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大学歴訪録#20 京都大学

新たな試みに次々挑戦しながら
「自由の学風」を今に伝える

 東京大学と双璧を成す、国内屈指の国立難関大学である京都大学は、2022年に創立125周年を迎えました。そんな京都大学で教育、学生、入試担当理事を務める副学長の國府寛司先生に、SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表がオンラインでお話を伺いました。

今も受け継がれている
「自由の学風」の伝統

髙宮 京都大学といえば、多くの人が「自由の学風」をイメージすると思います。國府先生は貴学にとっての「自由」をどのように認識されていますか。

京都大学 理事・副学長 國府寛司先生

國府 本学が学生の自主性や独立性を重んじる学風は、1897年の創立当初から伝統的にずっと変わっていません。初代総長の木下廣次先生は「自重自敬」という言葉を述べられました。これは「自分でよく考え、自分を大切にし、自分を尊敬できるように努力すべし」ということを意味します。この言葉こそが「自由の学風」の淵源で、「自由の学風」は基本理念の前文にもしっかり明記されています。

 京都大学の「基本理念」の前文は以下の通り。「京都大学は、創立以来築いてきた自由の学風を継承し、発展させつつ、多元的な課題の解決に挑戦し、地球社会の調和ある共存に貢献するため、自由と調和を基礎に、ここに基本理念を定める」。また、基本理念の「研究」「教育」「社会との関係」「運営」の項にも、それぞれ「研究の自由と自主を基礎に」「対話を根幹として自学自習を促し」「自由と調和に基づく知を社会に伝える」「学問の自由な発展に資するため、教育研究組織の自治を尊重するとともに、全学的な調和をめざす」などの文言が見られ、全体として「自由の学風」が根底にあることが分かる。


髙宮 國府先生も京都大学のご出身です。

取材時の様子
聞き手 SAPIX YOZEMI GROUP 共同代表 髙宮 敏郎

國府 はい。入学してくる学生の側も、本学の「自由の学風」はある程度意識していると思います。例えば、基本理念の「教育」の項に「対話を根幹として自学自習を促し」という言葉があります。本学では、学生は勉強を教えてもらいに来ているのではなく、自ら学びに来ているのだと考えているのです。その際、「何を学び、何を研究するか」は本人の良心や思想に委ねられています。学びの動機がどんなことであっても、「本人の学ぼうという意思を尊重しよう」というのが本学の基本的なスタンスになっています。
 私は1978年に入学しましたが、高校では「京大は自由な大学だ」と、先生や先輩に繰り返し説かれました。それを聞いているうちに、「そんな自由な学校で学びたい」と思ったことが、本学受験の決め手になりました。その後、京都大学の教員になりましたが、常に本学の「自由な空気」を吸ってきたという自覚があります。

髙宮 そういった自由な学風という伝統は、現代の学生たちにも受け継がれているのでしょうか。

國府 「自由」に対する考え方は、以前とは少し変わってきているかもしれません。また、今の学生諸君は基本的に礼儀正しくて、その場の空気を読んで行動するので、昔ほど破天荒な学生はいなくなりました。ただし、「学ぶ機会や議論する場は自ら作り出していかなければならない」という意識は、今も多くの学生たちが共有しているようです。その一つの象徴が「自主ゼミ」です。学生たちは誰からも強制されることなく、自ら学びたいテーマを決め、自主的にゼミを作ってグループで研究を始めます。そんな自主ゼミが次々に発生しては消えていく。これも本学の一つの伝統だと思います。

附属図書館1階の「ラーニング・コモンズ」。
教職員や学生がグループワークや、プレゼンテーションの練習などをすることのできるスペースで、組み替え自由な机や電子黒板などが備えられています

研究への真摯な姿勢が
明日の教育につながる

髙宮 2020年10月、貴学の総長に就任された湊長博先生は、「世界に輝く研究大学を目指して」という基本方針を示されました。学生の皆さんにも、研究をより一層奨励されているのでしょうか。

國府 本学が「研究大学」を標榜している以上、私たち教員は日々の研究に重きを置いて取り組んでいます。それがゆくゆくは教育にもつながっていきます。とはいえ、全ての学生に研究に打ち込んでほしいと考えているわけではありません。研究に対する考え方は学部によって異なりますし、学生一人一人も、目指す職業や将来設計次第で研究への取り組み方が変わるからです。ただ、私たち教員は日々研究に真摯に取り組むことで、そうでなければ持てなかった視野や視点を獲得するという体験を常にしています。「そういった教員たちの姿を見ることで、学生諸君にも何かしら感じるものがあるはずだ、そうあってほしい」という思いを抱いていることも事実です。

髙宮 学びに関するトピックでいえば、東京大学との共同授業を始められたと伺いました。

國府 2022年度から本学理学部、東京大学教養学部、理化学研究所の3者の連携によるオンライン共同授業をスタートさせました。本学と東京大学がそれぞれ単位として認められる共同授業を行うのは史上初の試みです。
 そもそもは理化学研究所と東京大学との合同連続講義として2018年に始まったものです。それが新型コロナ禍でオンライン講義になり、その動画を本学の学生たちが聴講するようになって、「だったら3者の合同で連携講義を開設しましょう」という話になりました。新型コロナの感染爆発がなければ、恐らく成立しなかったのではないかと思います。

理学部の講義風景。日々熱いやりとりが交わされています

教職員・学生を対象に
学童保育所を開設

髙宮 貴学のホームページで知ったのですが、2023年12月、学内に学童保育所を開設されましたね。国立大学の中でも先進的な取り組みだと思います。

國府 男女共同参画などを管掌する稲垣恭子理事・副学長の担当案件なのですが、私の知っている範囲でお話ししましょう。
 本学は女子学生と女性教員の数が他の国立大学に比べて少ないのですが、ジェンダー平等やダイバーシティーの観点につき、前執行部時代からずっと危機感を抱いていました。具体的なニーズを調べたところ、乳幼児の保育所よりも、小学校が休みの日の学童保育を望む声が多かったようです。そこで、何年もかけて準備を進め、昨年12月に学童保育所「京都大学キッズコミュニティKuSuKu(クスク)」を開設することができたのです。

髙宮 休日の学童保育所のニーズが高いのは、いわゆる「小1の壁」でしょうか。お子さんが小学校に上がってからの方が、親御さんにとっては仕事と子育てを両立しにくくなるという問題ですね。利用できるのは貴学の教職員の皆さんでしょうか。

國府 本学に在籍する教職員と学生が保護者となっている小学生です。こうした施設があれば、子どものいる教職員・学生も業務や学業に集中して取り組むことができます。また、本学には「教育」をはじめ多様な分野の研究者や専門家が在籍しており、学内にはさまざまな施設があります。それらのリソースを最大限に活用すれば、預かった小学生に対しても、本学ならではの教育や体験を提供できるはずです。「KuSuKu」はそんな新たな試みを実践する場としても活用されることになります。

 京都大学キッズコミュニティKuSuKuの開所日は土日祝と小学校の春休み・夏休み・冬休み。つまり小学校が休みの日のみ小学生を預かる。保育時間は8時から19時(延長は21時まで)。業務や学業の都合で子どもを預けざるを得ない場合だけでなく、休日に子どもに有意義な体験をさせたいというときにも利用できる。

髙宮 学童保育所に関連した話題になると思いますが、全学共通科目として「ジェンダー論」を開講されていることにも注目しました。生物学、法学、文学、生け花、ガールスカウトなど、さまざまな専門分野の講師が多角的に論を展開しているのがユニークですね。

國府 ジェンダー論は全ての京大生が受講可能です。ジェンダー論に限らず、本学には数多くの全学共通科目が用意されており、その数は他大学よりも、かなり多いと思います。

 学部生を対象にした全学共通科目は次の八つの科目群に分かれている。①人文・社会科学科目群、②自然科学科目群、③外国語科目群、④情報学科目群、⑤健康・スポーツ科目群、⑥キャリア形成科目群、⑦総合科学科目群、⑧少人数教育科目群。2023年度の開講科目数は前期548、後期549だった。

特色入試の導入で
学習意欲の高い学生を

髙宮 貴学では2016年度から、一般選抜とは別枠で特色入試という選抜方法を全学部全学科で導入されています。國府先生は入試担当の理事でもいらっしゃいますが、特色入試のこれまでの成果について、どのように受け止めていますか。

國府 本学の特色入試は、一般選抜では獲得することのできない、特色ある才能を見いだし入学してもらうためにスタートしました。当初の目的通り、各学部とも優秀な学生が入学しており、「学習意欲が高く、何事にも積極的な学生が採れる」と好評です。

髙宮 特色入試にはなぜ志の高い受験生が集まるのでしょうか。

國府 特色入試では基本的に、志願者全員に「学びの設計書」を提出してもらっています。本学に入学したら、どんなことをどう学びたいのかを詳細に書いてもらうので、入学前から自学自習の心づもりができているのでしょう。学びに対する積極性は、周囲の学生たちにも良い影響を与えています。
 今後はもう少し特色入試の募集人数を増やしたいところですが、当然ながら、合格者を評価・判定するまでには多大な労力を必要とするので、そう簡単な話ではありません。今後、特色入試の枠を拡大しようと思ったら、入試のシステム全体を見直すことが必要になると思います。

 京都大学の特色入試は、高大接続と個々の学部の教育を受けるための基礎学力の双方を重視。①高等学校での学修における行動と成果の判定、②個々の学部におけるカリキュラムや教育コースへの適合力の判定、の二つを総合的に評価して選抜する。令和6年度特色入試の募集人員は計172人。
 ①に関しては「調査書」に加え、高等学校長等が作成する「学業活動報告書」や「推薦書」(数学オリンピックなど各種大会の出場・入賞記録、SAT/TOEICなどの成績の記入を含む)、大学で何を学びたいかなど志願者の意欲や志を記す「学びの設計書」の提出が必要になる。
 ②については大学入学共通テストの成績、学部ごとの能力測定考査、論文試験、面接試験、口頭試問等を組み合わせて実施される。

吉田南構内にある国際高等教育院。
全学共通教育のいわば司令塔です

髙宮 最後に、貴学を目指す本誌読者にメッセージをお願いします。

國府 皆さんのゴールは志望大学に合格することではありません。高校までに学んだことをしっかり身に付けた上で、「自分は大学で何を学びたいのか」をよく考え、入学後の学びにつなげてほしい。さらにいえば、大学で学ぶこともゴールではありません。地球環境や国際紛争など、現在の私たちはかつてないほど深刻な課題に直面しており、その解決に向けて、皆さんは間違いなく一生学び続けることになるでしょう。しかし、心配は無用です。本学で勉強すれば、「自分の一生をかけて何をどう学ぶか」の基礎が出来上がる上、学びの楽しさや喜びも知ることができるでしょう。本学は皆さんをお待ちしています。

■プロフィール
理事・副学長 國府 寛司さん
こくぶ ひろし
●1982年京都大学理学部卒業。1984年京都大学大学院理学研究科修士課程修了。1988年京都大学大学院理学研究科博士後期課程修了。1990年京都大学理学部講師。1995年京都大学大学院理学研究科助教授。1997年ジョージア工科大学上級客員研究員。2006年京都大学大学院理学研究科教授。2016年京都大学数学系長。2020年京都大学大学院理学研究科長・理学部長。2023年京都大学理事・副学長に就任。理学博士(京都大学)。研究テーマは力学系理論とその応用。日本応用数理学会、日本数学会。

■京都大学の紹介

伝統の重みを感じさせる、登録有形文化財(建造物)の正門

ノーベル賞受賞者など
日本の頭脳が集まる総合大学

 京都大学は1897(明治30)年、日本で2番目に創立された国立大学で、わが国の最難関大学の1校として知られています。その規模は巨大で、総合人間・文・教育・法・経済・理・医・薬・工・農の10学部21学科と18の大学院研究科(四つの専門職大学院を含む)などから構成されています。学生数は学部生約1万2800人、大学院生約9600人、教員数は約3500人。「自由の学風」で名をせており、教員と学生、上級生と下級生といった垣根を越えて語り合える校風は今も変わっていません。
 また、「教育」と同等か、それ以上に「研究」を重視する大学としても知られ、2022年度の文系学部卒業者の約24%、理系学部卒業者の約77%が進学を選びました。
 特筆すべきはノーベル賞受賞者を数多く輩出していること。日本初のノーベル賞受賞者である湯川秀樹をはじめ、朝永振一郎、福井謙一、利根川進、野依良治、益川敏英、小林誠、山中伸弥、赤﨑勇、本庶佑、吉野彰(敬称略)と、その数11人。また、医学分野でノーベル賞に次いで権威があるとされるラスカー賞の日本人受賞者は7人いますが、そのうち5人が京都大学ゆかりの研究者です。まさに日本の頭脳が集まる大学といえるのです。

桂キャンパスにあるローム記念館の大ホール。
京都市内を見下ろせる高台に位置し、産官学連携本部の桂地区拠点として活用されています

この記事は2024年2月21日刊行『Y-SAPIX JOURNAL』3・4月号に掲載された記事のWeb版です。

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