学習指導要領の改訂で英語学習はどう変わるのか 第3回
こちらの記事は「学習指導要領の改訂で英語学習はどう変わるのか」の第1回、第2回の続きです。
日本を取り巻く国際的な状況の変動を背景に、学校教育における英語教育改革が加速しつつあります。環境が大きく変わろうとする中、これから求められる英語力とはいったいどのような力なのか、高校受験のSAPIX中学部から大平聡介先生、大学受験のY-SAPIXから北川貴志先生の、それぞれ英語科講師が、英語教育の「現在」と「今後」について語り合いました。
(本記事の取材は2020年6月29日に行われました)
全ての土台となる文法の学習こそが重要文法を理解して一段上のステージに
――大学入試、高校入試を見据えた場合、どのようなことに気を付けながら勉強をすればよいのでしょうか。
大平 何より重要なのは文法ですね。自由英作文をクリアするには、語彙ももちろん必要ですが、文法を使いこなす力が求められます。文法が基礎で、その上に自由英作文があり、それを自在にこなせるようになって初めてスピーキングもできるようになる。文法的なことをある程度自分で操れるようになるまで理解できれば、自由英作文の精度も上がり、文章で正しく伝えることができて、スピーキング力も上がるのです。できるだけ早くそうした流れを作っていくのがいいと思います。
北川 当然ですが、4技能は別々のものではなく、連動しているということですね。きれいな発音で話せばそれだけでよいわけではなく、文法を理解していてこそのスピーキングだ、ということです。
大平 文法は数学でいうところの四則計算だと思います。「4+5」という問題は入試には出ませんが、「4+5」ができない人には、ほとんどの問題が解けないでしょう。共通テストでは文法は問われないことになっていますが、全て文法が土台になっているだけに、勉強しなくてよいはずがありません。
北川 書店に行けば文法問題集が山ほどあり、穴埋め4択のような問題が並んでいるものが多くあります。しかし、文法はあくまで英語で何かをするための道具なので、それ自体を目的とするような学習には疑問があります。例えば、「to不定詞」を学習するなら、これが使えるようになると、こういうことが伝えられる、こんな文章を正しく解釈できるというように、何のための学習なのかを意識して取り組んでほしい。そうすれば、本当に伝えたいことを伝え合うコミュニケーションができるようになります。
大平 私も同感です。「文法の問題」を解くために文法を勉強している生徒の共通点として、文法単独の問題は解けるのに、長文になると文法が理解できないということが挙げられます。長文を「読む」なかで、ある文章を文法的に説明する意識が育ってくると、英語力のステージが一段上がります。「書く」も同様で、文法的なことを意識すると使いこなせるようになっていきます。
なぜ文法の勉強をしているのか自分でよく分からないうちは、成績は伸びないでしょう。実践的な場で文法を使う訓練をするのがベストです。
4技能を連動させて自覚的に学習すれば表現の幅が広がり、実力は総合的に伸びる
――他にも「これ」というお勧めの学習法があれば、ぜひ。
北川 共通テストで問われる部分に関連していうと、あることを伝えたいときに、シチュエーションによって表現を変えなければならないケースが出てくると思います。例えば、「――してください」と言う場合、命令形がよいのか、「Will you」を使うのか。さらにはある動詞を使うべきか、熟語を使うべきか。そうしたシチュエーションに応じた表現を問われる場面が増えると思います。対策としては、単語を覚える際に同じ意味を持つ表現をひとまとめにするとか、英作文では複数の解答を考えてみるというように、表現の幅を広げていく学習が有効です。
大平 音声対策も必要ですね。既に共通テストでも重視されていますが、新学習指導要領が機能するには時間がかかるので、今からしっかり対策をしているかどうかで差がつくはずです。
北川 音声学習を取り入れる際、一度じっくり読んだ文章を、音声で聞くことができればベストです。自分が読んで内容を理解した文章を目で追いながらネイティブが発した音声を聞き、その上で自分でも声に出しながらもう一度読み直し、聞き直すというシャドーイングを繰り返しやっていく。そうするとリスニングの力も上がっていくし、発音の向上にもつながります。読んでそれでおしまいではなく、そこに音声を入れていくとか、逆に音声を聞くときに、スクリプトがあれば自分も声を発するとか、やはり4技能を連動させていくことが大事ではないかと思います。
大平 4技能のスピーキング対策では、SAPIX中学部やY-SAPIXが取り入れているオンライン・レッスン「ベストティーチャー」はやはりよくできています。単純な英会話ではなく、伝えたいことを書いて添削を受け、繰り返し発声練習した上でネイティブの方とやりとりをする、フリートークもあるなど、4技能を同時に鍛えられるプログラムになっているからです。
――最後に、英語学習に積極的に取り組む方々へのメッセージをお願いします。
大平 入試制度の変更で不安を抱えている方も少なくないと思います。繰り返しになりますが、必要とされる本質的な英語力は全く変わりません。入試制度に過度にとらわれることなく、何のために英語を学ぶのか、その目的のためにはどういう力が必要なのかを自覚しながら、学びを続けましょう。
北川 英語にしっかり向き合って学んでいくと、それまで見えていなかった言語としての仕組みに気付くなど、学ぶ楽しさ、面白さが必ず出てきます。その境地にたどりつくまで、ぜひ、諦めずにこつこつ取り組んでください。
本稿は『SQUARE×Y-SAPIX JOURNAL 特別編集号 どう変わる?どう学ぶ?英語教育のこれから』からの転載になります。
この記事の他にも海外の大学に進学することについての記事や、各高校の英語教育についてまとめた記事が掲載されています。
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