数学こぼれ話#12 お役立ちシリーズvol.6 ~「内積」の疑問を解消!~
今回のテーマは「ベクトルの内積」です。図形を深く調べるために欠かせない演算ですが
$${\overrightarrow{OA}}$$$${\cdot}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${=}$$$${\mid}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${\mid}$$$${\mid}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${\mid}$$$${cosθ}$$
という定義を初めて見ると、どうしても唐突な印象を抱いてしまいます。「なぜ、新しい演算を用意するのか」「なぜ、大きさの積×$${cosθ}$$なのか」の2点に注目しながら、内積という演算に慣れ親しんでいきましょう。
〇なぜ内積を考えるのか?
高校数学でベクトルを学習する大きな目的の1つに「図形を扱える道具を増やしたい」というものがあります。
例えば、「$${OA=6}$$,$${OB=5}$$,$${∠AOB=60°}$$の$${△OAB}$$があるとき,$${AB}$$を$${2:3}$$に内分する点を$${C}$$として,$${OC}$$の長さを求める」という問題を考えます。
三角比や座標など様々な扱い方が考えられますが、「平面ベクトル」を使って、次のように進めることができます。
点線部分を計算するためには、ベクトルの和・差・実数倍だけでは上手くいきません。そこで
「2つのベクトルから1つの実数(スカラー)を作る新しい演算」
が新たに考え出されました。これが、「ベクトルの内積」です。
長さを計算できなければ面積や体積へ進むことができませんので、ベクトルをより便利な道具とするには、このステップが欠かせません。
〇なぜcosθ?
「演算を定める」と言うとずいぶん難しく聞こえそうですが、基本的には自由です。極端な話、ベクトルの内積を次のように定義しようとも、それは各人の自由というものです。
「$${\overrightarrow{OA}}$$$${\cdot}$$$${\overrightarrow{OB}}$$=$${\mid}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${\mid}$$$${\mid}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${\mid}$$」
「$${\overrightarrow{OA}}$$$${\cdot}$$$${\overrightarrow{OB}}$$=$${\mid}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${\mid}$$$${\mid}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${\mid}$$$${sinθ}$$」など (※)
では、なぜ「大きさの積×$${cosθ}$$」で定めるスタンダードな内積が、今もなお使われ続けているのでしょうか? いくつかの理由が考えられますが、ここでは理由の1つとして
文字式の計算と同じように計算したいから
ということを挙げたいと思います。ベクトルの授業でよく言うのですが、「内積を使いこなすためだけの『特別な計算ドリル』には、あまり取り組みたくないですよね」というわけです。
さて、皆さんがよく慣れている文字式の計算は、次のようなルール達に支えられています。(※本当は他にもあります)
$${a}$$$${\cdot}$$$${b=b}$$$${\cdot}$$$${a}$$ (交換法則)
$${(ka)}$$$${\cdot}$$$${b=a}$$$${\cdot}$$$${(kb)=k(a}$$$${\cdot}$$$${b)}$$ (結合法則)
$${a}$$$${\cdot}$$$${(b+c)=a}$$$${\cdot}$$$${b+a}$$$${\cdot}$$$${c}$$ (分配法則)
このうち、特に「分配法則」にあたる
$${\overrightarrow{a}}$$$${\cdot}$$$${(}$$$${\overrightarrow{b}}$$$${+}$$$${\overrightarrow{c}}$$$${)=}$$$${\overrightarrow{a}}$$$${\cdot}$$$${\overrightarrow{b}}$$$${+}$$$${\overrightarrow{a}}$$$${\cdot}$$$${\overrightarrow{c}}$$
は、内積を(※)のように定めてしまうと成り立ちません。単なる「大きさの積」で終わらせず、更に$${sinθ}$$でも$${tanθ}$$でもなく「$${cosθ}$$」をかけることに決めて、ようやく実現するのです。こうして定まった内積の性質を活用すれば、最初の問題は次のように解決できます。
$${\mid}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${\mid}$$$${=6}$$,$${\mid}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${\mid}$$$${=5}$$より
$${\overrightarrow{OA}}$$$${\cdot}$$$${\overrightarrow{OB}}$$=$${\mid}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${\mid}$$$${\mid}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${\mid}$$$${cos60°=15}$$
なので
$${\mid}$$$${3}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${+2}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${\mid}$$$${^2}$$
$${=(}$$$${3}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${+2}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${)}$$$${\cdot}$$$${(}$$$${3}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${+2}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${)}$$
$${=9}$$$${\mid}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${\mid}$$$${^2}$$$${+12}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${\cdot}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${+4}$$$${\mid}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${\mid}$$$${^2}$$
$${=604}$$
$${\mid}$$$${3}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${+2}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${\mid}$$$${\geqq}$$$${0}$$より
$${\mid}$$$${3}$$$${\overrightarrow{OA}}$$$${+2}$$$${\overrightarrow{OB}}$$$${\mid}$$$${=2}$$$${\sqrt{151}}$$
なので
$${OC=}$$$${\mid}$$$${\overrightarrow{OC}}$$$${\mid}$$$${=}$$$${\dfrac{2\sqrt{151}}{5}}$$ $${\cdots}$$(答)
ベクトル以外の方法で解こうとすると、いかにも計算が大変そうな数値です。「平面図形も立体図形も同じような感覚で立式できる」という強みを持つベクトル同士に「内積」を定めたことで、ベクトルをより便利な道具とすることができました。さまざまな問題を通じて、その威力を実感しながら勉強してほしいと思います。
それでは、次回の記事でお会いしましょう!