高3で起業し、学生社長として「日焼け止め習慣化事業」に取り組む 卒業生インタビュー ~Special~
幼児向けの日焼け止めと紫外線対策教材の開発を手掛ける、株式会社Sunshine Delight代表取締役の伊藤瑛加さんは、普段は中央大学法学部に在籍する大学生です。幼児を対象とした紫外線対策をビジネスにするために、伊藤さんが起業したのは高校3年生のとき。抜群の行動力と柔軟な発想力を発揮し、学びにビジネスにと打ち込む伊藤さんに、これまでの学びと今後の取り組みについて伺いました。
高2で起業家精神を学びビジネスへの興味・関心が高まる
Y-SAPIX吉祥寺校OG 中央大学法学部1年
株式会社Sunshine Delight
代表取締役 伊藤 瑛加さん
――多忙な高校時代を過ごされた伊藤さんですが、Y-SAPIX吉祥寺校に入室した経緯を教えてください。
伊藤 私は中央大学附属高校に通っていたので、中央大学への内部推薦資格はありましたが、国公立大学への進路を視野に入れ、高1のときにY-SAPIXに入室しました。高校受験のためにSAPIX中学部に通っていた私は、少人数制のきめ細かい指導に魅力を感じていたので、入室に迷いはありませんでした。
――授業はいかがでしたか。
伊藤 英語、リベラル読解論述研究、数学を受講していましたが、アットホームな雰囲気で発言しやすく、授業に活気があると感じました。また、解説が丁寧で、先生が適宜、質疑応答形式で理解度をチェックしてくださったのも良かったです。テキストが授業ごとに配布されるため、予習ができない分「取り組むべきこと」が明確になるため、スムーズに学習が進められました。高1の時に先生から「狙うのなら東大!」と励まされ、無謀だと思っていた東大を目指すようになりました。高い目標に向かって仲間と切磋琢磨したおかげで、自分の学習スタイルを築くことができ、3年間のY-SAPIXでの学習が前向きで実りあるものになりました。
高3で起業してからは、休み時間などに図書館で仕事のための調べ物をして、放課後はY-SAPIXで学びました。休日は事業活動もしていたので忙しかったですが、Y-SAPIXでの学習をルーティンに取り入れ、受験に向けて自分を追い込んでいった経験は、財産として現在に生かされています。
――伊藤さんが起業に興味を持ったきっかけは高校の授業だと伺いました。
伊藤 高2の時に受講した、教養総合1「アントレプレナーシップ(※)入門」という選択授業です。この授業では、「起業」「イノベーション」「人間の意思決定の科学」といったテーマについて学び、シンガポール研修旅行に参加します。現地では、起業家の方々に向けたプレゼンテーションや現地企業への訪問などを通して多文化共生への理解を深めました。また、この授業の受講者は、日本政策金融公庫主催の「高校生ビジネスプラン・グランプリ」への応募が必須となっています。
アントレプレナーシップ
高い創造意欲や積極性といった起業家精神、またそうした能力を持った起業家のこと。
――グランプリにはどのようなプランで参加したのですか。
伊藤 私のいたグループはレシートアプリに関するビジネスプランを提出し、全体でベスト100に、さらに東京都のベスト15に選出されました。このような経験から、アイデアを発信したり、周囲の方々と協働したりする楽しさを知り、実際に自分でも事業を始めたいと考えるようになりました。
農作業にいそしむ母の肌が紫外線対策を事業化するヒントに
――「幼児期からの紫外線対策」を事業に選んだ経緯を教えてください。
伊藤 農家の6人きょうだいの末っ子として生まれた私は、母の肌のシミやシワが気になっていました。紫外線について調べるうちに、日焼けによる肌トラブルを防ぐには紫外線対策が不可欠で、日焼け止めは小まめに塗り直さないと十分な効果が得られないことが分かりました。同時に、世界保健機関(WHO)が、「人は18歳までに生涯に受ける紫外線量の半分以上を浴びる」という見解を出していることも知りました。海外では学校教育の場で紫外線対策の大切さを教えるとともに、公共施設等に日焼け止めを常備し、「日焼け止めの習慣化」に成功しています。一方、日本ではいまだに「日焼けした肌は健康的」というイメージがあり、紫外線対策が軽視されています。
そこで、幼児期から「紫外線対策の重要性」と「日焼け止めの正しい使い方」を理解し、習慣化することが重要だと考えました。このような社会課題を解決するために、紫外線対策を主軸としたビジネスプランを作成し、2019年5月に開催された「JA(農業協同組合)アクセラレータープログラム(※)」に応募したところ、特別賞に選出されました。こうして認めていただいたことから自信が湧き、7月に株式会社Sunshine Delightを設立したのです。
アクセラレータープログラム
企業や組織がベンチャー企業などの新興企業に出資や支援を行うことで事業共創を目指す取り組みのこと。
――社会課題の解決に向けて、どのように事業を進めていったのですか。
伊藤 まずは現状を把握するためのリサーチを行いました。日本では日焼け止めが化粧品として販売されているため、容量が少なく、高価な上、多くの学校では持ち込みが禁止されています。紫外線の害については、環境省が「紫外線環境保健マニュアル」を通じて情報を発信していますが、ほとんど認知されていません。これらの問題点を解決するには、大容量の日焼け止めをより低コストで製造・販売し、多くの人が気軽に使えるようにすることと、使用者である子どもにとって安全な商品を開発することが必要です。さらに、日焼け止めと、紫外線対策の重要性を伝える教材をセットにすることによって、保育者の負担を軽減しながら、日常的に日焼け止めを使う環境をつくろうと考えました。
このビジネスプランを検討する過程では、OEMメーカー(製造受託企業)数社に大容量の日焼け止めを製造するプランを持ち込みました。ある企業とは何度か打ち合わせを重ね、具体的な製造計画にまで話が進んだのですが、突然連絡が途絶えてしまい、社会の厳しさを痛感しました。それでも気持ちを切り替えて、「化粧品会社にもアクセラレータープログラムがあるのではないか」と調べたところ、コーセーの新規領域に関するテーマの募集案件を見つけました。そこでJAの承諾を得て、同じビジネスプランで応募した結果、採択されたのです。
日焼け止めと教材をセットにし、幼児期からの紫外線対策を習慣化
――コーセーとの共同プロジェクトはどのように進めているのですか。
伊藤 担当者と打ち合わせを重ね、支援を受けながら「幼児の日焼け止め使用を促進するプロジェクト」を進めています。その主な内容は、幼児向けの日焼け止めの開発と、紫外線対策を定着させる啓発活動です。日焼け止めは、従来の製品にはない600ミリリットルの大容量で、容器も環境に配慮して紙製にしました。
紙製のボトルに入った大容量の日焼け止め(左)と、教材の絵本をセットにし、幼児期からの紫外線対策の習慣化を目指します
想定している販売先は、保育園や幼稚園、公共施設などです。個人向けに販売している従来の日焼け止めは、広告費が商品価格を押し上げる要因となりますが、公共施設向けなどBtoB(※)の製品は、広告を打つ必要がなく、その分だけコストを削減できます。また、幼児期から日焼け止めを日常的に塗っていなければ、大人になって急に定着させるのは難しいでしょうから、歯磨きや手洗いと同じように習慣化させるため、保育施設での使用が望ましいと考えたのです。さらに、保育士が幼児に塗る手間を省くため、幼児が一人でも使えるポンプ式ボトルを採用しました。
BtoB
“Business to Business”の略称で、企業が企業に対してモノやサービスを提供するビジネスモデルのこと。
保育施設へは日焼け止めと絵本をセットで販売し、『ぬりぬりの歌』という歌も活用して子どもたちに紫外線対策の大切さを伝えることにしました。モニタリングのため、2020年夏に複数の保育施設と公共施設に納品し、アンケートも実施しました。本格的な事業展開は2021年度の予定です。
自分で目的を探してチャレンジ!「できる環境」を自分で整える
――これまでに学んだことで、今に生きていると感じることはありますか。
伊藤 中央大学附属高校では生徒の自主性が尊重されています。自由だと逆に何をしていいのか分からなくなりがちですが、私は自由な高校時代を過ごしたからこそ、自ら目的を探して挑戦することの大切さを学びました。
私は中学時代から弁護士という職業に興味を持っていましたが、起業後は契約の重要性を知り、中央大学法学部に進みました。法学を学び始めてから、「条文を当てはめて解釈をし、適用する」という論理的思考は、すべての問題解決に応用できるものだということに気付きました。また、大学では起業関連の授業を積極的に受講し、事業に役立てています。我ながら最善の学部選択ができたと思います!
――将来の夢を聞かせてください。
伊藤 私自身は、さまざまな分野に興味・関心を持つタイプなので、これまで通り一つに絞らず、うまく並立させながら取り組みたいです。時間がないから諦めるのではなく、「できる環境」を自分で整えていきます。
――最後に、Y-SAPIXに通う後輩にメッセージをお願いします。
伊藤 難関高校や有名大学に入るメリットは、社会に出てから使える武器を増やす環境が備わっていることです。幅広い分野を学べる環境を得るためにも、難関高校や有名大学に進学する意義があると思います。ただし、目的意識がないと、その環境を生かせません。受験生の皆さんは、自分のしたいことを続けながら勉強も頑張ってください。そうすることが、今後に生きるはずです。お体には気をつけて、充実した日々をお送りください。
■株式会社 Sunshine Delight
#子供たちへ日焼け止めの大切さを伝えたい
~太陽の下で安心して暮らせる環境を~
子供にも日焼け止めの習慣を根付かせるために、保育施設(幼稚園・保育園)向けの日焼け止めと紫外線対策教材を販売しています。
▼公式Webサイト
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