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【解法解説】2024年度 一橋大学 世界史

2024年度(令和6年度)の一橋大学(前期)の世界史について、現役生対象の大学受験塾Y-SAPIXが徹底分析しました。


今回は、入試当日の試験会場で悩んだ受験生が多かったと予想される、第2問について取り上げます。

なお、一橋大学の大まかな出題傾向につきましては、次の解説記事をご覧ください。

○2024年度の出題内容

出題内容は以下の通りです。

第1問 アルプス以北の地域において中世都市が果たした社会経済史的意義を、12~14世紀の神聖ローマ帝国領内の複数の都市の事例に即して考察する。(2つの引用論文あり。400字以内)

第2問 奴隷解放の問題を、元奴隷や黒人社会、アフリカ各国からの視点で考察する。(4つの指定語句あり。400字以内)

第3問 10世紀から12世紀ごろ、唐の滅亡に伴って発生した東アジア世界の政治的・社会的変動を述べる。(400字以内)

第1問について一つ補足します。2つの引用論文のうち一つは、一橋大学の名誉教授・増田四郎氏の論文です。一橋大学では第1問や第2問で、一橋大の名誉教授の論文を引用し、論文の内容をふまえて解答させる出題が多いです(“一橋大レジェンドシリーズ”と呼ぶ業界人もいます)。論文の内容が高度であるために出題の要求が難しくなる傾向があり、総じて、一橋大名誉教授の論文を引用する問題は、かなりの難問になる場合が多いです。ただ、本問はそこまで難しい要求ではありませんでした。

第3問について、一橋大学が東洋史や東アジア史を出題する場合、近代以降の時代になる場合が多く、2024年度はその傾向から外れていますが、問われている内容は標準的でした。

○第2問のポイントⅠ
~問題の要求を整理する~

第2問については、後述するように、指定語句が4つあります。この指定語句を問題の要求に沿った形で上手に使うことが求められています。しかし、指定語句をどう使うのか非常に難しいのが本問の特徴です。

それでは、問題文から設問の要求を読み取って行きましょう。問題の要求は次の2つです。

①19世紀の奴隷貿易・奴隷制度廃止のプロセスを概説すること。
②当時の国際関係や政治情勢に着目しながら、A:元奴隷や黒人社会の、B:アフリカ各国の、それぞれの視点から、奴隷解放とその後の問題点について論じること。

(指定語句:13植民地の喪失 西半球の最貧国 シェアクロッパー制 アフリカ分割)

上記要求のうち①は教科書に記述があり容易に解答が書けます。また、②のAについても、アメリカの南北戦争後の、解放された黒人に対する扱いについて記述すればよく、「シェアクロッパー制」の語句もここで使うことができるでしょう。①と②のAの内容をまとめれば200字程度になります。

さて、ここから残った指定語句をヒントに、①と②の要求に答えていきましょう。

○第2問のポイントⅡ
~指定語句をどう使用するか?~

「13植民地の喪失」

まず、「13植民地の喪失」について、これはアメリカ独立戦争とイギリスについて記述するということはすぐに連想できると思います。ただ、「13植民地の喪失」とイギリスの奴隷解放の動きをどう結び付けるのかが難しいです。

「13植民地の喪失」により、【奴隷制と奴隷貿易を維持したいイギリス内部の勢力は発言力と影響力を低下させます。】その後イギリスでは、1809年に奴隷貿易を、1833年に植民地を含めた全領土での奴隷制を廃止するのです。通常の教科書に沿った世界史学習では、イギリスの奴隷貿易・奴隷制廃止は「自由主義的改革の一環、または、人道的な視点から実施された」などと学習するのが一般的です。

上記【    】部分のような記述にたどり着くには、もう少しヒントが欲しいところです。したがって、実際の解答では、【    】部分を飛ばして、「13植民地の喪失により、19世紀初頭に奴隷貿易が禁止され、19世紀の中ごろまでには奴隷制が廃止された」とすると、問題の要求に大きく逸れずに記述できるでしょう。

「西半球の最貧国」

次に「西半球の最貧国」ですが、この語句がハイチを指していることに気が付くのが非常に難しいでしょう。仮にハイチと気づけたとしても、ハイチが最貧国であるのかどうか確信が持てないかもしれません。ハイチは1804年に独立し(ハイチ革命)、1806年に共和政を宣言します。【独立承認の引き換えに、入植者から奪った財産に対する賠償金をフランスに支払うことになっていたのです。また、ハイチの独立を承認する国家が現れなかったので国際的に孤立します。さらに砂糖生産も当時スペイン領のキューバへと移ったことで経済が悪化し、西半球の最貧国の一つになるのです。】

以上の記述は、新課程の「世界史探究」の教科書にコラムや欄外の注に記述があるのですが、「世界史B」の教科書にはほとんど記述がないため、旧課程で学習した本年度の受験生は非常に苦労したことが予想されます。したがって、上記【    】部分を飛ばして、ハイチの独立にナポレオンが介入したという知識をヒントに、「独立後も経済的自立が阻害され、ハイチは西半球の最貧国となった」と何とか記述するしかなさそうです。

「アフリカ分割」

最後に「アフリカ分割」です。この語句も問題の要求に沿って使うことが難しいです。イギリスやオランダの奴隷貿易廃止により、欧米諸国のアフリカへの関心は、従来拠点を設けていた地中海沿岸部などの海岸部から内陸部へと移っていきました。関心を促したのは5つの動機「好奇心、文明化、キリスト教化、商業、植民地化」といわれています。特に黒人の「文明化」を口実として植民地化を正当化したことをヒントに、「奴隷解放」を侵略の口実とするということに結び付けられるかどうかが最大のポイントです。

しかし、【「文明化をアフリカ進出の使命」という内容の記述は教科書には少なく、「奴隷解放」を「文明化」と結び付ける】にはヒントや情報が足りないです。したがって、「アフリカ分割によって、現地の住民は過酷な労働に従事させられるなど、(文明化《解放》とは名ばかりに過ぎない)アフリカの発展を大きく阻害した」などとまとめて、問題の要求に大きく逸れずに記述しましょう。

論述の構成としては、上記【    】部分を飛ばした上で、問題の要求である①と②のA、そしてかつ上記の太字部分すべての3カ所をまとめて解答にまとめると、400字以内で大きく失点はしないで、何とか通常学習の範囲内の知識で対応できる答案が作成できます。

なお本年度の類題が2017年と2003年に出題されています。しかし本年度との一番の違いは、「元奴隷や黒人社会の、アフリカ各国の、それぞれの視点から、奴隷解放とその後の問題点について論じること」です。過去問演習に取り組んでいれば少しは解きやすかったかもしれません。

○まとめ

一橋大学の世界史は、「非常に難しい」といわれる設問が毎年必ずといっていいほど出題されます。しかし、特殊な知識を一橋大学だけのために覚えるよりも、教科書の範囲の知識を総動員して設問の要求に沿う答案を作れるようにすることが最優先です。

そのためにも、教科書の内容をしっかり定着させ、理解したうえで論述問題に挑戦しましょう。論述問題を解く際には、「何を要求されているのか?」=「書くべき内容」を正確に把握することが大切です。冒頭で触れましたが、史料文として高度な内容の論文を引用する大問も出題されます。設問に関連する文章を正確に読解する力が非常に大切です。 また、書き上げた答案は必ず、先生に添削を受けてください。添削によって、設問の要求に正確に答えていない部分が浮き彫りになり、また知識不足も明確になります。そしてまた書き直してみましょう。今度はより短時間で、洗練された答案が書けるはずです。添削と書き直しによって、設問の要求を正確に把握する力がつきます。一朝一夕にはいきませんが、地道に論述と添削を繰り返して入試本番の対応力を身につけましょう。

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■《2023年度 一橋大学 世界史》の解説記事

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