中高一貫校に通う中1生とその保護者が6年間で東京大学に現役合格するために意識して欲しいこと
この春から中高一貫校に通い始める中学生の皆さん、そして保護者の皆さん。中学受験を終え、いよいよ中学校に入学ということで、ほっとしているところではあると思います。
そんな中ですが、6年後の大学受験について意識したことはありますか?
ここでは大学受験に向けて中高の6年間で意識しておくと、より効果的に過ごすことができるエッセンスをまとめてみました。
数学は論証を重視する
まず、東京大学の合格者と不合格者の平均得点率を、教科ごとに比べてみましょう。
すると合格者と不合格者の間で、数学の差が特に大きいことが分かります。数学は、合格に向けてのキーになりそうです。
実は数学は、試験後の「感触」と実際の「得点」のギャップが大きい科目です。
残念ながら不合格になってしまった方の話を聞いてみると
「2完半 いけました!多分50点ぐらい」と思っても、実際は29点、
「4完と部分点で90点!」と言っても、実際は55点だったりします。
この感触と得点の差はどこにあるのでしょうか。
※4完、2完半
大問を何問すべて解答することができたという意味の受験用語。4完は大問を4問完答。2完半は大問を2問完答し、1問を半分埋めることができたという意味。
ここで東京大学の「高等学校段階までの学習で身につけてほしいこと」を見てみましょう。これは、東京大学が「受験しようと考えている皆さんに向けて,高等学校段階までの学習において,特に留意してほしいことを教科別に掲げ」ているものです。
数学について抜粋してみましょう。
(略)入学試験においても,自分の考えた道筋を他者が明確に理解できるように「数学的に表現する力」が重要視されます。普段の学習では、解答を導くだけでなく,解答に至る道筋を論理的かつ簡潔に表現する訓練を十分に積んでください。
重要な点を2つピックアップすると、
・「他者が明確に理解できるように」
・「普段の学習では」「解答に至る道筋を論理的かつ簡潔に表現する訓練を十分に」
というメッセージを読み取ることができます。
つまり、数学が出来ると自認していても、この観点が抜けている可能性があるのです。
ここで、東京大学の数学の回答用紙を見てみましょう。
A3程度の紙にほぼ白紙の解答欄が広がっています。
ここに「他者が明確に理解できるように」「解答に至る道筋を論理的かつ簡潔に表現」する必要があります。
では、どのように書いていけばよいのでしょうか。例えば次の答案を比較してみましょう。
こちらはY-SAPIXに通う高3生の数学の答案になります。どちらも最終的な答えは合っていますが、皆さんが採点官であればどちらを評価しますか?
これまでの話からすれば、当然簡潔に書かれている下のほうが評価されることが分かりますね。
ただし、簡潔に書くとはいえ、次のような答案ではいけません。
これは整数に関する証明問題に関する答案の一部です。この答案には「ある条件を示せばよい」と書いていますが、「ほかの条件もあるのでは?」と指摘が入っています。
このように、思い込みで論理の飛躍があってはいけません。あくまで「論理的かつ簡潔に表現」しなければならないのです。
まとめ
・東京大学を受験するに当たって数学は合否を分けるキーポイント
・単に答えが計算できるだけではなく、「他者が明確に理解できるように」「解答に至る道筋を論理的かつ簡潔に表現」する必要がある
・そのためには普段から飛躍のない論理を示すように訓練を積まなければならない
「国語が得意」というその幻想をぶち壊す
よく陥りがちなこととして、中学校と高校の国語の性質の違いで躓いてしまうということがあります。
中学校の国語では、筆者が読者にレベルを合わせて書いてくれている、平易な言葉や内容の文章がメインになります。
なので、読みやすく、楽勝だと思い、「国語に関しては重点的に勉強しなくてもいいや」「自分は国語が得意なんだ」という認識が強化されてしまいがちです。
一方で高校の国語では、筆者が読者のレベルに合わせることはせず、難解な語彙、表現、内容のままの文章が出てきます。
つまり、読者が筆者のレベルに合わせていかなければならないのです。
この差に気が付かず、「国語が得意」という幻想に取りつかれたままでいると、何が原因なのか分からないままに国語で得点できなくなるということになりがちです。
なので、国語が得意であると思っていてもそれを維持しなければなりませんし、苦手であれば早めに克服するといった対策が必要になってきます。
では、具体的にどのような対策が必要なのでしょうか。
1.古典(古文と漢文)
新しい単語、文法が数多くあります。古文と漢文で新しい外国語を2つ学ぶという気持ちで挑んでいきましょう。
新・学習指導要領では、必修科目の「言語文化」と位置づけ、上代から近現代に受け継がれてきた我が国の言語文化への理解を深めることに重きを置いています。つまり、単純に「読む」だけではなく、古典常識、当時の日本人の生活や思想までしっかり頭に入れてほしい、というメッセージなのです。
高3生から慌てて学習しようとすると、この「文化」学習に対応しきれません。しっかり中高の6年間をかけて学んでいきましょう。
2.現代文
現代文については意識的に「背伸び」した学習を心がけていきましょう。
先ほど述べた通り、中学生のうちには平易な文章が提供されがちです。よって、好きな分野、得意な分野については積極的に難しめの本に挑戦していきましょう。
もし、一人で読みこなすことが難しいときには他の人に頼りましょう。先生、保護者、友達、一緒に読んでみると良いかもしれません。
本を読むときに意識して欲しいことは、以下の3点です。
1. 著者が扱っている言葉を理解し、記憶すること
2. 著者のメッセージを自分の頭で考え、まとめてみること
3. そのメッセージを他者に分かるよう噛み砕いて説明すること
これらを行うことにより語彙力、思考力、表現力を養成することができます。
3.解答を記述する力
国語のみならず、数学、英語、理科、地理歴史、全ての答案において要点を簡潔にまとめて記述していく訓練が必要です。
例えば実際の東京大学の解答欄を見てみましょう。
東大国語の解答用紙は、ボールペン1本分の長さで、たいてい2行です。英語も英文を読み、日本語で簡潔にまとめられるかを測る問題が毎年出題されています。
理科も狭い解答用紙で、必要最低限の理由付けを添えながらまとめねばいけません。地歴はマス目付きですが、1字あふれてもダメという厳格さがあります。
さて、こうして各科目の解答用紙を見てきてみると、単純に答えを書くことだけを求められているという訳ではないということが理解できますね。
なので、各教科の知識を付けていくとともに、記述力の訓練を6年間じっくりかけて訓練していく必要があります。
これは大学受験だけではなく、大学で学んでいく上でも大切ですし、その後の人生でも必要になってくることです。
文章を理解し、他人にも伝わる表現を使っていく力を伸ばしていきましょう。
まとめ
・記述力は6年かけて鍛えましょう。一朝一夕では育ちません。
・注意:中学受験で国語が得意だったとしても大学受験の国語が得意になるとは限りません
・意識的に国語を強化する学習環境に飛び込んでいきましょう
塾を使い倒せ!
●ドリル学習から思考力を付ける学習の比率を上げていこう
小学校で「学習ドリル」という教材で勉強することがあると思います。算数ドリルや漢字ドリルなどですね。
これはドリル学習が持ち入れられています。ドリル学習とは、一定の法則がある問題を反復して解いていくことで、知識を効率的に定着させていくという手法です。
確かに、基礎的な知識を定着させていくためには非常に有効な手法です。だからこそ、小学校では標準的な手法になっています。
しかし、中学校、高校からの学習はドリル学習だけではいけないのです。
例えば、東京大学では「夏目漱石の文章を読み、その心情を説明しなさい」という問題が出題されました。
作者の考えを読んだ上で説明させるという問題は難問です。ある意味一意に決まる答えの無い問にも関わらず、「このように読める」と人に説明しなければならないからです。
この問題は、一般的な知識、語彙、文章の読解、そして記述という過程を経て、ようやく解答することができます。
はたして、この問題をドリル学習だけで対応できるものでしょうか。
もちろん、できないのです。
中学校、高校では基礎を学ぶドリル学習から、思考力を付けるための学習へ重点を移していかなければならないのです。
中学校、高校、大学、そして働き出すにつれ、答えの無い問題に直面していき、それを解決していくことになります。保護者の皆様には実感できることでしょう。
小学校から中学校へ進学した今が、ドリル学習から思考力を付ける学習へと移行し始めた瞬間です。
そしてその瞬間が最も躓きやすいのです。
適切に学習方法を変えていかなければいけません。
●学校で基礎を十分に学ぶことは可能、ではなぜ塾に?
たまに塾の宿題が多すぎて学校のことを疎かにしてしまうという話を聞きます。これはドリルによる反復学習を大量に行っている可能性が考えられます。
学校を疎かにしては本末転倒です。
Y-SAPIXのスタンスは「学校が基本で、大事である」というものです。中学校、高校で学ぶ分野の基礎は学校で十分に学ぶことができるのです。
……では、大学受験のための塾であるY-SAPIXとは、何のためにあるのでしょう。
それは、思考力を付けていくための学習を行うためと、基礎学習の中でおかしな癖をつけないよう修正していくためです。
●基礎学習と思考力を付けるための学習、その訓練
例えば、次の掛け算を考えてみましょう。
42×35
筆算をしましたか?あるいは電卓を持ってきたでしょうか。残念、入学試験では電卓は使えない場合がほとんどですのでその文明の利器はあきらめてください。そろばんもダメです。
では、このように解いてみるのはいかがでしょうか。
42×35
=42×(10+10+10+5)
=42×(10+10+10+10÷2)
=420+420+420+420÷2
=1470
面白いですが、最後の足し算が面倒ですね。では次。
42×35
=(20+20+2)×35
=700+700+70
=1470
これはなかなかスマートではありませんか?
ご覧の通り、単純に筆算したものと答えは同じですが、違う経路をたどる「別解」が存在することが分かったと思います。
筆算も大切です。これさえできれば計算はできるので、できるようになっておくべきことです。
しかし、ちょっとこうして解き方を工夫してみるということも楽しいと思いませんか?
これらの別解は「規則性やからくりを探る」作業になります。
学校では「規則性やからくりを探る」ことまで訓練することは、カリキュラムや人数の問題から難しいものです。
こうした「規則性やからくりを探る」学習を繰り返していくのがY-SAPIXの授業になります。
●「おかしな癖」を付ける前に直していこう
ドリル的な反復学習を大量に繰り返していると、そのうちに量に辟易としていい加減な丸付けを行いがちです。
不正解のところを正解としてしまうなど、注意が散漫になっていきます。すると当然、間違いを間違いと気が付けないままなので、試験の時にはバツが付きます。そうすると苦手意識が付いてしまいます。また、誤答を誤答のまま刷り込みが行われてしまい、学年が上がっても間違い続けることになります。
なので、考えながら解いて、丁寧に丸付けを行っていくことが大切なのです。
だから学び始めの大切な時期である中1生の初めにこそ、きめ細やかに勉強を見てくれるコーチが必要です。
保護者、兄や姉、少人数制の塾や家庭教師など、答案をしっかりと見てくれる人がいる環境を整えていくことが大切です。
……たとえば、Y-SAPIXなんかがいいかもしれません。
●東京大学の先生の考え方
東京大学の薬学博士である池谷雄二先生とコピーライターの糸井重里さんの対談本『海馬/脳は疲れない』の中にこんな一説があります。
池谷先生は九九の掛け算が苦手だったようです。いんいちがいち、いんにがに、いんさんがさん……という呪文が覚えられなかったそうです。なので、先生は掛け算の意味を考えられたそうです。
そこから、
「最小限のことだけを覚えればあとは理詰めで導き出せばいい」
「方法を毎回たどるというのは頭が良くなりそうな気がする」
「公式を丸暗記している人よりも公式を導き出せる人の方が、原理を知っているから応用力があるのではないか」
という考えに至ったのです。
ただ単純にドリル的な反復学習を行うのではなく、しっかり考えながら学習を行っていく。
これが後々大きな学力の差になっていくのです。
まとめ
・ドリル的な反復学習だけではなく、思考力を磨く反復学習を行っていこう
・勉強の「おかしな癖」が付く前に矯正していこう
・学校では基礎を鍛え、塾などをうまく使って上の2点を鍛えていこう
「東大教養学部の精神」からみる、これからの時代に必要なこと
最後に東京大学の『教養学部報』創刊号から初代教養学部長の矢内原忠雄さんの言葉を引用しましょう。
東京大学内における教養学部の位置の重さは、単に全学生数の半分を包含するという、量的比重にだけあるのではない。東京大学の全学生が最初の2年間をここに学び、新しい大学精神の洗礼をここで受ける。ここは東京大学の予備門ではなく、東京大学そのものの一部である。しかも極めて重要な部分的専門的な知識の基礎である一般教養を身に付け、人間としてかたよらない知識をもち、またどこまでも伸びていく真理探求の精神を植えつけなければならない。その精神こそ教養学部の生命なのである。
東京大学初代教養学部長 矢内原忠雄『教養学部報』創刊号より
東京大学では入学後全員が教養学部に所属し、その後、各専門の学部へ振り分けられていくという形をとっています。
専門的なことを学ぶ前に、「人間としてかたよらない知識」と「真理探求の精神」を育むことが大切と謳っているのです。
もちろん、これから新たに学び始める中学生の皆さんも心がけておいて損はない精神です。
中高一貫校で過ごす6年間をより実りの多い過ごし方をするために、そして6年後の大学受験で希望通りの結果を得るために参考にしていきましょう。
※本稿は2021年2月28日に実施した「新中1から東大現役合格を目指すには!」の講演パートを文字起こしし、加筆修正したものになります。