大学歴訪録 #5 立教大学
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大学歴訪録 #5 立教大学

リベラルアーツを礎に
新たな「学び」を提示し続ける

東京六大学の一角であり、伝統的なミッション系大学としても知られる立教大学。2021年4月、新総長に就任した西原廉太先生に、SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表がリモートインタビューでお話を伺いました。

そもそも建学当初から
リベラルアーツを志向

髙宮 大学トップの方のお話を伺うとき、大きなテーマの一つとなるのがリベラルアーツです。西原先生の考えるリベラルアーツとはどのようなものでしょうか。

西原 本学の成り立ちにも関係するので、そこから説明しましょう。
 立教大学は1874年、アメリカ聖公会の宣教師チャニング・ムーア・ウィリアムズによって創立されました。同聖公会はイギリス国教会から発展したキリスト教の一教派で、ウィリアムズが学んだウィリアム・アンド・メアリー大学は、アメリカではハーバード大学に次いで長い歴史を持ちます。そこで実践されていたのが、イギリスのオックスフォード大学、ケンブリッジ大学の流れをくむリベラルアーツ教育でした。

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立教大学総長 西原 廉太さん

髙宮 ウィリアムズが日本の若者たちに提供したかったのが、リベラルアーツだったのですね。

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SAPIX YOZEMI GROUP 髙宮 敏郎 共同代表
実際のリモート取材風景

西原 そのとおりです。今日の大学の起源は中世ヨーロッパに見いだすことができます。オックスフォード大学は12世紀、ケンブリッジ大学は13世紀に創立されたのですが、それ以前の学問研究はキリスト教修道院で行われていて、そこから派生してカレッジが誕生しました。ですから、初期のカレッジはほぼ例外なく、修道院としての様式を備えていました。
 修道士には日々三つの勤めがあります。共に祈り、共に生活し、共に学ぶことです。この三つの勤めを果たすために、古いカレッジには祈るためのチャペル、生活するための寮、学ぶための教室・図書館が備えられていますが、これらはまさしく修道院であったことの痕跡です。この構成はオックスフォード大学などのキャンパスメーキング(大学の設計思想)にも踏襲されています。さらに、修道士たちが歩きながら瞑想するためのクロイスター(回廊)も当然のごとく備わっています。本学の池袋キャンパスの赤れんが群にもチャペル、学生寮と職員寮、教室と図書館、クロイスターがあり、本学の「建学の精神」をキャンパスデザインが表示しているといえるのです。

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立教学院諸生徒礼拝堂(チャペル)

神のテキストを読み解く
「自由七科」が教養の基本

髙宮 具体的にはどのような教育を指すのでしょうか。

西原 そのベースは一般的に「自由七科」と呼ばれる、中世以来のキリスト教リベラルアーツ教育です。
 キリスト教世界では、神が書いたテキストは2種類あると考えていました。一つは「聖書」で、もう一つは「世界・宇宙・人体」です。聖書の言葉と、自然を通じて、神は私たちにその存在を伝えてくれていると受け止めていたわけです。
 西欧社会における学問とは、そうした神のテキストを読み解くためのものでした。神の第一のテキストである聖書は、旧約聖書がヘブライ語で、新約聖書がギリシャ語で書かれていて、中世では一般的にいずれもラテン語に訳されていました。そこで、聖書を読むための素養として、ヘブライ語・ギリシャ語・ラテン語の「古典三語」を学ぶことが必要でした。今日でも欧米のリベラルアーツ系大学では古典三語の授業を必ず行っているのですが、それは本学でも同様です。
 では、第二のテキストである世界・宇宙・人体を読み解く言語は何であると考えていたと思いますか。

髙宮 何でしょうか。

西原 数学です。

髙宮 ああ、なるほど。私はこれまで、リベラルアーツを「自然を対象としたサイエンス」と、「人が創造したアーツ」に切り分けて理解していたのですが、全ては一つにつながっているのですね。

西原 おっしゃるとおりです。リベラルアーツを構成する学問は「文法・修辞法・論理学・天文学・幾何学・算術・音楽」で、「自由七科」と総称されます。このうち、前の3科が古典三語を使って聖書を読み解くための、後の4科が世界・宇宙・人体を読み解くための学問です。これらは全て神が書いたテキストを読むための基礎的な技法であり、前の3科が人文科学へ、後の4科が自然科学へと発展していきました。欧米では、どんな専門教育を受けるにしても、この自由七科は最低限身につけておくべき教養と考えられていました。

多様な学びを提供する
「立教ラーニングスタイル」

髙宮 貴学ではリベラルアーツ教育をさらに発展させるため、新しい学びの形を導入したそうですね。

西原 はい。2016年度から始めた「立教ラーニングスタイル(RLS)」がそれです。本学の全学部生には、言語系科目から海外プログラム、専門科目まで10のカテゴリの多様な学びが用意されていて、各自の関心や目的に応じてカリキュラムを自由にアレンジできるようになっています。導入期である1年次春学期に履修する「立教ファーストタームプログラム」では、「なぜ学ぶのか」という「学びの精神」や「どのように学ぶのか」という「学びの技法」を、少人数のゼミ形式も含めて徹底して学びます。それにより、立教生としての土台と4年間の学修の基礎を身に付けてもらいます。

髙宮 入学してまず初めに、これからリベラルアーツを学ぶための基礎づくりをするわけですね。

大学が果たすべき
「サービス」とは何か

髙宮 私は現職に就く前、アメリカのペンシルベニア大学に留学して大学経営に関する修士号・博士号を取得しました。その際、大学の三つの機能は教育(education)、研究(research)、社会貢献(service)であると教わったのですが、「サービス」という概念がいまひとつピンときませんでした。貴学ではRLSの中の「多彩な学び」として、「立教サービスラーニング(RSL)」という科目を組み込んでいますね。大学が果たすべき「サービス」とはどのようなものだとお考えですか。

西原 その点についても、やはり大学の起源から説明するのが分かりやすいでしょう。
 最初期の大学でまず創設されたのは神学部・法学部・医学部でした。神学部で学んだ者は聖職者となって人々の「心の痛み」に寄り添いました。同様に、法学部で学んだ法律家は人々の「社会的な痛み」に、医学部を出た医師は人々の「身体的な痛み」に、それぞれ寄り添うことを天職としました。大学はそもそもそうした働き人を育てるために創立されたのです。ご質問の、大学のミッションにおける「サービス」とはそういう意味ですね。欧米では、大学の使命は教育・研究・社会貢献であると、当たり前のように考えられています。
 本学は2024年に創立150周年を迎えます。私たちが何のために大学を運営してきたかといえば、社会で悩み苦しむ人たちを、学問によって救い助けるためです。ウィリアムズの建学の精神もそこにあります。私たちはその原点を忘れてはなりません。

髙宮 その理念を端的に表しているのが、先ほど触れたRSLなのですね。

西原 おっしゃるとおりです。

立教サービスラーニング(RSL)とは、「世界・社会・隣人」と実際に交わりながら、社会の現場も「教室」として捉える、新しい学修スタイルの科目群のこと。社会で実際に起きている問題を自ら体験し、答えのない問いについて仲間と共に考え、その後の学問や人生のテーマを見つける手がかりにしていく。講義系科目、実践系科目をそれぞれ複数開講しており、実践系科目は事前学習+体験学習+事後学習で構成され、成績が評価される。

西原 RSLの中で、私がこれまでに3回参加したのが、新潟県南魚沼市栃窪集落で行う雪掘り体験です。現地は日本有数の豪雪地帯かつ「限界集落」で、冬に何もしないと家が屋根まで雪に埋まってしまう。そこで、学生十数名と現地に4日ほど滞在し、高齢者世帯の雪掘りを手伝いながら、限界集落について考えました。現地で暮らすお年寄りの話は涙なくして聞けません。この授業を体験し、その後銀行に就職した卒業生がうれしい便りをくれました。「金融商品をお客さまに紹介するとき、南魚沼のおばあちゃんの顔が目に浮かび、人にとって大切なことは何かと改めて考えさせられます」と。この授業をやってよかったと、私も心底から思いました。

今後は対面+オンラインの
「ミックス型授業」を充実

髙宮 貴学の池袋キャンパスはその美しさで有名ですが、昨年はコロナ禍でキャンパスを利用できない時期が続いたと思います。西原先生は総長に着任早々、難しい対応を迫られたのではないでしょうか。

西原 昨年はどの大学もオンライン授業への対応が大変だったと思います。本学も当初は反発する先生方が大勢いました。ところが、始めてみると想像以上にスムーズ。私もゼミを受け持ちましたが、オンラインでもグループ分けしたディベートが可能で、授業によっては対面より学生の理解度が高まるケースもありました。また、本学のキャンパスは池袋と埼玉県新座にありますが、オンラインであれば両方の授業を取ることができます。学生にとって、キャンパスで対面の授業を受ける意味はとても大きいのですが、オンラインにはオンラインの良さもあることが分かりました。そこで本学では、対面授業と同時にオンライン配信も行う「ミックス型授業」を来年度からさらに充実させる予定です。一方で、キャンパスでの対面授業の大切さも再確認しました。対面に、オンラインも適切に組み合わせたキャンパスを実現します。

髙宮 なるほど。ところで、私の父は中世英文学の研究者で古本が大好き。西原先生も本の虫とお見受けしますが、貴学にはとても立派な図書館がありますね。

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地下2 階から地上3 階までは池袋図書館となっているロイドホール(18 号館)。総合学習図書館と研究図書館という二つの機能を有しています

西原 2012年秋に200万冊収蔵可能な図書館を新設しました。そこまで立派な図書館が必要か、という議論もありましたが、図書館は大学の学びの生命線で、今では多くの学生の居場所にもなっています。つくづく造って良かったと思っています。今はネット検索が全盛の時代ですが、全ての情報の原典である第一次資料は図書館にあります。大学が目指すのは「真理の探究」です。だからこそ学生の皆さんには図書館でぜひ「本物」に触れてほしいですね。
 本学は「英語の立教」といわれ、英語教育に定評がありますが、そもそも英語を学ぶ目的は各種検定のスコアを上げるためではなく、英語で原典を読み解くなど、何かを学ぶためです。英語教育の特別なカリキュラムも用意しているので、ぜひ積極的に活用してほしいですね。

立教大学は2020年度から英語教育カリキュラムを改革し、1年次(2万人規模)の英語ディベート必修化や、2年次からの専門教育を英語で受講するCLIL科目を導入。その結果、英語に対する意識の高い受験生からの注目を集め、2021年度入試は首都圏の難関私立大学で唯一志願者が増加した。入試に必要な英語検定試験のスコアも2年前にさかのぼって提出できるなど、一発勝負を廃した柔軟な評価方法も好評を博している。

髙宮 では、貴学を志望する受験生にメッセージをお願いします。

西原 近年、「イノベーション」や「産学連携」が大学を語る際のキーワードになっていますが、大学のリソース、資産は「教育」と「研究」です。そもそも“education”の本来の意味は、学生一人一人に寄り添い、その可能性を最大限引き出すことです。私たちは皆さんの才能を開花させるための「種まき」しかできませんが、精いっぱいサポートします。私自身、大学時代にいろいろな人と出会ったことで人生が変わりました。皆さんも、本学でさまざまな出会いや気付きを経験してほしいと願っています。

■プロフィール
立教大学総長 西原 廉太さん
にしはら れんた●1987年京都大学工学部金属工学学科卒業。1994年聖公会神学院修了。1995年立教大学大学院文学研究科組織神学専攻博士課程(前期課程)修了。博士(神学)。1998年に立教大学文学部キリスト教学科専任講師となり、同学科助教授を経て、2007年から立教大学文学部キリスト教学科教授。2010.2015年立教大学副総長。2021年4月、立教大学総長就任。専攻はアングリカニズム、エキュメニズム、組織神学、現代神学。世界聖公会大学連合会理事。著書に『聖公会が大切にしてきたもの』(教文館)ほか。

■立教大学の紹介

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緑豊かなキャンパスに、整然と配置された赤れんがの校舎。ツタに覆われた本館の時計台では、イギリスのビッグ・ベンと同じメーカーの時計が静かに時を刻む――。関東の高3生による「キャンパスがきれいな大学」(リクルート調査)の1位に選ばれた立教大学は、西欧をモデルにしたリベラルアーツカレッジとして長い伝統を誇ります。
 2024年に創立150周年を迎えますが、新たな時代への挑戦にも果敢に取り組んでいます。例えば、立教生の英語力には以前から定評がありますが、2020年度から英語教育カリキュラムを一新しました。その一環として、2022年9月からは英語のみでの受講を可能にするなど、外国人留学生の受け入れ制度も拡充。学内での国際交流を加速させることにしています。
 また、2020年度には日本初となるAI研究に特化した「人工知能科学研究科」を大学院に新設。リベラルアーツがベースの立教だからこそ、これまでにないAI研究の成果が期待されています。他にも、立教グローバルリーダーシッププログラム(GLP)など独創的な学びを数多く用意していることも、志願者数が増えている人気の秘密といえそうです。

■Y-SAPIXよりお知らせ

この記事は2021年8月20日に刊行された『Y-SAPIX JOURNAL』2021年9・10月号に掲載された記事のWeb版です。
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