変化する。(①で起きていること)
2°「$${x,a,c}$$の条件」は、「ある実数$${\boldsymbol{x}}$$が存在して」により、$${x}$$が消えて「$${\boldsymbol{a,c}}$$の条件」に変化する。(②で起きていること)

結局、「1°と2°を経て出てくる『$${a,c}$$の条件』は、どういう形をしていますか?」ということが問われているわけです。これをふまえると、解答例は次のようになります。

【解答例】
まず,全ての実数$${b}$$に対して
   $${ax^2+bx+c=0}$$
となるための,実数$${x,a,c}$$についての条件を求める。
   $${xb+(ax^2+c)=0}$$
とおき,$${f(b)}$$$${=}$$$${xb+(ax^2+c)}$$を考える。$${f(b)}$$のグラフは傾き$${x}$$の直線となるので,グラフが$${b}$$軸と重なるための条件を考えて
   $${x=0}$$ かつ $${ax^2+c=0}$$
すなわち
   $${\begin{cases}{x=0}\\{c=0}\end{cases}}$$  (ただし,$${a}$$は任意の実数)$${\cdots}$$$${(\ast)}$$
を得る。

次に,$${(\ast)}$$を満たす実数$${x}$$が存在するための,実数$${a,c}$$についての条件を求める。これは明らかに
   $${a}$$は実数 かつ $${c=0}$$ $${\cdots}$$(答)
である。


最後に皆さんへ【宿題】を残して、今回の記事を締め括りたいと思います。上の【問題】よりも少しだけ込みいった議論が必要なので、周りの人たちと相談しながら、是非チャレンジしてみてください。

【宿題】
全ての実数$${b}$$に対して適当な実数$${x}$$が存在し、$${ax^2+bx+c=0}$$となるような、実数$${a,c}$$についての条件を求めよ。


それでは、次回の「深掘りシリーズ」でお会いしましょう!

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