数学こぼれ話#16 実社会シリーズvol.1 ~二次関数で野球を考えよう~
皆さん、こんにちは。
2023年度の数学こぼれ話は「対話シリーズ」と「実社会シリーズ」の2本柱で進んでいきます。
実社会シリーズは、「高校数学を使って身近な物事を考察してみよう」というシリーズです。共通テスト対策にも是非!
さて、先日のWBCでは3大会ぶり3回目の日本優勝に、国内が大いに沸き上がりました。
そこで、今回のテーマは野球×二次関数とし、「高校数学」という観点から野球に斬り込んでみましょう。
〇単純な「モデル」を作ろう
現実世界で起こる現象は、様々な要因が複雑に絡み合っています。
もちろん、今回のテーマである「野球」も例外ではありません。
フィールドの気温・風・空気抵抗、選手たちの戦略・読み合い・選手ごとの特性…。これらを全て考慮しようものなら、もはやコンピュータの仕事です。
ここでは、手計算で扱えるように単純化した「モデル」を作りながら、考えてみましょう。まず、バッター・ショート・レフトの位置と特性は、下図のようにします。
役割の確認をしておくと、「ショート」は塁付近の守備をし、「レフト」は外野の守備をします。また、ボールの動きに影響を与える風や空気抵抗は全くないものとし、人やボールの大きさも無視します。
〇ボールの軌道は放物線を描く!
バッターが打ったボールの速さ(打速)を$${𝑣[m/s]}$$とすると、ボールの軌道は放物線を描きます。二次関数のグラフですね。バッターを原点O、ボールの進行方向を$${x}$$軸、地面からの高さ方向を$${y}$$軸にとれば、この放物線を表すおよその式は
$${y=-\dfrac{20}{\gdef\bar#1{#1^2} \bar{3v}}\gdef\bar#1{#1^2} \bar{x}+\dfrac{1}{\sqrt{\smash[b]{3}}}x\cdots(*)}$$
と書けます。(※詳しい計算は省略します。)$${𝑣[m/s]}$$が大きいほど放物線は平べったく、最高到達点は高くなることが分かります。下の図も参考にしてみてください。
〇ショートか? レフトか?
$${(*)}$$を見ると、ボールの軌道は打速$${𝑣[m/s]}$$だけで決まることが分かります。バッターから$${30m}$$に待機しているショートの所にボールが落ちてくるのは、どのような打速のときでしょうか? 放物線が再び$${x}$$軸と交わるときを考えれば、次のように計算できますね。
$${(*)}$$で$${y=0}$$として
$${0=-\dfrac{20}{\gdef\bar#1{#1^2} \bar{3v}}\gdef\bar#1{#1^2} \bar{x}+\dfrac{1}{\sqrt{\smash[b]{3}}}x}$$
$${x≠0}$$として$${x=\dfrac{\sqrt{\smash[b]{3}}}{20}\gdef\bar#1{#1^2} \bar{v}}$$なので、$${x=30}$$となるのは$${\dfrac{\sqrt{\smash[b]{3}}}{20}\gdef\bar#1{#1^2} \bar{v}=30}$$より
$${v=\sqrt{\smash[b]{200\sqrt{\smash[b]{3}}}}≒19[m/s]}$$
のとき。
$${19[m/s]}$$といえば時速$${68km}$$ 程度です。打速の平均は少年野球でも時速$${70~100km}$$ と言われているので、ショートの所にボールが落ちてくることはほとんど無く、大体は背後の方に飛んでいきますね。したがって、動ける範囲が広いショートほど「遊撃手」としてレフトに頼らずボールを捕り、より確実に塁を守ることができるというわけです。
ところで、上の計算で「落下地点を与える式」として出てきている
$${x=\dfrac{\sqrt{\smash[b]{3}}}{20}\gdef\bar#1{#1^2} \bar{v}}$$
もまた、打速$${𝑣[m/s]}$$の二次関数なので、$${𝑥}$$はすぐに大きな値をとることにも注意しましょう。
例えば、$${𝑣}$$が$${30[m/s]}$$のときは$${𝑥 ≒ 78[m]}$$なので、ここまで来たらボールを捕るのはレフトに任せ、ショートは「中継」という役回りに切り替えるのがよいでしょう。
もちろん、実際のプレーは上の考察よりも遥かに複雑です。数式を使って計算こそしないものの、選手たちは様々なプレーや試合を通じて「データベース」を作り上げ、その場その場で最適な判断を下しながら動いているのですね!
それでは、次の「実社会シリーズ」で再びお会いしましょう!
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