大学歴訪録#15 立命館大学
「自由と清新」を今に伝える
関西私学を代表する総合大学
京都市に本部を構える立命館大学は1900年に創設され、16もの学部を擁する、関西私学を代表する総合大学です。2019年から学長を務める仲谷善雄先生に、SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表がリモートでお話を伺いました。
「立命館=グローバル」
きっかけは1988年に
髙宮 本日のインタビューに先立ち、立命館大学のイメージを弊社スタッフに聞いたところ、全員が口をそろえて「グローバル!」と答えました。「立命館=グローバル」というイメージは広く社会に浸透していると思います。
仲谷 ありがとうございます。そうしたイメージが生まれるきっかけとなったのは1988年に国際関係学部を新設したことです。これが本学のグローバル化の端緒で、学園が大きく変わる契機ともなりました。それ以降、学園として新しいことを始めるときは新しい学部、新しい教学を創るというスタイルが定着していきます。
国際関係学部には募集人数360名のうち80.100名が日本以外の国から入学します。これにより、日本の学生には世界が身近に感じられる環境を提供し、海外からの留学生には日本で学ぶ意義を確実に伝えることができます。学部新設以来、8000名以上の学生が巣立っていき、外交や国際ビジネスの世界で活躍しています。
髙宮 英語オンリーの授業も行われていますね。
仲谷 はい。現在では一つの学部と四つの学科・コースで、英語だけで卒業できる仕組みを確立しています。
例えば、グローバル教養学部はオーストラリア国立大学との提携によるデュアル・ディグリー・プログラムを構築しています。1学年100名が4年間全て英語による授業を受け、卒業すれば本学とオーストラリア国立大学の両方で学位を取得できます。
国際関係学部のグローバル・スタディーズ専攻の授業も全て英語です。同じくアメリカン大学・立命館大学国際連携学科に至っては、学部レベルでは国内で唯一、海外大学とジョイント・ディグリー・プログラムを展開しています。両校のカリキュラムは全く同一で、学生は京都の本学とワシントンD.C.のアメリカン大学でそれぞれ2年間ずつ学ぶことにより、単一の共同学位を取得できます。
また政策科学部のCRPS(Community and Regional Policy Studies)専攻、情報理工学部の情報システムグローバルコースも4年間英語だけで授業を行っています。後者のように、理工系かつ日本人学生向けで英語オンリーの専攻は、わが国でもかなり珍しいと思います。
髙宮 貴学はアメリカンフットボール、ラグビー、女子陸上などが強いことで有名ですが、立命館憲章にも「教育・研究および文化・スポーツ活動を通じて信頼と連帯を育み」という一文があります。あえて「スポーツ活動」と明文化しているところが貴学らしいと感じました。
仲谷 本学では学生の皆さんが課外活動で輝くことも重要であると考えています。課外活動こそ探究の場であり、自分が主体的に行動できる場であり、目標に向かってバックキャスティング(※1)で物事を考えられる場でもあるからです。こうした経験は自己の成長につながり、社会に出てからもきっと役立つでしょう。どこの大学でも学生の課外活動を支援するのは、それが本人にとって教育・研究の場となり得るからです。正課だけで終わらない大学生活の方が、豊かな人間性が育まれると思います。
「立命館」は学問を通じて
人生を切り開く修養の場
髙宮 私がペンシルベニア大学で学んだ大学経営学の講義では、“mission-centered,market-smart”が繰り返し説かれました。日本語でいえば「不易流行」に相当するもので、常に建学の精神に立ち返りつつ、社会の変化にも柔軟に対応することと解釈しています。貴学もまさにそれを実践されていると思われますが、そもそも「立命」にはどんな意味が込められているのでしょうか。
仲谷 「立命」は中国の古典『孟子』の「盡心章」の一節に由来し、「生きている間は自分の身を律し、学問修養に努める」という意味です。それに「館」をつければ、「学問を通じて自らの人生を切り開く修養の場」となります。
新しい時代を担う若者を育てるため、西園寺公望が設けた私塾「立命館」を起源とし、西園寺の秘書だった中川小十郎がその意志を受け継いで1900年に創設した京都法政学校から本学は出発しました。建学の精神は「自由と清新」。これは建学以来、一貫して変わりません。
私が座右の銘としている「逍遙遊」は孟子と同じ中国古代の思想家・荘子の言葉で、「何事にもとらわれない自由な心のありよう」を表したものです。
髙宮 貴学は2030年を見据えた中期計画も掲げられていますね。
仲谷 2018年に「学園ビジョンR2030」を公表しました。中核を成すキャッチフレーズは「挑戦をもっと自由に」。先ほど「常に建学の精神に立ち返りながら社会の変化にも柔軟に対応する」というお話がありましたが、「挑戦をもっと自由に」というキャッチフレーズは、本学の建学の精神である「自由と清新」を現代的に言い換えたものにほかなりません。
髙宮 なるほど、貴学の教育に関する根幹部分は、いささかもぶれていないということですね。
映像学部と情報理工学部が移転
クリエイティブなキャンパスを実現
髙宮 1900年に京都法政学校としてスタートした貴学は、多くの学部を新設しながら規模を拡大し、現在は16もの学部を擁する総合大学となりました。学部のキャンパスは3カ所にありますが、近い将来、二つの学部がキャンパスを移転すると伺いました。
仲谷 はい。京都市の衣笠キャンパスにある映像学部と、滋賀県草津市のびわこ・くさつキャンパス(BKC)にある情報理工学部が2024年4月、ともに大阪府茨木市の大阪いばらきキャンパス(OIC)に移転します。
髙宮 そのキャンパス移転にはどんな狙いがあるのですか。
仲谷 これからの時代、テクノロジーの分野では情報技術が圧倒的な主役を占め、ICTが私たちの暮らす社会のプラットフォームになります。その際、ICTの中身となるコンテンツを制作するには、メディア表現の技術が不可欠になるでしょう。そこで、ICTの中核を担う情報理工学部と、メディア表現を専門に研究する映像学部が一つのキャンパスに同居すれば、互いに刺激し合い、高め合うことで、時代を動かす何か新しい価値を創造できるはずです。キャンパスを「新たな価値を創出する先端的実証実験の場」にしたいと考えています。
大阪はメディア関連企業が集積していると同時に、ICTを含む工業や物流の盛んな地域でもあります。そんな地に情報理工学部と映像学部が移転することで、新たな産学連携も視野に入ってきます。
全都道府県から学生が集結
多様性がイノベーションを
髙宮 毎年春、貴学の門をくぐる学生の半分以上は関西圏以外からやって来ていますね。大学のキャンパス以外の地方に試験会場を設ける、いわゆる地方入試もかなり早くから始められたのではないでしょうか。
仲谷 地方入試には1950年代から取り組んでいます。本学はその先駆けだったと思います。
関西圏に限らず、広く全国から学生を募るのは、本学の建学の精神である「自由と清新」に由来しています。「自由」を別の言葉に置き換えれば「多様性」といえます。多様性が担保されるからこそ、自由が認められ、自由な精神があるからこそ、多様性を実現できるのです。
一方、「清新」を言い換えれば「イノベーション」になります。今の時代、「自由と清新」は「多様性とイノベーション」とも表現できるわけです。多様な人材が集まってこそ、そこにイノベーションが生まれる。だからこそ、全国から本学に来てほしい。ありがたいことに、今も毎年、全都道府県から学生が入学しています。
髙宮 それだけ親元を離れて暮らす学生が多いということですね。
仲谷 本学は学生同士の学び合い(ピア・サポート)が個や組織の成長につながっていると考えています。特に「オリター制度」と呼ばれる2回生以上の先輩が新入生を学習面・学生生活面から支える取り組みは、長い歴史の中で脈々と受け継がれている本学の特徴的な制度です。
髙宮 最後に、読者の皆さんにメッセージをいただけますか。
仲谷 高校生の皆さんには、「数学が苦手だから文系だ」などと、将来を“消去法”で決めてほしくありません。自分は将来、どんなことで社会に貢献したいのか。それをまず見定めた上で、「その夢を実現するために◎◎学部に進学したい」と、未来を前向きに考えてほしいのです。
私たちは他大学に先駆けてキャリア教育センターを創設し、企業と連携しながら学生の就職を全力で支援してきました。“就職予備校”だと揶揄する人もいますが、そうではありません。将来の夢や目標をまず設定し、それを実現するために、学生時代に何をどう学べばいいのか、バックキャスティングで未来から逆算して考えてほしい。大学で過ごす数年間はただの数年間ではなく、長い人生全体を見据えた上での数年間であるべきです。それを考えることが真のキャリア教育だと思います。
学園全体では「立命館起業・事業化推進室」を創設し、社会課題を解決するために起業したい小学生から大学院生までをさまざまな形で支援しています。夢を実現したい人、新たな夢を見つけたい人はぜひ本学の門をたたいてください。
■プロフィール
学長 仲谷 善雄さん
なかたに よしお
●1981年大阪大学人間科学部人間科学科卒業。1981年三菱電機に入社し、中央研究所(後に産業システム研究所)に勤務。1989年学術博士(神戸大学)。1991年スタンフォード大学言語情報研究センター客員研究員。2004年立命館大学理工学研究所主事。2006年情報理工学部副学部長。2012年総合科学技術研究機構長、理工学研究所長。2014年情報理工学部長、情報理工学研究科長、学校法人立命館理事・評議委員。2018年学校法人立命館副総長、立命館大学副学長。2019年学校法人立命館総長、立命館大学学長。専門は防災情報システム、人工知能、ヒューマンインターフェース、認知工学、思い出工学、感性工学。座右の銘は「逍遙遊」(荘子)。趣味は美術館めぐり。
■立命館大学の紹介
16学部21研究科を
四つのキャンパスに展開
明治時代の政治家・西園寺公望が1869年に設けた私塾「立命館」に起源を持つ立命館大学は、1900年に京都法政学校として建学され、1922年に立命館大学になりました。
戦後に新制大学として再開した後は時代の要請に応じて新たな学部を次々に創設。現在は京都市北区の衣笠キャンパスに法・産業社会・国際関係・文・映像(※2)、滋賀県草津市のびわこ・くさつキャンパス(BKC)に経済・スポーツ健康科学・食マネジメント・理工・情報理工(※2)・生命科学・薬、大阪府茨木市の大阪いばらきキャンパス(OIC)に経営・政策科学・総合心理・グローバル教養、京都市中京区の朱雀キャンパスに法科大学院と教職大学院があり、計16学部21研究科を擁する総合大学へと発展しました。
※2 映像学部と情報理工学部は2024年4月、OICに移転する予定。
特筆すべきは外国人留学生と、約380という協定を結んでいる海外大学・機関の多さ。2000年に創立された大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学(学生の約半数が外国籍)とともにグローバルという形容詞がぴったりの、21世紀型ダイバーシティを象徴する大学といえるでしょう。
■Y-SAPIXってどんな塾?