数学こぼれ話#4/深掘りシリーズ vol.1 ~「必要」と「十分」~
皆さん、こんにちは。
Y-SAPIX 数学科では、「一歩先の理解」を目指す高校生の方々を対象に、「深掘りシリーズ」の記事を発信していきます。問題集や参考書を使って高校数学を学んでいるときに
「なぜ、解答がこのような流れになっているのだろう」
「なぜ、これで解けるのだろう」
と疑問に思ったことはありませんか? 自分の頭で考えながら高校数学を学んでいる方ほど抱きやすい、これらの「なぜ」に答えていくことを目指す記事が、この「深掘りシリーズ」です。なお、各単元に沿った内容は「お役立ちシリーズ」の方で発信していますので、そちらの記事も是非どうぞ。
深掘りシリーズ vol.1 のテーマは「必要」と「十分」です。
数学I の「命題と論証」で学ぶこれらの概念は、様々な解答を理解するために、あるいは正しく答案を書くために欠かせません。言い換えれば、数学をしっかりと学んでいくために欠かせない概念なのです。この記事で、一緒に確認していきましょう。
さて、①と②の典型的な解法には「共通点」があるのですが、ピンと来るでしょうか?
①
$$
\begin{dcases}{\frac{1}{x}}+{\frac{1}{y}}+{\frac{1}{z}}=1\\1{\leqq}x{\leqq}y{\leqq}z\end{dcases}
$$
を満たす自然数の組($${x}$$,$${y}$$,$${z}$$)を全て求めよ。
②
$${\lim\limits_{x→1}}$$$${\frac{x^2+ax+1}{x-1}}$$=$${b}$$
が成り立つための,実数$${a}$$,$${b}$$の条件を求めよ。
①について、典型的な解法の冒頭を示します。
「$${1{\leqq}x{\leqq}y{\leqq}z}$$より、$${0}$$<$${\frac{1}{z}}$$$${\leqq}$$$${\frac{1}{y}}$$$${\leqq}$$$${\frac{1}{x}}$$$${\leqq}$$$${1}$$なので、
1=$${\frac{1}{x}}$$+$${\frac{1}{y}}$$+$${\frac{1}{z}}$$$${\leqq}$$$${\frac{1}{x}}$$+$${\frac{1}{x}}$$+$${\frac{1}{x}}$$=$${\frac{3}{x}}$$より$${1{\leqq}}$$$${\frac{3}{x}}$$が成り立つ。これと、$${x}$$が自然数であることから$${x}$$=$${1,2,3}$$
が必要である。逆に$${x}$$=$${1,2,3}$$のとき、与えられた条件を満たす自然数$${y}$$,$${z}$$について考える。」
「が必要」と「逆に」は書かれないことも多いですが、例えば$${x}$$=1のときは自然数$${y}$$,$${z}$$が存在せず「不適」とされ、$${x}$$=2のときは$${y}$$=$${z}$$=4などが得られるので「適」とされます。一連のこの流れは、以下のような集合の考え方を使えば、すっきりと理解できます。
自然数の組($${x}$$,$${y}$$,$${z}$$)について
$$
\begin{dcases}{\frac{1}{x}}+{\frac{1}{y}}+{\frac{1}{z}}=1\\1{\leqq}x{\leqq}y{\leqq}z\end{dcases}
$$
を満たす
$${\rArr}$$ $${x}$$=$${1,2,3}$$を満たす(必要条件)
が成り立つことから、上の図に示すような包含関係$${A}$$$${\subset}$$$${B}$$が成り立つ。
$${B}$$に含まれる組(1,$${y}$$,$${z}$$)は自然数$${y}$$,$${z}$$をどう定めても
$$
\begin{dcases}{\frac{1}{1}}+{\frac{1}{y}}+{\frac{1}{z}}=1\\1{\leqq}1{\leqq}y{\leqq}z\end{dcases}
$$
が成り立たず、$${A}$$に含まれない。
一方,$${B}$$に含まれる組(2,$${y}$$,$${z}$$)は自然数$${y}$$,$${z}$$を$${y}$$=$${z}$$=4と定めると
$$
\begin{dcases}{\frac{1}{2}}+{\frac{1}{y}}+{\frac{1}{z}}=1\\1{\leqq}2{\leqq}y{\leqq}z\end{dcases}
$$
が成り立ち、組$${(2,4,4)}$$は$${A}$$に含まれる。
要するに、「必要条件」によって、(求める要素がはみ出さないように)範囲の絞り込みをしているのです。②でも、全く同じアイデアを用います。例によって典型的な解法の冒頭を示します。
上の事柄が分かれば、どこまでが「必要条件による絞り込み」で、どこからが「十分性の確認による回収」なのかは一目瞭然でしょう。
「実数$${a}$$,$${b}$$が与えられた等式を満たすとき
$${\lim\limits_{x→1}}$$$${(x^2+ax+1)}$$=$${\lim\limits_{x→1}}$$$${\frac{x^2+ax+1}{x-1}}$$・($${x-1}$$)=$${b}$$・0=0
より$${a+2=0}$$,すなわち$${a=-2}$$が必要である。逆にこのとき,与えられた等式は(以下略)」
いかがでしょうか?
曖昧さを残さず数学を理解するために、「命題と論証」で学習した
「必要」と「十分」の考え方 が 大いに役立つことが 伝わったと思います。
それでは、次回の「深掘りシリーズ」でお会いしましょう!