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世界史こぼれ話#5/ベートーヴェンの苦悩と「第九」から見える世界

いろいろあった2022年も終わりが近づいてきました。年末と言えば毎年テレビCMや商店街のBGMなどで「第九」のメロディーを耳にする機会が多くなるのではないでしょうか。
今回はベートーヴェンの「第九」について深掘りしたいと思います。

■ベートーヴェン最後の交響曲

作曲者のルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770~1827)は、ハイドン、モーツァルトと並ぶ古典派を代表する音楽家であり、後のロマン派音楽の先駆者でもありました。

幼少から演奏活動を活発に行うなど豊かな才能を示しましたが、20代後半から難聴が悪化し、1802年には「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いて自殺を決意するまでに追い詰められました。

しかし、音楽への情熱と不屈の精神力をもってこの苦悩を乗り越え、以降は「傑作の森」と呼ばれる時期に入り、交響曲第3番『英雄』、第5番『運命』、ピアノ・ソナタ『熱情』など多数の傑作群を矢継ぎ早に生み出しました。

その後の西洋音楽史に極めて大きな影響を与えたことから「楽聖」と称されています。

ベートーヴェンは生涯に交響曲を9つ残していますが、その最後となる交響曲が日本で「第九」として親しまれている「交響曲第9番ニ短調作品125『合唱』」です。

1824年に完成され、同年の5月7日にウィーンで初演されました。ベートーヴェン自身、ほとんど耳が聞こえない中での演奏であり、演奏後は聴衆の喝采に気が付かなかったといいます。

交響曲第9番は演奏時間が1時間を超える大作というだけでなく、交響曲に初めて効果的に声楽を採り入れるなど当時としてはかなり革新的な作品でした。

暗く悲劇的な開始から明るく力強いフィナーレで締めくくる「暗から明へ」という構成は、苦悩に打ち勝ったベートーヴェンの人生を象徴しているかのようです。

■「第九」の日本初演

日本で最初に第九が演奏された時期は第一次世界大戦末期の1918年(大正7年)6月1日でした。

日本は第一次世界大戦に連合国側に立って参戦し、ドイツが租借地としていた中国の青島を占領するとドイツ兵を捕虜として収容していました。

現在の徳島県鳴門市にあたる板東町の捕虜収容所では、収容所長の松江豊寿大佐による人道的な気風から捕虜のドイツ兵も自由に音楽を楽しんでいたといいます。

そのような中で日本において最初に演奏された曲目がベートーヴェンの交響曲第9番だったのです。

ちなみに、日本で年末に第九が演奏されるようになった背景については諸説ありますが、一説には第二次世界大戦後の1947年(昭和22年)に行われた、日本交響楽団(現在のNHK交響楽団)による12月の第九コンサートが好評を博したことから、年末に第九を演奏する習慣が定着したようです。

また、戦後は経済が安定していなかったこともあり、第九コンサートは楽団員の臨時収入という側面があったようです。

■ベートーヴェンとフランス革命

ベートーヴェンはカトリックでしたが、敬虔なキリスト教徒というわけではありませんでした。

むしろホメロスやプラトンといった古代ギリシア哲学、さらには古代インド哲学にも共感するほどかなりリベラルな思想の持ち主だったようです。

18世紀末のヨーロッパはフランス革命の混乱期にあり、ベートーヴェンは「自由・平等・友愛」を理念とするフランス革命からも強い影響を受けていました。そんな20代の若きベートーヴェンを深く感動させたのがシラー(1759~1805)の頌詩『歓喜に寄す』でした。

1785年に作られたこの詩では、ドイツの封建的専制的な君主制からの人間精神の解放、人々の団結と人類愛が高らかに謳いあげられており、フランス革命を予感させるような内容です。

ベートーヴェンはシラーの詩に曲を付けようと構想していたようで、それが音楽作品として結実したのが交響曲第9番だったのです。

第4楽章で歌われる歌詞は『歓喜に寄す』が引用されており、ここで歌われる旋律が「歓喜の歌」として知られるようになりました。第九にはフランス革命の精神が根底にあると言えるでしょう。

■ヨーロッパ統合の象徴に

19世紀以降もヨーロッパでは幾度となく戦争が繰り返されてきました。

「第二次大戦後、ヨーロッパではこれまでの戦争の主な火種となっていた独仏間の対立を回避するという目的からヨーロッパの統合が始まり、この統合の動きが現在のヨーロッパ連合(EU)に繋がります。

ベルリンの壁が崩壊した1989年の年末には、東西ドイツの融和を祝って第九が演奏されました。

その際、東西ドイツの楽団員だけでなく、かつてドイツを分割統治していたイギリス、フランス、アメリカ、ソ連からも楽団員を募って臨時のオーケストラが編成され、歌詞の"Freude(歓喜)"をあえて"Freiheit(自由)"に替えて歌われたといいます。

現在、憲法による規定こそないものの、「歓喜の歌」の主題部分は、平和や自由、団結といったEUの基本的価値観を讃える歌として、広く親しまれています。

機会があれば第九を全曲通して聴いてみるとよいでしょう。

今回のこぼれ話はここまで。

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次回も是非お楽しみに。それではまた!

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