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大学歴訪録プレイバック #1 東京工業大学

大学受験 Y-SAPIX

「志」をもって想像を超えた
「何か」を生み出してほしい


 2016年4月に学部と大学院とが一体となって教育を行う「学院」を日本で初めて設置するなど、大胆な教育改革を展開しているのが東京工業大学です。改革の中身とこれからの取り組み、中高生へのメッセージなど、髙宮敏郎SAPIX YOZEMI GROUP共同代表が益一哉学長にうかがいました。

学びの“ 先”が
見通せる「学院制度」


髙宮 本日はよろしくお願いします。久しぶりの大岡山キャンパスですが、都心からのアクセスのよさをあらためて実感しました。

益 ありがとうございます。大岡山駅に降り立つと目の前がキャンパスという立地は、産学官連携を推進する場合においても非常に有利なポイントだと思います。私は産学官連携が特に活発な半導体分野が専門ですから、立地のよさは本学の学生時代から身に染みて実感しています。

東京工業大学学長 益 一哉先生

髙宮 さて、本日はさまざまな取り組みを通じて、東京工業大学の魅力をうかがいに参りました。さっそくですが、2016年4月から導入となった「学院」についてお聞かせください。

益 本学は、2030 年までに「世界トップ10に入るリサーチユニバーシティ」になることを目指して、2016年に「教育改革」「研究改革」「ガバナンス改革」の3つの改革を開始しました。学生の学びを深めて世界で活躍する力を育てる「教育改革」の大きな柱が「学院」の設置です。本学では約9割の学士課程学生が大学院に進学する現状に即し、学士課程と修士課程、修士課程と博士後期課程の教育体系を一体化し、教育カリキュラムが継ぎ目なく学修しやすいよう設計された教育体系をとっています。学院では、学問領域を大くくりの組織にすることで、学生が自らの興味・関心に基づいて、広い視野の中で俯瞰的にかつ体系的に学ぶことを重視しています。
理学院、工学院、物質理工学院、情報理工学院、生命理工学院、環境・社会理工学院の6学院内にそれぞれの“系”を配置しており、入学後は所属する各学院で1年目を過ごし、2年目になるとそれぞれの系に所属します。学士課程入学から大学院修了まで、学生の関心や能力に応じた学び方を提供できるのです。

「志」ある人材を育てる
独自のリベラルアーツ教育


髙宮 学院での「横のつながり」について、お聞かせください。

益 本学の学生は、自らの専門分野については、自主的にしっかりと学ぶことがこれまでの経験上分かっています。しかし、学問分野を横断するような学びや取り組みについては、仕掛けが必要です。イノベーション( 技術革新)には異分野間の連携が欠かせません。半導体分野の研究者としての意見を言わせていただくと、1980 年代に世界を席巻していた日本の半導体産業ですが、今ではアメリカや韓国、欧州、台湾の後塵を拝しているのが実情です。この原因は、日本の産業の舵取り役を担っていた理工系出身の経営者たちが視野狭窄に陥っていたためです。幅広い分野への理解なくして、未来社会を担う人材育成はありえないという思いが強いですね。

髙宮 なるほど。そうした過去の反省が出発点なのですか。

益 本学では、専門教育をサポートしつつも、社会性と人間性を兼ね備えた「志」ある人材を育成することを目的とした「リベラルアーツ教育※2」で横のつながりを強化しています。学生一人ひとりのゴールに応じて、学士課程から博士後期課程まで最長9年間の教養教育を行います。

髙宮 最長9年間の教養教育というだけでも、他大学では見られない取り組みですね。どのような特徴があるのですか。

益 人文学(哲学、文学、文化人類学、芸術等)・社会科学(法学、政治学、社会学、心理学等)、文理融合科目(科学技術論、統計学、意思決定論等)の文系教養科目に加え、語学など多彩な科目が揃っています。特徴的なのが、教養教育の骨格をなす「教養コア学修」を2年ごとに履修する仕組みです。順に、学士課程1年目の学生が受ける「東工大立志プロジェクト」、3年目の「教養卒論」、修士課程1年目の「リーダーシップ道場」、博士後期課程では「学生プロデュース科目」があります。

髙宮 単に幅広く学ぶだけにはとどまらないのですね。

益 おっしゃる通りです。最も重要なのが、やはり入学直後の第1 クォーター※3に全学生が履修する「東工大立志プロジェクト」です。この科目は講堂での大人数講義と、学院の関係なく振り分けられた30人以下の少人数クラスでの演習を交互に実施するものです。現在は月曜日に大人数講義を受けて「ふりかえりノート」を作成し、木曜日の少人数クラスではこのノートを活用して4人一組による対話を行います。このプロセスを7週間繰り返し、少人数クラスの最後の講義で個人、あるいは各グループで立てた「志」を発表するのが「東工大立志プロジェクト」です。「大学で何を学んで行くのか」という方向性を見いだすステップとお考えください。

学院制度一期生の
成長に手応え


髙宮 「東工大立志プロジェクト」を履修した後、各課程の節目には教養コア学修を配置しているのですね。

益 「教養卒論」では、自分が学んできた教養や専門知識を糧としてどのように世界に貢献していくのか、5000字~10000字の文章にまとめます。

髙宮 どのようにして教養卒論をまとめていくのですか。

益 2年ぶりに「東工大立志プロジェクト」のメンバーと再会して、ともに学びながら執筆していきます。「リーダーシップ道場」ではリーダーに必要なプレゼンテーションや合意形成する能力を育み、「学生プロデュース科目」は博士後期課程の学生に必要な「教養」を身につけるための講義を学生たち自身で運営します。

髙宮 大学の入口から出口まで、継続的に学んでいく設計なのですね。

益 「リーダーシップ道場」で成績優秀だった修士課程学生は、学びの一環で「東工大立志プロジェクト」の少人数クラスをサポートするファシリテーター(促進者)を務めます。

髙宮 なるほど。学年を越えたつながりも構築される取り組みだということが分かりました。導入が2016年度ですから、2020年3月の学士課程卒業生から“学院生”ですね。手応えはいかがでしょうか。

益 手応えを感じています。一期生たちの「教養卒論」の一部を私も読んでみましたが、「バイオテクノロジーでまだ注目されていない分野の研究で勝負したい」「コンピューターゲームを芸術の域まで高めていきたい」といったユニークな内容の文章が印象に残っています。

髙宮 3年目の段階で将来自分がいかに社会と向き合っていくのか、「志」が定まってきているというのは頼もしい限りです。

東京工業大学が示す
「ありたい未来」


髙宮 教養卒論の内容から学生がどのような未来社会を考えているのか、その一端がうかがえます。

益 学生だけではありません。大学も「ありたい未来」=あるべき未来ではなく「人々が望む未来社会」を探り、社会に発信しています。

髙宮 いわば、東京工業大学の「志」ですね。どのような内容なのでしょうか。

益 2018年3月に、本学は文部科学大臣から「指定国立大学法人※4」の指定を受けました。その際、創立150周年を迎える2030年に向け、指定国立大学法人として豊かな未来社会の実現に貢献することを表明したのです。どのように豊かな未来社会を実現するか考え、そこに至る道筋をデザインしていくのが「未来社会DESIGN 機構(DLab)」です。学内外の研究者・有識者がメンバーとなり、本学の教職員・学生・卒業生、さらに学外の皆様、高校生や一般の方などとともに、30~50年先の豊かな未来社会像をデザインし、活動の輪を広げていきます。これまで議論してきた、ありたい未来の社会を俯瞰するためのツールとして、2020年1月には「東工大未来年表」も作成しました。

髙宮 どのようなものか、ご紹介いただけますか。

益 一例を挙げれば、2030年には「場所の束縛から解放される」という未来を示しています。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といった技術を駆使して、自分のやりたいことを現実世界、仮想世界の好きな場所で行うことができるようになることです。例えば、東京にいながらハワイのビーチの風景の中で授業を受けたり、自分の思い出の場所を再現して出産を迎えることが可能な未来です。2200年には、「物質と生命の根源が理解され、持続可能な社会が実現する」という未来を示しています。素粒子レベルで物質と生命進化過程が解き明かされ、現代をはるかに超えた科学・技術を駆使して、地底・深海・南極・空中・宇宙などあらゆる環境に人類は進出します。活動範囲が飛躍的に拡大することによって、多様な場所での食料生産や資源採掘が可能となり、食糧問題や資源枯渇問題が解消されるというものです。

髙宮 専門家がおっしゃると、やはり説得力があります。お話をうかがい、私もワクワクしてきました。

益 そのお気持ちこそ、理工系で学ぶ醍醐味だと思います。本学のWEB上、および大岡山キャンパスの博物館・百年記念館の1階に、「東工大未来年表」を展示していますので、ぜひ、本学が示す未来をご覧ください。

理工系ならではの
人間味あふれる教育


髙宮 最後に、中高生の皆さんが心掛けておくべきことや、メッセージをお願いします。

益 科学技術は新しいものへと常に変化しています。ですから、大学で先生に教わるだけでは先へ進めません。「しっかり学び、自分の力で育っていこう」という主体性がなければ、最新のトレンドについていくことさえできないでしょう。本学では学生の主体性を刺激する環境を整えていますので、その中から私たちが想像もできないような「何か」を生み出していただきたいと思います。

髙宮 保護者の皆さんに対してのメッセージもお願いします。

益 保護者の皆さんは、理工系というと「頭が硬い」「杓子定規」といったイメージがあるかもしれません。しかし実際は違います。本学は、人間味あふれる教育の場です。学士課程において教員はもちろん、学習面と卒業後のキャリアなどについては「学修コンシェルジュ※5」が、生活面は「ピアサポーター※6」がそれぞれ学生の相談に応じます。そうした枠組み以外でも、先輩が後輩に学習面のアドバイスを行う光景は、本学では珍しくありません。

髙宮 学生にとって、相談できる先が複数あるのは助かりますね。中には、大学の教員に相談できない内容だってあるかもしれません。

益 確かにそうですね。懇切丁寧な指導は、大学院教育になるといっそう顕著です。例えば、大学院生が論文を執筆する際には、教員が一字一句、懇切丁寧にチェックを行います。頻繁に実験を行う研究室では準備から後片付け全般にわたり、器具を壊したり事故を起こさないように指導を行います。

髙宮 文字通り手塩に掛けた教育ですね。

益 学生の論文には指導教員の名前も記載されますし、高価で貴重な実験器具を損なうことがあれば大変です。そこは教員も一生懸命です。

髙宮 保護者の皆さんも、安心してお子さんを送り出せますね。

益 安心という意味では、奨学金などの学生への経済的支援にも力を入れています。女子学生、地方出身者、家族の中で初めて大学に進学する方など、多様な学生に向けた奨学金も設けています。「可愛い子には旅をさせよ」という言葉がありますが、ぜひ、チャレンジングな本学でお子さんを学ばせてみてください。

髙宮 東京工業大学ならではの取り組みと人間味あふれる教育の中身が、よく分かりました。本日はありがとうございました。

※1=技術経営専門職学位課程です。
※2=人文科学・社会科学・自然科学から学際・統合科学までバランスよく修め、「答えのない未知の問題」にも対処できる知性を育む教育を意味します。
※3= 2016 年度から東京工業大学では1年間を4つの「期」に分ける授業制度「クォーター制」を導入しています。
※ 4 =「研究力」「社会との連携」「国際協働」の3つの領域において、既に国内最高水準に位置しており、世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる国立大学法人のことです。現在、東京工業大学を含めた7大学が指定を受けています。
※ 5 =学生支援センターの教職員と、東工大同窓会メンバーが担当しています。
※ 6 =ピアサポート( 学生による学生のための学生相談)を行う学生のことです。

■プロフィール
東京工業大学 学長 益 一哉先生
ます かずや ● 東京工業大学工学部卒業、同大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。工学博士(電気通信工学)。東北大学電気通信研究所助教授を経て、東京工業大学精密工学研究所、統合研究院、ソリューション研究機構で教授を歴任し、同大学科学技術創成研究院では教授・研究院長を兼務。2018年4月から現職。

■東京工業大学の紹介

日本の工業立国化を支えた
東京職工学校がルーツ


東京工業大学のルーツをさかのぼると、1881 年( 明治14年)設立の東京職工学校にたどり着きます。明治政府が日本の工業立国化を目指し、優れた職工長・工業教員の養成を目的に設立した工業教育機関であり、浅草区蔵前( 現・台東区蔵前)に校舎を構えていました。卒業生は全国各地のモノづくりの現場で活躍し、「煙突あるところ蔵前人※あり」と高い評価を得ていたのです。
 その後は、1890 年( 明治23年)に東京工業学校、1901 年( 明治34年)に東京高等工業学校と改称が行われましたが、1923 年( 大正12年)の関東大震災によって蔵前の地は大きな被害を受けてしまいます。
 1924 年( 大正13年)、現在と同じ目黒区大岡山に校舎を移転し、1929 年( 昭和4年)に東京工業大学と名称を変えました。なお、当初の英語名称は「Tokyo University of Engineering」でしたが、1946年( 昭和21年)前後には「Tokyo Institute of Technology」に変更されています。
 キャンパスは大岡山と、すずかけ台(神奈川県横浜市)、田町( 東京都港区)にあり、どのキャンパスへも最寄り駅から徒歩5分以内で通うことができます。学士課程1年目はすべての学生が大岡山キャンパスで学びますが、すずかけ台キャンパスにも多くの研究室があり、ここを拠点とする学生も大勢います。田町キャンパスには附属科学技術高等学校や社会人アカデミーがあります。
 シンボルマークは「ツバメと窓」を表現しています。東京「工」業「大」学のうち、「工」の文字を窓に見立て、「大」をツバメの形にデザインしたもので、東京美術学校教授だった堀進二氏が1948 年に考案しました。

※=蔵前人は、東京職工学校の卒業生を指します。

「志」のある東工大生が
集まる学びの場

2011 年にオープンした新しい東京工業大学附属図書館。大岡山キャンパスの正門を抜け、本館に向かうキャンパスの一等地に、突然、「緑の丘」と通称「チーズケーキ」とよばれる、ガラス張りの学習棟が現れます。図書館は大学にとって「学び」の場の中心、「知の集積」の場であり、「大学の顔」となる最も重要な施設です。「緑の丘」の下にある図書館エリア( 地下1階・地下2階)には多くの蔵書が収められています。また、空中に浮かぶ学習スペース(2階・3階)ではグループ討議やプレゼンの練習などができ、さまざまな用途に活用されています。

東京工業大学で一般の方にも広く知られているのが、スーパーコンピュータ( スパコン)の「TSUBAME 」でしょう。2006 年の初稼働以来バージョンアップを重ねながら、日本を代表するスパコンのシンボルとして親しまれています。学士課程学生の研究やレポート作成にも利用できるなど、学内外でさまざまな研究に活用されています。TSUBAME は省エネにも配慮したスパコンとして知られており、2017 年運用開始のTSUBAME 3. 0 は、エネルギー消費効率の面から評価される省エネランキング「Green 500 」において2017 年6月に世界1位を獲得しています。


■Y-SAPIXよりお知らせ

この記事は2020年6月19日に刊行された『Y-SAPIX JOURNAL』2020年7・8月号に掲載された記事のWeb版です。
※写真提供: 東京工業大学

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