教科別学習アドバイス―大学入学共通テスト編―
今年度から始まる大学入学共通テスト(以下、共通テスト)もいよいよ迫ってきました。受験生の皆さん、準備のほどはいかがでしょうか。
今回の記事では共通テストに向けた学習アドバイスを、Y-SAPIXの講師陣がお伝えいたします。
英語
初めて実施される共通テストの情報を、事前にどれだけ集められるかも立派な得点力です。したがって今回は共通テストの情報を、リーディングとリスニングに分けて重要な順にお伝えします。
過去問は存在しないため、ここで書かれている内容は全て、試行調査を基にしています。以下の内容にしっかりと目を通し、心の準備ができた状態で本番に臨みましょう。
【リーディング】
試験時間は80分、配点は100点です。平均点はセンター試験で目安とされた60%(120/200点)から、50%(50/100点)前後に下がる見込みです。センター試験よりも難しい点は下記のとおりです。
第一の点は量、つまり語数の増加です。センター試験は総語数が3750語程度でしたが、共通テストは文法問題がなくなるため全て長文になり、総語数が4500語前後に増えると予想されます。センター試験でよく用いられた「選択肢を選びなさい」などの設問文も全て英語になるため、これも語数の増加に寄与しています。
第二の点は、質の変化です。選択肢の内容が文中に書いてある、だから正解だろう、という理屈はもはや通用しません。その選択肢の内容が「事実」として書かれているのか、あるいは筆者の「意見」なのかを区別しないと、正解になりません。文中に書いてあるというだけで選ぶのではなく、周囲の文を読み、求められている内容が事実か意見かを確認してから答えましょう。
第三の点も質の変化です。試行調査では選択肢が6つ与えられ、「正しいものを全て選びなさい」という問題が出されました。つまり正解がいくつあるか分からないため、選択肢が正しいか間違っているかの判断がより難しくなります。ただしこの類の問題は正解率が低かったため、共通テストでは「正しいものを2つ選びなさい」などとなり、難易度が下がる可能性もあります。どちらにせよ、複数の正解を選ぶ問題が出ても、慌てずに解けるような心構えが必要です。
【リスニング】
試験時間は30分、配点は100点です。平均点はセンター試験で目安とされた60%(30/50点)よりも下がり、50%(50/100点)前後になる見込みです。リスニングもリーディング同様、難しくなるでしょう。
リスニングで最大の注意点は、配点が50点から100点に増え、リーディングと同じ配点になることです。
試験では、放送に関する2つの変化に注意しましょう。
1つめは英文が放送される回数です。第1問および第2問では英文がそれぞれ2回ずつ放送されますが、第3問から第6問にかけては1回のみの放送になります。後半戦は英文の内容が難しくなり、長くなることに加えて、放送も1回しか行われない点に注意してください。
2つめは、放送される英文の話者です。センター試験ではほぼ全ての放送がアメリカ英語の話者によるものでした。しかし、共通テストでは新学習指導要領に記された「英語の多様性」を盛り込むため、日本人話者やヨーロッバ人話者も登場し、それぞれ少しずつ異なる発音で話します。アメリカ英語にしか触れたことがない人は、音声教材を通してさまざまな英語、特にイギリス英語に触れておきましょう。
数学
Ⅰ・A・Ⅱ・Bの全範囲の学習が完了したら、まず2回行われた試行調査の問題に取り組みましょう。ただし、試行調査の後いくつか変更がありましたので、これらを鵜呑みにするのではなく、あくまでも暫定的なものであることは忘れないようにしてください。現時点で確実なことは、試験時間が数学Ⅰ・Aでは70分、数学Ⅱ・Bでは60分であることぐらいです。また、問題冊子の表紙の参考イメージが発表されているため、一度は目を通しておいてください。問題文中の二重四角には選択肢から一つ選んで答えるなどは常識としておきましょう。以下では、2回の試行調査と過去のセンター試験をもとにして、具体的な対策についてお話します。
【数学Ⅰ・Aの対策】
まず対話文のような長大な問題文の出題が予想されます。それらを素早く読み、そこから必要な情報を取り出す訓練は、試行調査や模試の問題を通じて練習しておくことが必要です。内容面では、国公立大学・私立大学の対策をしていれば十分な部分がほとんどですが、学習量が手薄になりがちな「集合と論証」「データの分析」については、共通テスト特有の対策が必要になります。まず「集合と論証」ですが、必要条件と十分条件を正しく理解できているかが重要です。P⇒Qが成り立つとき、「PはQの十分条件」であり「QはPの必要条件」です。必要条件、十分条件の問題は、Pを仮定してQが導けるか、Qを仮定してPが導けるかを丁寧に考える必要があります。実は、表立って出題されることは少ないですが、これらは記述式の試験でも重要な役割を果たすことは知っておいてください。次に「データの分析」ですが、文章を的確に読み取る力が求められます。「標準偏差」や「相関係数」などさまざまな用語が出てきます。教科書を用いてこれらの定義をしっかりと確認しましょう。
【数学Ⅱ・Bの対策】
数学Ⅰ・Aと同様に、問題文の長文化が予想されています。内容面では、国公立大学・私立大学の問題と大きく異なるような問題は出題されません。ただし、試験時間に対して分量が多く、じっくり考えている余裕はありません。したがって、高得点をとるためには
・誘導に正しくのる
・素早く正確に計算する
ことが必須となります。分数やマイナス符号、平方根などが入り組んだ煩雑な計算が要求されますので、計算力を高める訓練が必要です。試験時間が短いことから「満点」にこだわり、一つの問題に時間をかけすぎると、ほかの問題を解く時間がなくなります。ある程度の見極めをし、時間を浪費しないことにも注意が必要です。また、前半でミスをしてしまうと、それ以降の解答にも影響し大きく失点してしまうことになります。前半の問題は、こまめに解き直し、より慎重に取り組みましょう。
過去には、「三角関数」で1ラジアンの定義が問われており、教科書に書かれている内容についての本質的な理解が求められることもありました。
国語
【現代文】(100点)
論理的文章(50点)
●漢字の問題
漢検2級程度の読み・書き・同音異義語問題は解けるようにしておきましょう。
●内容に関する問題
まず文章全体の大まかな内容を掴み、答えを想定した後で選択肢を見ましょう。2択に絞れることが多いので、後は「より正解として適切なのはどちらか」を本文と照合しつつ吟味しましょう。図表や実用的な文書が登場した場合は必要な情報を素早く抽出することを心掛けましょう。
●表現・構成に関する問題
「「適当でないもの』を選べ」という形式の場合は、明らかに誤っているものを選べば良いでしょう。
●その他
文章を踏まえた発展的考察を問う出題も予想されるので、さまざまな社会的な問題にも目を配るようにしましょう。
文学的文章(50点)
●語句の問題
「現代文頻出語」のような語彙の教材で学習しましょう。特に慣用句の語義を知っておくことが必要です。
●内容や心情に関する問題
評論と同じく「より正解として適切なのはどちらか」という解き方をしましょう。詩やエッセイが出題される場合は抽象表現の意味内容を明確にします。複数テキストが出題される場合は各々の視点や内容の相違点に着目しましょう。
●表現に関する問題
該当箇所の表現が選択肢で説明されているとおりの効果を持つのか、本文から手掛かりを探し検証しましょう。
●その他
さまざまな韻文の鑑賞のポイントを押さえておきましょう。
【古文】(50点)
●語句の問題
古今異義語に注意しましょう。疑問・反語の判別も必要です。場合によっては文脈判断も要求され得ます。
●文法問題
前後のつながりによって用法・意味が変わるので、一文ー文丁寧に読み進めつつ解いていきましょう。
●内容に関する問題
本文を正確に訳読し、本文に忠実に選択肢を検討しましょう。和歌は最低限その大意を把握できるようにしましょう。複数の文章を組合わせた形式で出題される場合は内容のつながりに注意し、各々の文章の理解に役立てましょう。
【漢文】(50点)
●語句の問題
漢検2級の「熟語の構成」問題が漢字の読みや意味の理解において有用です。頻出語句を過去問や参考書で確実に習得しましょう。
●書き下しの問題
まず句法の有無を判断して返り点を見定め、文脈で残りを補いましょう。
●内容に関する問題
本文の訳に忠実に選択肢を検討しましょう。発表資料や会話文などのテキストと組み合わせた出題がされた場合は、テキストと本文の内容の対応を基に相違点を探りましょう。
漢詩の空欄補充はほとんど韻の問題なので、押韻の法則は必ず覚えておきましょう。故事成語や漢文学的な知識も押さえておきましょう。
【備考】
共通テスト形式は従来のセンター試験本試験と同様。全80分。大問4つ。各20分想定。各50点で200点満点。過去2回の試行調査問題を踏まえたアドバイスを掲載しています。なお、記述問題は出題の見送りが決定しています。
物理
2017・18年に行われた共通テストの試行調査の問題は、従来のセンター試験とは傾向が大きく異なり、想定以上に平均点が下がりました。この結果を受けた本年度の共通テストでは、試行調査の方向性を保ち易しい問い方に改めるか、あるいは従来のセンター試験に近い問題とするか、いずれの可能性も考えられます。どの場合にも対応できる準備をしておく必要があるでしょう。
共通テストの物理で高得点を目指すためには、まず全ての単元について、公式を単に覚えるのではなく、それを導く過程を理解し、使える局面を把握しておく必要があります。
一方で、これまでのセンター試験ではときどき物理現象についての知識を問う問題が出題されていました。知識は「学力の三要素」の一つに分類されており、これまでと同様に共通テストでも問われる可能性があります。教科書に書かれている知識から出題されますので、本番までにもう一度、教科書の隅々まで目を通しておきましょう。
次に、本番当日での注意事項です。
まずは時間配分です。共通テスト初年度のため、問題の分量や大問構成が想定できず、具体的な時間配分は事前に考えにくいものです。しかし構成や難易度がどのようになろうと、50分程度で問題を解き終え、残りの時間で見直しをするのが理想です。試験の最初に全体の問題構成を確認し、その場で大問ごと、設問ごとの時間配分を考えるのが良いでしょう。
時間配分を決めたら、問題文を丁寧に読んでいきましょう。日常生活に即した場面や生徒が考察を行う状況を想定した長文の問題文が出題されるかもしれません。そのような問題では、解くために必要な情報を正しく抽出しなければなりません。
物理の考察に入ってからは一層の丁寧さが必要です。物理ではほんの数文字を読み違えただけで答えが変わってしまうこともあります。例えばベクトル量の正負を勘違いして解き進めてしまう例が非常に多いです。
問題文を読むのと同時に選択肢も全て見るようにしましょう。例えばグラフを選ぶ問題では、選択肢どうしの違いを比較することによって注目すべき箇所を抽出できる場合があります。
計算を省略しないことも重要です。時間を節約しようとして計算が雑になると、かえって失点のリスクが高まります。検算の技術も身につけておきましょう。
化学
共通テストにおいて必要とされる化学の知識と考え方は基礎的なものに限られ、教科書を勉強していれば高得点を取ることができます。ただ、全ての分野からまんべんなく出題されます。また、選択肢として「誤りを含むもの」や、選択肢の組み合わせ間題がよく出題されます。従って、与えられた全ての選択肢についての正確な知識を身につけていないと満点を取ることは困難になります。2020年度は「化学基礎」で15問、「化学」で32問と問題数が多めです。一問あたりに使うことのできる時間は平均して約2分と非常に短いです。解答時間の1割程度を見直し時間に割り当てる必要もあり、一問あたり5分以上必要な問題もあるので、特定の問題にこだわらずに素早く処理しなくてはなりません。ある間題の誤答が、次の問題の解答に影響することはほぼありません。計算問題への対応は、教科書に掲載されている例題や基本間題、演習問題、およびセンター試験の過去問の演習で十分です。そしてより短時間で解答することを意識して学習しましょう。さらに、計算の全体像を見越し、より少ない関係式にまとめられるならば、数値を選ぶ選択問題の解答時間の短縮が可能です。割り切れるように数値を設定されていたり、近似計算だけで正答を選択できるよう設定されています。ただし、近似を用いた際には全体をひととおり解答した後に見直しが絶対に必要です。解答速度を上げるためには、文章を素早く正確に読む読解力の向上も必要です。単純な読み間違いによる誤答をなくしましょう。
共通テストに特有の問題として、用語の定義や正確な使い方に閲して出題されますが、そのような問題で扱われる用語は限定されます。過去問を解く中で整理しましょう。扱われる化学反応式も必ず教科書に掲載されています。化学反応を全て暗記する必要はありませんが、概要と本質を理解する必要はあります。例えば「反応物と生成物は?」「反応に必要な条件は?」「なぜその反応が進むのか?」。これらを意識しながら覚えることで、問題への対応力が上がります。問題の題材として、身の回りの現象、材料、化学工業、エネルギー分野、環境分野、ノーベル賞、および話題になった物質などから出題されることがありますので、普段からそのような知識を取り入れる姿勢が必要です。見慣れない知識や現象について問われると戸惑うかもしれません。しかし要点にさえ気づければ、教科書程度の理解により正答へたどりつけるように設問されています。冷静になって問題に向き合うことが必要です。
生物
【知識の習得と読解力の向上で満点を目指す】
共通テストの生物は難化が予想されます。その大きな要因は文章量の増加です。例えば、文章正誤問題では選択肢の文章が長くて紛らわしく、単純な用語の丸暗記では対応できないだけでなく、一つひとつ注意深く読む必要があります。求められる知識は基本的なものですが、「知識の正確な理解」が大事です。特に生物では、ほかの知識と関連づけながら理路整然と理解していくことで活用できる知識を身につけていきます。こうして築かれた知識と理解力は、国公立大学個別試験、私立大学入試でも活用できます。面倒と思わずに苦手な単元から取り組みましょう。その際、単語ごとではなく教科書のように文章として理解すると良いでしょう。教科書の音読が有効です。
選択肢の数は、難易度に直結します。選択肢が増えれば文章量が増え、文章読解のスピードが要求されます。さらに、複数回答になるとなおさら正答率が下がります。普段の学習では消去法など選択肢に頼らず、全ての選択肢について、正しい・誤りの理由を説明するように心がけ、自信をもって取捨選択できるようにしましょう。
実験や観察の考察問題は、思考力を問われる配点の高い部分です。まず実験の原理や手順を長いリード文を読解して理解することから始まります。その上で結果を解釈し、問題に取り組みます。旧課程以前の問題でも良問が多く、今でも練習材料として大いに活用できます。ただし、過去の問題は単元が限定されるため、理系の場合は足りない単元(進化系統や遺伝子発現)は問題集などで補っておきましょう。最近の過去問は、最後の仕上げに取っておくと良いでしょう。
図表の分析も広い意味で「読解力」といえます。そのカは当然、国公立大学個別試験や私立大学の筆記試験でも求められますが、共通テストの生物基礎でも必要になります。マーク試験も筆記試験も必要な力が共通するものもありますが、問われ方が異なります。そのため、この両者を同時にトレーニングし、どんな形式でも対応できる力として鍛えていくのが理想です。「先に共通テストを仕上げてから・・・」「個別試験向けに勉強しておけば対応できる」などと偏らせずに取り組みましょう。
実際には、他科目とのバランスが最も大切です。数学が苦手だから生物ばかりやる、英単語ばかりやっていて生物が疎かになるなどとなっていないでしょうか。記憶は時間が経てば薄れ、学力は退行します。むしろ苦手科目に時間を割きつつ、かつ、まんべんなく学習できるよう、残り時間を計画的に、有効に利用してください。
世界史
【世界史の試行調査】
試行調査の世界史は地歴公民科目の中では相対的に「保守的」な傾向が見られました。たしかに、図像やグラフの多用など、従来のセンター試験にはない新しい傾向も見られました。また、歴史的事象の内容を問う形式の問題も、これまでには見られないものでした。しかし、半分以上の問題は、従来のセンター試験の問題の「見せ方を変えた」形式であるように見受けられます。世界史については、共通テストに向けて過剰に警戒する必要はありませんが、一つ一つの事象をさまざまな視点から説明できるように、しっかりと理解して臨む必要があると考えられます。
【新傾向への対策】
準備する必要があるとはっきりといえることは、まずは図像に慣れることです。資料集などに日常的に触れて、図像に表されている意味や、図像の持つ時代的傾向に馴染んでおくと良いでしょう。本番のテストで見た覚えのある図像が出題されることはまずありませんが、似たような主題や描法に親しんでおくことが助けになります。
史料問題も高い確率で出題されると思われますが、図像と同様の対策が有効です。本番では初見の史料が出題されますが、史料が語る世界史上の事象が徊なのかを発想することが解答へのカギになります。そのためには、歴史用語の内容を理解しておく必要があります。このような内容理解は、歴史的事象の内容を問う問題や、複数の歴史事象を比較する問題への対策にもつながっていき、従来のセンター試験は語句と語句のつながりを把握していれば多くの問題に対応することができました。このため、漏れがないように「広く浅く」学習することが何よりの対策となりました。しかし、共通テストに関しては、問われる知識の範囲は変わらないものの、個々の事象に対してより具体的かつ正確に理解しておく必要があります。いわば、「広く深く」学習することが求められるようになると考えられます。
【学習方法】
基本は従来のセンター試験の対策が役に立つでしょう。地理的知識も含めた基本のインプットとアウトプットを繰り返し、間違えた問題については用語集などで逐一確認することが王道です。12月ごろからはセンターの過去問を使って、総点検を進めると良いでしょう。
その上で、新傾向に対しては、歴史的事象の用語集的説明を行うことが対策になります。Y-SAPIXのハイレベル世界史でも、小論述演習を用意して対策を進めていきます。センターの過去問も小論述演習も、「なんとなく」分かっている/解けていると思う個所は放置せず、かならずY-SAPIXの先生に質問してください。理解の精度を上げることが、満点への近道です。
日本史
【日本史の試行調査】
2回実施された試行調査で、最も変化があった科目の一つが日木史だったといえます。古代の道路が直線的であった意味を問うなど用語の暗記だけでは判断できない問題や、正解が複数設けられている問題など、これまでのセンター試験にはなかった斬新な、しかし受験生にとっては戸惑いかねない問題が数多く盛り込まれていました。
【新傾向への対策】
こうした新傾向の問題が、実際の試験でどの程度出題されるかは未知数です。しかし、学習の際に次のような点は意識しておくべきでしょう。
①図版・資料の読み取りに慣れる
試行調査では、例年のセンター試験以上に図版や資料が使用されていました。実際の試験でも、見たことがない図版や資料が出される可能性は高いでしょう。しかし落ち着いて読めば、求められているのは標準的な知識や読解力であることが分かるはずです。こうした問題への対策としては、要するに図版や資料の読み取りに慣れることが重要です。
②歴史用語の意味や出来事の因果関係を理解する
試行調査では、「海外渡航許可書」という抽象的な表現から朱印状という歴史用語を想起させる問題や、高度経済成長が起きた要因や影響を選ばせる問題が見られました。これらの問題に対応するためには、個々の用語を表面的に覚えるのではなく、用語の意味や出来事の因果関係をしっかりと理解しておく必要があります。
③各時期の抽象的な特徴をつかむ
さらに試行調査では、15世紀にどのような出来事が起きていたかを、抽象的な説明から判断させる問題もありました。主要な出来事が何世紀に起きたかを問う問題はセンター試験にもありましたが、今後は、各時期(世紀など)にどのような特徴があったのか、という見方でいっそう抽象的な時代感覚を養う必要がありそうです。
【学習方法】
以上のような特徴は、センター試験の問題にもすでに見られていました。そのため共通テストに変わっても、これまでのセンター試験対策の学習方法自体は有効だと考えられます。つまり、歴史用語や出来事の因果関係をインプットして定着させたうえで、一問一答・空欄補充・正誤判定などさまざまな形式の練習問題でアウトプットを重ね、さらにセンター試験の過去問を解くことで実戦力を身に付けるというものです。
もっとも試行調査では、上記の特徴がさらに強調されたものとなっています。そのことを感じるためにも、試行調査の問題を必ず一度は解いてください。また、Y-SAPIXの授業や教材でも共通テストの特徴を念頭に置いた問題は用意していますが、ほかにも市販の対策問題集などが出版されています。試行調査の問題を解いてみて①~③のポイントに苦手意識を感じるようであればそれらも活用し、基本的な学習方法にプラスする形でぜひ対策を行って下さい。
地理
【センター試験の過去問対策で初めての共通テストに対応しよう】
2020年までのセンター試験の地理Bでは例年大問6問、小問35問程度が出題されていました。2017年、2018年の共通テスト試行調査の地理Bは大問5問、小問30問程度が出題されました。もし2021年に初めて実施される共通テストが試行調査と同様なら、センター試験より小問数が減少することになりますが1問あたりの選択肢数や問題文などが増加していたため、受験生は例年にない準備が必要であると思われます。しかしながら図と統計を融合させて解答を導き出す問題や、地形図の読み取りの問題など、地理特有の出題形式には大きな変化がないため、習得すべき技能にも大きな変化はないと思われます。
社会・自然の諸事情が網羅され、何がどこにあってどうなっているのかを理解し、それを図や表にどのようにして表現するか。センター試験の問題には地理という教科の本質が凝縮されていました。地形、気候、農業、人口、都市などの各分野についてのグラフや地図、資料の表現方法は多様で、教科書や既存の参考書などに掲載されていないものが出題されることもありました。そのため、共通テストも農産物の生産順位や各国の人口など具体的な数字を示しながらも、相対的な高低、大小で考えさせる問題が中心であり、地理的事象を頭の中で迅速に整理し、問題の意図を汲んで正解にたどりつける思考技量が求められます。すでに頭の中に世界の地図が描ける人は、各地域の自然や産業・文化などの知識をインプットし、まだ描けない人は白地図を用意し学習したことを何でも構わないので書き込みましょう。日本の周辺諸国、ヨーロッバなど1つの地域の地図を何枚も用意して、そこに多様な情報を書き込めば、自分なりにその地域や国の姿が見えてくるはずです。また世界全体の気候、農業など特定のテーマの図をつくってみましょう。それから問題演習に取り組めば、以前よりも迷わずに解答を導き出せるようなります。
2016年以降のセンター試験は大問6問中3問が系統地理、2問が世界地誌、1問が日本の地域調査で、2017年、2018年の共通テスト試行調査は大問5問中3問が系統地誌、1問が世界地誌、1問が日本の地域調査と構成は似ています。そのため、直近の5~7年間のセンター試験の過去問演習を繰り返すのが最善の策です。その一方で、問題には昨今の国内外の情勢も反映されます。日ごろから世間の諸事象に対してアンテナを張って知識を吸収し、共通テストに向けて思考力を高めておくようにしましょう。
倫理・政治経済
【情報を整理し定着して】
昨年度のセンター試験では、倫理部門で現代英米圏の哲学者であるクワインについて出題されたり、カントとヘーゲルの哲学の内容に閑する出題があるなど、出題範囲が広くなり、そして本質的理解を問う傾向にありました。このような特徴は共通テストでも続くと予想されます。加えて、読解問題や資料解釈など応用的な問題が増加すると予想されます。
これらに対策するためには、基礎知識や用語をまず定着させなければなりません。「定着」とはただ暗記するだけではありません。基礎知識の背景にある事項を整理しながら、基礎知識を説明できることが「定着」です。倫理であれば、哲学者や概念の名前を覚えるだけではなく、どのような流れの中にあり、どのような思想的対立が存在するか理解しましょう。例えば、江戸時代の朱子学・陽明学・国学の対立点は何かといったことです。政治分野であれば、ある概念が実際の歴史や訴訟の中でどのように機能してきたかを理解しましょう。例えば、三菱樹脂訴訟の争点は何かといったことです。そして、経済分野であれば、経済理論上のメカニズムを具体的事例とともに説明できるようにしましょう。例えば、どのような場合に日本銀行が買いオペをするのかといったことです。
3分野に共通していえることは、一問一答ができるだけでなく、知識の背景を理解することが必要だということです。
【解答の理由を説明できるように】
以上のような勉強をしながら、同時にセンター試験の過去問を解いて演習をしていきましょう。基本的に倫政は消去法で選択肢を選ぶことが有効です。選択肢を消去する際に、なぜ消去するのかその理由を説明できるようにしましょう。何となく選んだものが正解であってもそれはまぐれの当たりにすぎず、本番の確実な得点にはつながりません。本質的に理解するために、理由をじっくり考える習慣をつけてください。11月は考えることにたっぷり時間を使ってください。そして12月からは、その考える癖をもって60分以内で解けるように練習していきましょう。わからない問題にぶつかったときは、いつでもY-SAPIXの担当スタッフに質問してください。
読解問題や資料問題を解くためには本質的な理解が不可欠です。そして、理由をもって解答するという訓練が本質的理解への近道です。共通テストで出題が予想される読解問題や資料問題に不安を持っている方も多いと思います。そのようなときは、試行調査の問題や代ゼミの共通テスト模試など解いてみてください。本質的な理解ができていれば、出題形式の新しさに戸惑うことなく、正解が導けるはずです。
この記事は2020年10月20日に刊行された『Y-SAPIX JOURNAL』2020年9・10月号に掲載された記事のWeb版です。
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今回の「教科別学習アドバイス ―大学入学共通テスト編―」の他、東京理科大学の松本洋一郎学長のインタビュー記事や、大学入学共通テストの学習アドバイスなどを掲載した『Y-SAPIX JOURNAL』を配布中です。
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