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2022年度大学入学共通テストを総括!

2022年度の大学入学共通テストが1月15日(土)・16日(日)に実施されました。大学入試センター試験から移行して2回目となった今年度、難易度や平均点はどのように変化したのでしょうか。YーSAPIX教育情報センター次長の堅田一郎に聞きました。

YーSAPIX教育情報センター次長 堅田一郎

今年度は大幅に難化
数学の出題形式に動揺も

――今年度の大学入学共通テスト(以下、共通テスト)について、率直な感想をお聞かせください。

堅田 昨年より問題の難度が大幅に上がりました。2年目は難化が予測されていたものの、科目によっては想定以上に平均点が下がりました。そのため、上位層の受験生が志望校のランクを下げて、難関大学の志願者が減少するのではないかとの予想も一部でみられましたが、結局は例年並みの志願状況に落ち着きました。多くの受験生は冷静に状況を見極め、「この点数でも志望校を変える必要はない」と判断したのでしょう。

――想定外に難しかった科目があると、心理的にその後の試験が負担になりますね。切り替えがうまくできなかった受験生もいたのではないでしょうか。

堅田 試験の結果は1科目で全てが決まるわけではないので、気持ちを切り替えて次の科目に臨めるかが大切なポイントです。しかし、今回は特に数学ⅠAが予想以上に難化したことで、続く数学ⅡBや理科を受ける受験生は少なからず動揺したかもしれません。

――数学は数学ⅠAも数学ⅡBも平均点が大きく下がりました。

堅田 はい。昨年の共通テストは初年度だったこともあり、少し“手心”を加えた感じでしたが、今年は事前の試行調査に寄せて、本格的に思考力を問う内容になりました。特に、数学は会話文で構成された問題が出されるなど、単純な数学の力だけで対応できるものではありませんでした。問題文を理解するのに時間がかかり、制限時間内に解答するのが難しかったようです。

――今後はどうなるのでしょうか。

堅田 今年のような問題と時間では、学力差の測定にはそぐわないという批判も耳にします。3年後の2025年度入試からは、新課程入試としてまた大きく切り替わることになりますが、その前に平均点を少し上げるような動きも出てくるでしょう。ただ、問題としては良問だという見方もあり、作問の基本的な方向性は変わらないとみています。

選択科目による得点差も発生
コロナ禍で現役志願率は上昇へ

――数学以外にも平均点の低下が顕著だった科目はありますか。

堅田 昨年、平均点が高過ぎて得点調整をすることになった生物が20点以上ダウンし、化学も10点近く下がりました。特に生物・化学を選択する受験生が比較的多い医療系の学部では、当初の志望校への出願を諦めた人が少なくない可能性もある一方で、ボーダーラインはかなり下がったとみられます。地理・歴史に関しては、文系の受験生が主に選択する日本史Bの平均点が10点以上下がり、世界史Bとは10点以上差が開いてしまいました。

――選択した科目による運・不運もありそうですね。

堅田 そうした不公平をなくすために偏差値換算するという方法なども考えられます。しかし、現在、大学入試センターでは得点調整や得点の段階表示の導入で対応していて、各大学で共通テストの得点を偏差値換算して利用することは基本的に行われないでしょう。選択科目による多少の運・不運はついて回ることになります。

――生物の平均点が下がったのは、昨年の結果を受けての“揺り戻し”ですか。

堅田 大学入試センター試験(以下、センター試験)の頃から、各科目の平均点については6割を目安としていて、平均点が高過ぎたときは翌年度に下げようとする傾向はあります。とはいえ、「来年は平均点が上がるかもしれないから、物理をやめて生物を選択しよう」というわけにもいかないでしょう。それぞれ選択して学んできた科目をしっかり継続して勉強するしかありません。

――志願者数や受験者数は変化したのでしょうか。

堅田 受験人口(18歳人口)は確実に減少していて、どちらも減少傾向にあります。また、一昨年のセンター試験までは当日受験率が志願者の約95%だったのですが、昨年はそれが約90%に低下。今年は約92%でした。このような受験率の低下には、新型コロナウイルス感染症の流行が影響しているのではないかといわれています。昨年は感染拡大防止の観点から、横浜国立大学のように二次試験を実施しない大学もありました。感染状況によっては私立大学でも個別試験がなくなり、共通テストを受けた人の中から選抜する可能性もあり得ると考えて、受けるつもりがなくても、取りあえず出願するよう指導した高校もあったのではないでしょうか。共通テストの現役志願率が上がったところをみると、その可能性は十分考えられます。この先も新型コロナウイルス感染症のリスクが残るのであれば、同様の傾向が続くかもしれません。

全科目で求められる日本語能力
幅広いジャンルの読書で鍛えよう

――今年の共通テストの問題は、センター試験と比べて変わってきたと感じますか。

堅田 やはり、全体的によく読ませて、よく考えさせる新傾向の問題が増えました。大きな流れとしては、学力の三要素のうち、「知識・技能」中心から「思考力・判断力」を測る方向にシフトしていくことを、今回はかなり明確に打ち出したと思います。冒頭で触れた数学の会話文による設問も、その流れの一環といえるのではないでしょうか。こうした変化に対応するには、科目ごとに学力を高めるだけでなく、与えられた条件を正確に把握して、時間内に処理する力をしっかり養う訓練も必要です。つまり、どの科目でも、日本語を速く正確に読んで理解する能力が求められるのです。日本語能力は難関大学の二次試験でこれまでも重視されてきましたが、共通テストでは読むスピードも要求されるため、日本語能力はむしろ二次試験以上に重要になってきたといえるかもしれません。

――そうした日本語能力を身に付けるにはどうすればいいのでしょうか。

堅田 「読みたい本だけを読む」のではなく、「今まで読もうと思わなかった本も読む」という習慣を付けることです。その点、Y-SAPIXの「リベラル読解論述研究」なら、小説や評論など、幅広いジャンルから選定された課題図書を1カ月におよそ1冊のペースで精読し、小論文としてまとめるため、論理的思考力や記述表現力を高めることができます。今はSNSが発達していて、自分の興味がある分野だけを選ぶ癖が付いてしまっている傾向にあるので、興味の有無にかかわらず、入試対策につながる良書に積極的に触れることができる機会は貴重です。共通テスト対策の際、日本語能力が原因で上滑りしてしまわないためにも、早い段階から受講するのが効果的ですね。

――共通テスト対策を進める上で気をつけるべきことがあればアドバイスをお願いします。

堅田 まずは過去問にとらわれ過ぎないようにすることです。過去にどんなものが出題されているかを確認する程度ならよいのですが、共通テストの過去問は来年の受験生でも2年分しかありません。しかも、その2年分でも難度が全く異なります。出題されそうな分野を暗記するような勉強はナンセンスです。過去問は、時間を区切って実際の試験と同じように取り組み、時間配分を体感する練習に使うといいと思います。そうした活用法に限るのであれば、全体を俯瞰して、問題を解く順番を決める判断力を育成するためにも、繰り返し行っておくとよいでしょう。
 また、センター試験の得点基準を念頭に置きすぎると、本番でかえって混乱してしまうかもしれません。例えば、センター試験では、理系の上位校を狙う受験生にとって数学ⅠAは100点を目指す科目でしたが、今年のように平均点が大きく下がることもあるからです。もし、想定よりも解けなかった場合は「周りの受験生もできなかっただろう」と思うくらいの方が、試験中に気持ちを切り替えて次の科目に臨めるはずです。

思考力を深める学習に向け
学校の授業で早めに準備を

――今年入学する高1生は、2025年度の新課程入試を最初に受験する学年です。1年生のうちからやっておくべきことはありますか。

堅田 これからは思考力がますます重要になります。授業で習ったことや教科書をただ覚える暗記だけでは、入試には通用しなくなるでしょう。だからこそ「なぜそうなるのか」を自分の頭で考えることが重要になるのです。また、後になって慌てないよう、理系にとっての文系科目、文系にとっての理系科目は後回しにしないこと。学校の授業をベースに早いうちから取り組むと学習計画に余裕ができます。
 新課程入試についてはまだ分からない部分もありますが、新設の「情報」を二次試験で課す大学はそう多くないとみています。初年度の共通テストで難問が出題されることも考えにくいので、過度に恐れる必要はないと思います。あまり意識しすぎず、学校の授業をきちんと押さえることが大切です。

――では、最後に高校生の皆さんにメッセージをお願いします。

堅田 時間があっという間に過ぎていくなか、やりたいこともやるべきこともたくさんあると思います。しかし、何事にも早過ぎたり遅過ぎたりすることはありません。思い立ったときに始めてください。志望校を決定するのは早いに越したことはないのですが、気持ちが揺らぐかもしれない時期に無理やり決めるのは本末転倒です。志望校の選び方については、まず「将来何をやりたいか」「そのために何を勉強すべきか」を決め、それに応えてくれる学部がある大学を受けるという順番が良いでしょう。しかし、必ずそうしなければいけないとは限りません。将来の職業や勉強したいことがまだ明確でなければ、「とにかく難関大学を目指そう」という考え方でも構わないと思います。まずは高い目標を持って、徐々に明確な方向性を固めていくのも良いでしょう。入学するのが大変な難関校なら得られるものも多いはずです。志望校の目標はぜひ高く掲げてください。

■Y-SAPIXよりお知らせ

この記事は2022年4月22日に刊行された『Y-SAPIX JOURNAL』2022年5・6月号に掲載された記事のWeb版です。

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