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模試・教材制作の現場から【数学編】

徹底分析でトレンドを押さえる 
思考力・表現力を養い合格へ導く


受験生にとって教材と模試は、志望校に合格するための重要なサポートツールです。Y-SAPIXではそれらをどのように制作しているのでしょうか。数学の教材と模試の制作にも携わるY-SAPIXお茶の水校の八木政樹先生に、その過程や思いを聞きました。

Y-SAPIXお茶の水校 数学科 八木 政樹 先生


人の目によるていねいな校正
「解答・解説」は教材の要


――Y-SAPIXでは教材をどのように作っているのでしょうか。また、掲載する問題はどのように決めているのか教えてください。
八木 Y-SAPIXの授業で使う教材は、小学部の『デイリーサピックス』と同じように授業ごとに配布しています。制作に当たっては、まずは決まっているカリキュラムに沿ってテキストで扱う問題を選ぶところから始めます。入試問題を使用するときは、東大や京大といった最難関大学を参考にしつつ、多様な大学に対応できるように最近の出題傾向に合わせた題材を積極的に選ぶようにしています。オリジナル問題を作る場合も、それを意識しています。大学の入試問題を使用する際には、著作物の利用許可を得るための申請手続きが必要になるため、そういった問題選びを優先して作業を進めます。

問題が確定したら、次にその問題と解答の打ち込み作業を行います。数学の場合、文字だけでなく図形や数式などを記載する必要があるので、専用のソフトを使用するのですが、この作業が最も時間を要する部分です。どのようにすれば生徒にわかりやすくなるか、見やすい図形になるかなどを考えながら、一つひとつ手作業で打ち込んでいきます。それがある程度進んだら、その内容を確認する校正作業に移行します。打ち込みは人の手で行っているうえ、英語のスペルチェックとは異なり、自動的に式や数値の正誤をチェックする機能はないため、人の目を通して確認しなければなりません。この過程で別の解き方が見つかるケースもあり、そういった場合は新たに別解を設けることもあります。

――制作期間はどのくらいですか。
八木 教材の場合、生徒に配布する約半年前から始めて、約3か月間かけて校了(印刷する前の状態)となります。そのうち、打ち込み作業には1~1か月半かかります。また、一つの教材には3~4人がかかわり、問題選びから打ち込みまでを1~2人、その校正を別の2~3人が行います。

――教材を制作するうえで、特に留意している点はありますか。
八木 それは、「解答・解説」の制作です。これは「思考力」と「表現力」を育成するという、SAPIXグループ全体の理念に通じる非常に重要な部分だと思っています。「思考力」を育てるには、その答えにどのようなプロセスでたどり着いたかをしっかりと確認することが必要です。また、「表現力」とは、大学入試においては「記述力」を指します。大学入試、特に難関国公立大学の入試では、「答えが合えば〇」ではなく、記述での解答が求められるため、具体的にどのような解法で解答に至ったかを、詳細に書かなければなりません。解答・解説は、その「記述力」を高めるための模範となるものであり、 Y-SAPIXオリジナルテキストを使った授業と組み合わさることで、大学入試に必要な「思考力」と「表現力」が培われていくようになるのです。

日常生活に関連づけたより実践的な問題へ


――模試の制作についても教えてください。
八木 模試の制作に関しては、単元ごとに2~3人のチームを作り、1学年につき5~6題ある大問ごとに分担を決めて、各自が問題案を考えます。次に、各チームで問題案をまとめ、内容の修正を繰り返しながら問題を選定します。
続いて、教材制作と同じソフトを使って原稿を作成し、「教員検証」を行います。これは、実際に高校の先生方に問題の内容や難度の設定が適切かどうかを確認してもらうもので、1か月くらい時間を要します。その後、高校の先生方からいただいた意見を基に問題を確定していきます。ここまでが模試の制作でわたしたちが携わる仕事です。教材と同様に、実施日の3か月前くらいに校了となります。

――教員検証で大きな修正が入ることはありますか。
八木 教員検証では、「こういう問題を増やしてほしい」「この問い方は高校生には難しいのではないか」といった意見が多いですが、方針が大きく覆るような指摘は毎回ほとんどありません。ただ、「こういう問題を増やしてほしい」という現場の声は、次の模試で作題する際に取り入れるようにしています。

――実際にどのような要望がありますか。時代によってトレンドなどはあるのでしょうか。
八木 ここ数年で特に多いのは、「統計やデータ処理に関する問題を増やしてほしい」という意見です。これまでは数学の問題として扱われることは少なかった題材ですが、2021年に大学入試センター試験(以下、センター試験)から大学入学共通テスト(以下、共通テスト)に変わったことをきっかけに、問われる内容も変化してきました。新学習指導要領の導入により、生徒に求められる能力が変わってきたことで重視されるようになったのです。 

センター試験では計算力や処理能力を問う問題が中心に出題されていましたが、共通テストでは数学そのものを理解できているかどうかの思考力が問われています。実際に出題された問題を見てみると、社会的な問題を扱ったものや、日常生活と絡めたものなど、難度が上がって、かつ題材が幅広くなり、計算処理だけでは済まされない問題が増えました。

過去の模試が的中したことも
教材の問題に取り組むのが大切


――模試の制作で最も大変なのはどの作業ですか。
八木 テーマ選びですね。これまでのセンター試験のような計算処理を中心とした問題は作りやすかったのですが、ここ数年でテーマの幅が広がってきているので、どのように日常生活や社会問題とつなげるかという工夫が必要になってきました。ふだんの生活でもヒントを探していて、ニュースを見ては「これを数学の問題にできないか」などと考えるようになりました。

――近年に制作した模試が的中したことはありますか。
八木 数学は、数字を変えれば同じといってもいいような問題が多いため、類問が実際の入試で出題されたことは何度もあるといえるでしょう。数学の場合、「この単元ではこうした問題が出やすい」というのがある程度決まっているため、 Y-SAPIXではいろいろな大学の入試でよく出題される問題を中心に取り扱っています。
「的中」となると、2018 年の東北大学理系の入試問題は、 2011年に実施した模試とほぼ同じ形で出題されました。「カタラン予想」に関する証明問題なのですが、それは数学を専門に学んでいる人にとっては有名な「知る人ぞ知る」予想(定理)です。高校生になじみはありませんが、具体例を提示すれば、高校数学の範囲でもぎりぎり証明できます。最難関大学の入試では、こういった有名な定理や証明をかみ砕いた問題がよく出題されます。

この場合は、数年前に模試で扱った問題が出題されたわけですが、そうした良問は再度教材でも使うことが多いので、しっかりと教材に取り組むことが大事だといえるでしょう。

――最後に、中学受験を控えた読者の小学生に向けてメッセージをお願いします。
八木  よく生徒に「算数と数学の違いは何ですか」と聞かれますが、算数では、どちらかというと「いかに効率良く答えを出せるか」に主眼が置かれると思います。一方で数学は、そこからもう一歩踏み込んで「どうしてこのような解き方をする のか」をきちんと理解して、それを表現する能力が問われます。そのため、「算数が苦手」ということと「数学が苦手」ということは、けっしてイコールではないのです。算数の得意・不得意にかかわらず、しっかりと取り組むことで数学を得意科目にできる生徒は多いと思います。小学生の皆さんは計算力を高めながら、中学以降の数学の学習に向けて「どうしてこのような答えになるのか」を考える癖をつけておくとよいでしょう。

この記事は2023年2月21日刊行の『さぴあ』3月号に掲載された記事のWeb版です。


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