英語こぼれ話#7 「art」とは何か?
最終更新日:2024年5月31日(金)
みなさん、こんにちは。
いよいよ、国公立大学の2次試験が目前に迫る時期になりました。
受験生の皆さんを応援する意味も込めて、今回の英語こぼれ話では、入試の長文読解などで頻出する単語を一つピックアップし、深堀りしていきたいと思います。
その単語とは、ズバリ「art」です。
突然ですが、皆さんは「アート」という言葉を聞くとどんなものを連想しますか?
「現代アート」、「バルーンアート」、「音楽フェスの出演アーティスト」などなど……多くの人は、artという英語から、「芸術、美術」に関連するものを思い浮かべると思います。
では、以下の英文はどのように訳せばよいでしょうか?
・He has the art of making friends.
「友達づくりの芸術」??だと非常に違和感がありますね。逆にこれを正しく解釈できた人は、よく勉強しているといえるでしょう。
artという英単語は「芸術」以外にも多彩な意味を持つ多義語です。今回は、背景にある歴史と一緒に、その意味を考えていきましょう。
art=「芸術」だけではない!
英英辞典でartの語を調べると、「芸術」に関する定義の他に、以下のような説明が書かれています。
an ability or a skill that you can develop with training and practice
「訓練や練習によって身につけることのできる能力や技能」
つまり、artという言葉には、「芸術」の他に、「技術、わざ」という意味が含まれているのです。
これを踏まえて冒頭の文を訳すと、
「彼は友達を作る技(秘訣)を知っている」
となります。
「芸術」のartと「技術」のart
artという単語をさらに深堀りしていきましょう。
artの語源は、ラテン語の「ars(アルス)」という単語で、「技術」や、「技能」といった意味を持っていました。
このことからわかるように、「技術」という意味でのartの用法は「芸術」よりもはるかに古く、派生した単語も数多くあります。
・artifact「(自然物に対して)人工物」
「人間の『技術』で作られたもの」という意味です(ちなみにfactの部分はfactoryと同語源です)。「芸術作品」を特に指す場合は、artworkを使います。
・artificial「人工的な」
上記と同様に、「人間の技術による」という意味が含まれていますね。AI(人工知能)はartificial intelligenceの略語です。
・artisan「(現代英語では)職人」
「熟練の『技』を持つ人」という意味合いです。
「芸術」のartはartist「芸術家」の領域、「技術」のartはartisan「職人」の領域、と覚えると分かりやすいでしょう。
ちなみに、やや難しいですがaesthetic「美的な、美学」という言葉も「芸術」のartと関連が深い言葉として覚えておいて損はありません(「エステティシャン」の語源です)。
arts VS sciences
話は少し変わりますが、「リベラルアーツ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
Y-SAPIXの「リベラル読解論述研究」の名前の元にもなっているこの言葉は、英語で「liberal arts」と表記し、ざっくりと言えば「専門教育の土台となる一般教養」を意味します。
この場合のartは、「教育によって身につく『学芸』」といった意味合いがあります。
教養といえば、東京大学では、入学した学生が自分の専攻を選ばず、まず「教養学部」に所属して様々な授業を受けるシステムになっている、ということを知っている人も多いでしょう。
この「教養学部」ですが、英語では
College of Arts and Sciences
と呼びます。sciencesは「科学」だと分かりますが、artsは何を指しているのでしょう?
教養学部で学ぶことが、「芸術と科学」だというのは、奇妙に聞こえませんか?(もちろん芸術関係の授業も多数開講されてはいるのですが)
実は、この場合のartsというのは「人文学、人文科学」を指します。
「人文科学」といえば、物理学や化学、生物学などの「自然科学」に対して、文学や史学、哲学などの学問分野を指すことが多いです。
つまり、arts とsciencesという言葉は、おおざっぱに言えばいわゆる「文系学問」と「理系学問」の分類と対応しているのです。
(政治学や経済学を「社会科学」(social science)として人文科学とは別に分類する場合もあります)
しかし、なぜ哲学や歴史学を含む「人文学」を、artsと呼ぶのでしょうか?
scienceとこれらの学問は、何が違うのでしょうか?
ひとつの考え方として、それぞれの学問の研究対象の違いがあります。
自然科学が研究対象とするものは、その名の通り自然界に存在するもの、物理現象や天体の動き、生物の体といった物事の仕組みです。
一方で、哲学や歴史学が研究する対象は、人の考え方であったり、人の行動であったり、いずれも「人間が作り出した物事」であることが共通しています。
たしかにartという言葉には、artifactなどの単語に見られるように、「人の手で作られたもの」というニュアンスが含まれていました。
つまり、「人の営み」を研究する学問の総称が、「人文学」であり、artsだと言えるのです。
(「人文学」はhumanitiesと呼ぶこともあります。もちろんhumanの派生語です)
以上のように、artという英単語は、「芸術」だけでなく様々なニュアンスを含む単語です。
長文などで目にする機会も多い単語なので、正しく解釈できるようにしておきましょう!
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