2021年度大学入試科目別出題分析②英語
2021年度個別試験における、主要大学の出題傾向と回答のポイント、対策を科目ごとにご紹介します。
第2回は英語。
2022年度の入試対策としてお役立てください。
1.大学入学共通テスト元年
2021年入試で最も注目されたのは、なんといっても第1回の大学入学共通
テスト(以下、共通テスト)でしょう。国公立大学を志望する受験生にとって必須のテストであり、私立大学を志望する受験生の多くにとっても利用する価値のあるテストです。幅広い層の受験生に関係のあるこのテストを使って、ここで学習法をご紹介します。共通テスト対策だけでなくこれからの2次試験対策としても有効です。
まず、共通テストのリーディング(読解)がセンター試験から最も大きく変わったのは、文章量の多さです。設問と選択肢を含めると読むべき英語は約5,500語にのぼり、これは昨年度のセンター試験と比べて1,000語以上増えています。そして実は2次試験においても、国公立・私立問わず「1分あたりに読まなければならない英単語の数」は近年増える一方です。このことは共通テストの結果にも表れていて、満点を取った受験生が増えた一方で、70~90点台の受験生が大幅に減り、思うように点数が取れなかった受験生が増えたことが判明しました。このような受験生の二極化が起こった原因として、多くの英語関係者は速読力の有無を挙げています。
重要性を増す速読力を鍛える方法ですが、共通テストのリスニング第5問を利用する方法が効果的です。第5問では論説文が、ネイティブの標準的な朗読スピードで読み上げられます。大学入試センターの公式サイトで公開されている原稿を読みながら、自分がこの朗読と同じ速度で読めるか確認しましょう。
現在の入試ではこの朗読と同じ速さで英文を読むことが求められるため、自分の速読力を確認し、不足している場合には目指すべき水準を把握する際にこの方法は有効です。
2.民間検定試験利用の延期に、コロナ禍が追い打ち
今年の受験生は、新型コロナウイルスの流行がなかったとしても、英語に振り回され続けてきました。文部科学省は以前から「4技能に対応した民間検定試験を、全ての国公立大の受験生に課す」と表明してきたのですが、2019年11月、この制度の導入を見送ると発表しました。そのため国公立大学・私立大学共に受験方式の変更・修正を余儀なくされたという経緯があります。その結果、国立82大学のうち一般選抜において民間検定試験の活用を決定したのは、千葉大学・鹿児島大学・琉球大学などの9大学にすぎません。しかも、活用といっても一部の学部学科に限られたり、「出願資格」「加点方式」「みなし得点方式」など活用の程度も低かったりと、大学によって活用の仕方もさまざまです。このような受験方式の変化に合わせて、受験生も勉強計画を練り直さざるを得ませんでした。
そこに、コロナ禍が追い打ちをかけました。横浜国立大学、宇都宮大学、信州大学(人文・経法)のように個別試験の実施を中止したところもあれば、東京外国語大学のように試験時間を短縮したところもあります。東京外国語大学の前期試験は英語の問題数を減らして、試験時間を150分から90分に短縮することを1月初旬に告知しました。また、前年2020年6月には、全学部に広げる予定だった独自の英語スピーキングテスト(BCT-S)を1年延期することを発表しています。よってスピーキングテストは、すでに2019年から導入されている国際日本学部でのみ実施されました。
このような流れの中で、今年の入学試験は行われました。主要大学の入試問題を見てみると、入試改革が大々的に行われる予定だった年にしては、大きな変化はなかったといえます。本来は入試改革に合わせて2次試験も大きく変える予定であったと考えられますが、今年の特殊事情下にある受験生のことを考慮してか、目立った変化はなく、中には易しめの出題をする大学もありました。
東京大学・京都大学の問題にも、改革という要素は見あたりませんでした。東京大学は昨年と同じ構成で(P.32を参照)、問題2(A)の自由英作文「暮らしやすい街の、最も重要な条件とは何か」や問題5の長文読解「誰かがやらなければならない仕事」は例年よりも取り組みやすい問題でした。一方で京都大学は、ここ数年続いていた自由英作文の導入や、説明問題の増加などの変化を巻き戻すような形で、以前のような下線部和訳と和文英訳を中心とした出題に戻っています。長い自由英作文は姿を消して、空所補充型で語数指定つきの条件英作文が出題された点も、改革とは逆行する形です。問題Ⅱの長文読解で英文の難度が上がり、深い思索を必要とする京都大学らしい内容の問いがあったことも含めて、京都大学にとって今年は回帰の年だったといえるでしょう。ただし今年が特殊な年であったことを考えると、来年も同様の出題が続くとは限らず、注意が必要です。
3.私立大学の入試改革
文部科学省が民間検定試験の利用を見送ったことにより、導入予定だった
「大学入試英語成績提供システム」も使用できなくなりました。そのため、それまで民間検定試験の利用を検討していた私立大学も、その多くが利用を中止しました。しかし、一部修正をしながらも入試改革に踏み切った私立大学もあります。
【早稲田大学】
政治経済学部は当初、「共通テスト+民間検定試験+学部独自試験(総合問題)」の三つで合否を決定する予定でした。しかし修正の結果、学部独自試験の問題量・配点を増やし(自由英作文を追加)、「共通テスト+学部独自試験(総合問題)」の二つで合否判定をすることにしました。総合問題では、図表10個を含む日本文の読解と、2,000語を超える英文の読解、そして政治的なトピックの自由英作文が出題されました。英文の読解では設問こそ難しくないものの、2,000語を超える長文を読みきるのは受験生にとって大きな負担だったでしょう。今年初めて行われた学部独自試験ですが、この出題が今後も続くとすると、合否の鍵を握るのは長文の速読力と、政治に関連する英単語の習得になります。
国際教養学部は、すでに2018年から4技能の民間検定試験を加点方式で採用していたため、独自試験の方を刷新しました。従来は90分間でReadingとWritingという2つのセクションを解答する試験でしたが、今年からReadingを90分、Writingを60分にして、試験時間を明確に分けました。計90分から150分へと試験時間が大幅に増えたため、問題数も昨年から増加しています。Writingセクションは自由英作文2題と、英文を日本語に要約する問題の3題構成です。自由英作文の出題はベーシックインカム(最低所得保障)案に対する意見を書くものと、平均寿命の地域・時代別の変化を表すグラフとを見比べて、読み取った内容を書くというものでした。
政治経済学部・国際教養学部共に、大学の公式サイトで事前に公表されて
いたサンプル問題におおむね沿った出題でした。他には商学部・文化構想学部・文学部でも、民間検定試験を利用した入試が定員の一部に対して行われました。
【上智大学】
上智大学の特徴は、民間検定試験の得点を重視していることです。民間検定
試験の開発に同学が携わっているため当然ですが、入試方式も「TEAPスコア
利用型」「学部学科試験・共通テスト併用型」「共通テスト利用型」の3種類あります。そして学部学科試験、つまり独自試験も多くの学部学科で、従来の英語試験から、英語を使わない適性試験に変更されました。この結果、英語の学力は基本的に民間検定試験か共通テストかのどちらかで測られることになりました。
英語の問題で大学独自の問題が残っているのは「学部学科試験・共通テスト併用型」で受験した場合の、文学部英文学科、経済学部経営学科(英語選択)、外国語学部など、一部の学部学科に限られます。
【立教大学】
事前に公表されていた通り、文学部を除く全ての学部で英語の独自試験が廃止されました。今後、英語の学力を測るためには共通テストか、民間検定試験かのどちらかの得点を利用します。
このように、国公立大学と歩調を合わせながら2021年に入試改革を行うと宣言していた私立大学は、一部修正を余儀なくされながらも、国公立大学に先んじて改革に踏み切りました。この結果、少なくとも共通テストがスピーキング試験の導入を予定している2025年までは、私立大学を志望する受験生のほうが、国公立大学を志望する受験生よりも、4技能の習得をより強く求められることになるでしょう。
4.国立大学の一部で起こった改革
国立大学も、その全てが保守的であったわけではありません。2次試験を通
して、東京大学や京都大学に先んじてでも変化しよう、という姿勢を示した大学を見てみましょう。
【広島大学】
問題構成が大きく変わりました。問題Ⅱには関連する二つの長文が並び、情報を照らし合わせながら解答する問題が課されました。共通テストと同様に、複数の英語資料をもとに解答する形式です。受験生は決して短いとはいえない二つの長文(計1,200語強)を読んだあと、再度両者を行ったり来たりしながら解答を作成することを求められました。また問題Ⅰの要約問題は、今回は五つの段落をそれぞれ30字という厳しい字数制限で要約する形式でした。
問題ⅢとⅣは、いずれも約100語の自由英作文という相当なボリュームです。問題Ⅲは二つの対立する意見の英文を読み、それを踏まえて自分の意見を述べる形式で、問題Ⅳはグラフを分析して記述する形式でした。問題ⅠからⅣまで記号選択問題はほとんどなく(1題のみ)、情報を要約する力と記述力が大いに試されました。これから広島大学を受験する生徒は記述力、特に英文を書く力が速さ・正確さ共に高い水準で求められるでしょう。
【九州大学】
問題が五つ(読解3、英作文2)という構成に変化はないものの、問題〔3〕の読解が、全て英問英答形式になりました。以前の問題〔3〕は、英語の語句を問うことはあっても、英文を書く力を本格的に試すものではありませんでした。しかし今年はしっかりとした英文で答える形式に変わったことで、問題五つのうち三つが英作文問題になったといえます。
また、例年出題されていた和文英訳が姿を消し、問題〔4〕〔5〕共に自由英作文になりました。英訳ではなく英作文の問題が大幅に増えたことにより、内容も含めて自分で考えた上で英文を書く、という力が重要になったといえるでしょう。自由英作文の出題は「オンライン教育の利点と欠点を述べよ」(約100語)と、図表をもとに「アメリカに留学する各国の学生数の推移をまとめよ」(約70語)という2題でした。問題〔3〕の英問英答は難しくはないとはいえ、問題〔3〕~〔5〕を合わせれば、書くべき英文の総語数は200語を超えます。記号問題は皆無で、入試改革の特徴の一つであった「記述力の向上」を狙った出題として特徴的な問題でした。
5.時代と長文テーマとの関係
今年の大きな特徴として、難関主要大学の長文で扱われたテーマが偏った、
ということがあります。受験生が読むことを求められた長文の分野や題材に、どのような変化があったかを概観していきましょう。
大学入試で出題される英文には時事的な話題が取り上げられることが多いものの、やはり今年は新型コロナウイルスに関する英文が多く出題されました。主なものを挙げると、
「新型コロナ対策による社会的隔離がもたらす弊害」(慶應義塾大学・医)
「コロナ禍で視覚・聴覚障がい者が直面している問題」(早稲田大学・社会科学)
「新型コロナ流行防止に向けたAI技術の利用」(同・文化構想)
「新型コロナ対策に関する行動科学からのアプローチ」(同・商)
「新型コロナ流行とマスク着用」(大阪市立大学)
「コロナ禍と環境問題」(浜松医科大学)
など、2020年の春から夏にかけて書かれた記事が多く取りあげられました。慶應義塾大学・理工に至っては、コロナ自粛期間中に動画で通話をしている男女という設定の対話文が出題され、「コロナがすべての計画を台無しにした」「ソーシャルディスタンスにはうんざりだ。隔離や自粛もうんざりだ」と二人が嘆いた後で、愛を告白し合うという異色の内容でした。
新型コロナウイルスに直接言及していなくとも、関連した内容の英文も多く登場しています。
「生物進化を促進するウィルスの肯定的役割」(慶應義塾大学・薬)
「ペスト禍がシェイクスピアにもたらした恩恵」(早稲田大学・文)
「腸チフスのワクチン開発」(慶應義塾大学・医)
など、新型コロナ流行以前に書かれた英文でも、疫病やウイルスを題材としているために選ばれたと推察されます。
新型コロナウイルスに次いで多かったテーマは、AIです。
「AIと芸術の関係」(東京大学)
「AI技術と倫理の関係」(神戸大学)
「AIの言語学習」(慶應義塾大学・商)
など、昨年に引き続き人気のテーマでした。AIに限らず最先端技術は大学入試に頻出のテーマです。慶應義塾大学の経済学部では「顔認証システムの利点」「その問題点」「自動運転車の導入の是非」という3本の長文が出題され、さらにそのいずれかを引用しながら自分の意見を英語で述べる英作文が出題されました。自動運転車については、ここ数年必ずどこかの大学で出題されており、英作文に絡むことも多い重要トピックです。
他には、
「自律ロボットは介護医療の人材不足を解消できるか」(早稲田大学・社会科学)
「バーチャルリアリティの心療内科治療への活用」(浜松医科大学)
「政策決定における台湾のオンライン意見交換システム」(早稲田大学・法)
「SNSによる感情伝染と社会の分断」(同・文)
「フェイスブックの二段階認証の脆弱性」(同・人間科学)
「テクノロジーの発展における倫理的問題の解決法」(慶應義塾大学・環境情報)
など、ロボットやVR、ソーシャルメディアに関する英文も出題されました。テクノロジーと倫理問題を絡めた文章も頻出です。
また、性別に関するトピックも徐々に増えています。
「女性は理数に弱いというステレオタイプについて」(神戸大学)
「LGBTの歴史教育を義務づける法律」(早稲田大学・人間科学)
「スポーツでの性別検査の弊害」(同・法)
などが出題されました。
定番の環境問題は以前より減っているものの、
「日本のプラスチックゴミ対策」(筑波大学)
「オゾン層破壊の現在と今後」(同志社大学・社会・理工)
「世界の平均気温」(立命館大学・全学部)
などが取り上げられました。一方、昨年まで頻出だったオリンピック、インバウンド、観光産業についての話題は、当然ながら姿を消しました。
ここまでの内容からも分かるように、時事的な話題には常にアンテナを張っておきましょう。ここ数年話題になっている事柄に関しては、関連語彙などを知っておく必要があります。そのためには英字新聞やネット記事を読み、表現や内容に慣れておきましょう。頻出のテーマは英作文に取り上げられることも多いため、自分の意見も英語で書けるように練習しておくと、試験会場で自信を持って解答することができます。
もちろん時事問題だけでなく、科学一般、特定の科学分野(宇宙・生物・脳科学など)、心理学、言語論、比較文化論、歴史、文化、家族・交友関係、伝記、小説など、多岐にわたるテーマが出題されます。総合大学であれば、どんなジャンルの英文が出てきてもおかしくありません。文理、硬軟問わず、さまざまな分野の英文を読み慣れておきましょう。
6.2021年の医学部入試
医学部の独自問題が持つ特徴として、長文のテーマがほぼ医学に限られる
という点と、それに伴って医学用語の習得が重要になる、という点があります。
2021年の医学部入試を、国公立と私立に分けて見ていきましょう。国公立の医系大学は、時事的な話題である新型コロナウイルスにとらわれず、幅広い分野から出題されました。例えば東京医科歯科大学は
“How accurate is Alpha’s theory of dog domestication?”
(SmithsonianMagazine, 2018年8月15日)
という、犬の家畜化を扱った記事からの出題です。
出題形式は例年通り6ページにわたる英文を読んだ上で、24問の内容一致問題、英作文、英文和訳、そして400字の日本語でまとめる要約問題を解くというもので、素早く正確な情報処理と、日本語と英語両方に関する表現力が問われています。表現力は他の医系大学でも求められることが多く、滋賀医科大学や和歌山県立大学でも単なる和文英訳ではなく、日本文の内容を自分で解釈して、英語で表現する問題が課されました。また奈良県立医科大学では自由英作文が2題(120語と80語)課されていて、表現力の中でも特に英語表現力が強く求められる傾向があります。
一方で私立の医系大学は、新型コロナウイルスを大きく取り上げました。慶應義塾大学の医学部では読解問題で
「医療と移民問題」
「新型コロナ対策による社会的隔離がもたらす弊害」
「ワクチン開発」
に関する文章が出題されました。
同学では「コロナ禍における在宅ワークのメリット・デメリット」を英語で述べるという英作文問題も出題されたため、出題のほとんどが新型コロナウイルス関連といえます。また東京医科大学ではマスクを着用することに対して聴覚障がい者の立場から書かれた英文や、アプリを用いたオンライン診療に関する文章が出題されました。一方で新型コロナウイルスに関係しない分野からは
臓器移植(日本医科大学)
認知症(順天堂大学・医)
幸福度(昭和大学・医)
天然痘(東京慈恵医科大学)
といったテーマが登場しました。医療に関する普遍的なテーマも一部含まれるものの、その大多数が最先端の医療分野からの出題です。さらには筆記試験で医系の長文を読み、医系の英作文をすること以外にも、面接試験でこのようなテーマに関して発言を求められることがあります。医学部を志す受験生は医療系のニュース、そして後述する自然科学系の雑誌にもアンテナを張っておきましょう。
7.超長文はどこまで長くなるのか
前述の通り、受験方式を今年刷新した早稲田大学の政治経済学部では、2,000語を超える英文が出題されました。これは今年の東京医科歯科大学や慶應義塾大学・文学部(いずれも約1,900語)を上回る分量です。しかも、細かい文字で紙面にびっしりと印刷され、見た目にも圧倒的な迫力でした。また一橋大学は長文2題を今まで課していましたが、今年は1題に減った代わりに約1,500語と倍近い長さになりました。全体の語数は昨年2題の合計とほとんど変わりませんが、集中力を切らさずに1,500語を読み通さなくてはなりません。超長文化が定着した東京工業大学も、2題を合計すると3,000語を超える英文を読む必要がありました。
このような「超長文」に試験会場でひるまないようにするには、日頃から3~4ページにまたがるような長めの英文を読む練習をしておくことが必要です。共通テストでもセンター試験と比べて文章量が大幅に増加し、速読力が求められました。今年に至るまでの変化を考えると、今後も試験時間に対して英文の量が増える傾向は加速していくと思われます。文法を学ぶ時間は減りましたが、そこで減った分以上の時間を、長文対策にかける必要があるでしょう。
とはいえ、高校1年生や2年生であれば、むやみに斜め読みやパラグラフリーディングに走りすぎることなく、まずは精読を大事にしていきましょう。精読ができなければ、速読は当然できません。1文1文を正確に読める語彙力・構文把握力を鍛えるため、詳しい解説のついた長文問題集を使い、精読の訓練を行いましょう。高校2年生や3年生であれば、大阪大学の問題Iなどの過去問を利用して、より本番に近い水準の英文を扱うと効果が上がります。一方で速読力を鍛えるためには、最初はセンター試験の過去問が有効です。途中で止まることなく素早く読み通すことができるようになったら、次に中堅の国公立大学の過去問、そして最後に難関大学の過去問へとレベルを上げていきましょう。たとえ国公立大学のみを志望する受験生であっても、高3生の時に早慶の語彙レベルに触れて、解き慣れておくことは合格率を上げる効果があります。そして速読がしっかりできているか確認するためには、各段落の主旨をまとめていく学習がおすすめです。
入試に登場する英文の多くは、米英の新聞や雑誌(The New York Times,
Newsweek, The Times, The Guardian, Natureなど)から採用されます。しかも最近は易しく書き直すことをせずに、新聞や雑誌に登場したままの難しい形で出題されることが増えています。こうした英文にあらかじめ触れておくと、入試に際して非常に有利です。出版元のWebサイトで読める記事もありますし、また大学の過去問を解く際にも出典を確認するとよいでしょう。
8.英作文も長文化
長文化は読解だけでなく、自由英作文にも当てはまるようになってきました。国際教養大学の「少なくとも300語」を書く英作文は特別な存在だとしても、浜松医科大学も「少なくとも150語」を書く問題を課し、また一橋大学も100~140語を書く問題を課しました。そしてたとえ語数指定がなくとも、慶應義塾大学の経済学部では本文からの引用を含めることが求められているため、しっかりとした内容の英文を書くためには150~200語が必要です。また順天堂大学の医学部でも、段落構成の細かい指示があるため、やはり150~200語程度の英文を書く必要があります。
さらに近年は英作文を1問解いて終わりではなく、続けて2問解かせる大学が増えていて、その合計語数も増えつつあります。前述の広島大学は約100語の自由英作文を2題課したため(昨年までは約90語を2題)、合計で200語です。九州大学も、問題三つにまたがる英作文を合計すれば200語を超えます。また東京外国語大学では例年、リスニング問題で聞き取った内容を約200語の英語でまとめた上で、それに対する自分の意見を200語程度で書かせる問題がします(今年は試験時間短縮のため、後者は割愛されました)。大学入試において和文英訳は減少傾向にありますが、自由英作文と組み合わせるなど新しい出題方法も生まれています。そのため英作文は書く分量においても、出題形式においても、入試でより大きな比重を占めるようになっています。
このように多量の英作文が求められる場合、書くべき内容を細かく決めてから書き始めたのでは間に合いません。書くことの大筋だけを決めて、まずは書き始める必要があります。この対策としては日頃からまとまった量の英文を書き、そして添削指導を受ける学習をしましょう。英作文は知識が占める比重が小さく、短期間で力が伸びることはありません。従って直前期になって対策をしようとすると手遅れになります。志望校がどのような長さ・レベルの英作文を出題しているか、早めにチェックしておきましょう。もちろん今後、出題形式の変化や語数の増加が予想されますので、今までに出題された問題に限定せず、さまざまな種類の問題を解いておきましょう。
ちなみに英作文で今年目立ったテーマは、ここでも新型コロナウイルスでした。
「新型コロナウィルスが生活や考え方をどのように変えたか」(静岡大学・約120語)
「コロナ禍における在宅ワークのメリット・デメリット」(慶應義塾大学・医)
といった出題がありました。
「オンライン教育の長所と短所」(九州大学・約100語)
も関連内容といえるでしょう。そして新型コロナウイルスの他には
「日本のプラスチックゴミ対策について」(筑波大学・約100語)
「平和的抗議は最終手段として暴力に訴えてよいか」(早稲田大学・政治経済・1段落で)
「日本の若者の『内向き思考』を説明し(約40語)、留学する日本人学生の減少と絡めて自分の意見を述べよ(約60語)」(神戸大学)
「人文学と実学のどちらが人生に役立つか」(北海道大学・70~100語)
「世界を良い方向へ変えるとしたら何を変えるか」(順天堂大学・医・約20行)
「暮らしやすい街の、最も重要な条件とは何か」(東京大学・60~80語)「ユーチューバーになったつもりで、外国人に日本の良さを伝える動画をどう作るか」(岡山大学・約10行)
「長期にわたって何かに取り組む場合、いかにして前向きな姿勢を保つか」(大阪大学・約70語)
「3つの架空の格言から1つ選び、説明せよ」(一橋大学・100~140語)
など、政治・社会に関するものから人生・生活といった身近な内容に関するものまで、多岐にわたる出題がありました。
グラフ・図表に基づいた英文を書く出題も増えています。
「国別の自転車利用と自転車事故死亡率」(名古屋大学・80~100語)
「各国の平均寿命の歴史的変化」(早稲田大学・国際教養・1段落で)
「ツイート数推移に見える地域性」(広島大学・約100語)
などがあります。イラストを解釈して意見を述べる英作文は、早稲田大学の法学部で3年連続の出題となりました。
もちろん、昔ながらの和文英訳も、京都大学、大阪大学、東北大学をはじめ、十数年のブランクを経て2018年から東京大学でも毎年出題されています。和文英訳・自由英作文ともにバランス良く訓練しましょう。
この記事は『2021年度大学入試 出題傾向リサーチ』に掲載された記事の一部を修正・加筆したWeb版です。
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今回ご紹介した各大学の個別試験のほか、大学入学共通テスト、東大、京大、国公立大医学部入試の動向・出題分析を掲載しています。
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