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模試・教材制作の現場から【英語編】 

入試問題を徹底的に分析 合格への最良のサポートツールに

 受験生にとって模試と教材は、志望校に合格するための重要なサポートツールです。Y-SAPIXではそれらをどのように制作しているのでしょうか。英語の模試と教材の制作にも携わるY-SAPIX東大館 英語科の大河原祥之に、その過程や思いを聞きました。

Y-SAPIX 東大館 英語科 大河原 祥之

テーマを厳正に選定 内容はトリプルチェック

――Y-SAPIXでは模試をどのように作っているのでしょうか。
大河原 模試の制作には実施日の半年以上前から取りかかります。英語科の場合、リスニングとリーディングに分かれてそれぞれ4~5人のチームを作り、大問ごとに分担を決めて各自が問題案を考えます。次に、各チームのリーダーが中心となって採用する問題を選定すると、続いてスクリプト(台本)を作成し、検証を行います。この検証では高校の先生方に問題の内容や難易度の設定が適切かどうかをチェックしてもらいます。同時に、より自然な表現になるよう、ネイティブスピーカーによる確認も行います。

――3段階に分けてチェックしているのですね。その後はどのように進行するのですか。
大河原 リスニングのチームであれば、スクリプトに沿って音源を録音します。最近の大学入試では、多様な英語の理解を目的に、アジア系の話者が使われるケースもあるため、私たち英語科の講師が録音に参加することもあります。一方、リーディングのチームには録音作業はありませんが、それ以外は同じような流れで進行します。

――完成までにどの程度の時間がかかりますか。
大河原 検証までに1カ月から2カ月くらいを要しますが、その後の作業にはそれほど時間はかかりません。

――検証やネイティブスピーカーのチェックで修正が入ることはあまりないのですね。
大河原 海外経験のある講師も目を通すので、その段階で大きな修正が入ることはほとんどありません。最も厳しいフィードバックが返ってくるのは、選定した案をチーム内でチェックするとき。そこでは一切の妥協がないため、「使えないものは使えない」と、ほぼ毎回NGが出ます。そうなると代案が求められるのですが、出ないときはいくら考えても良い案が出てこないので、かなり苦労します。やはり、何を題材にするかという最初のテーマ設定が最も難しいですね。作問に取り組んでいる時は「どんなテーマにしようか」と四六時中考えています。

――テーマはどうやって見つけていますか。
大河原 ラジオやポッドキャストなどに耳を傾け、次に使われそうな目新しいテーマを常日頃から探すようにしています。最近では、車の自動運転や、アメリカの大学スポーツのプロ化といったテーマで作問しました。

入試の最新トレンドも把握し生徒のために最適な教材を

――教材の制作についても教えてください。
大河原 学年ごとにチームを編成し、模試と同様、テキストを使用する半年前から始動するのが通例です。各大学の入試問題を使用するので、まずは大学に著作物の利用許可を得るための申請手続きを行うことからスタート。基本的には前年度のテキストに準じますが、その年のトレンドに合わせて新たな問題を申請することもあり、それと並行しながら入力作業や訳例、解答例の作成も進めます。

――掲載する問題はどうやって選定するのでしょうか。
大河原 大学入試が終わった時点で主要大学の問題をひと通り解き、その年の傾向を踏まえてチーム内で徹底的に分析します。いわゆる有名大学以外でも、良問を出題するとされる大学の入試問題にはできる限り目を通します。その一方、受験生のレベルを超えた長文や、正解が複数出てしまうような問題は採用しないように気を付けています。

高3生対象の英語講座・Grade6英語[英文読解]&[英作文法]のオリジナルテキスト


――最も大変なのはどの作業ですか。
大河原 解答例の作成ですね。特に、大学側が解答例を公表していない場合は非常に神経を使います。そうした大学は結構存在し、東大も記述問題の解答例は出していません。そのため、チーム内での擦り合わせを何回もしながら進めていきます。
 教材の制作にはこうした厳しさもありますが、メンバーは英語科の講師としてのプライドと自信を持って、制作に当たっています。日ごろから教壇に立ち、授業で生徒たちと接している優位性を生かして、生徒が到達できる解答例を作ることが一つの指針になっているといえるでしょう。

――模試や教材を作成する上で、どんな点に留意していますか。
大河原 月並みな表現ですが、「生徒のためになること」を最優先に考えています。模試で大切なのはフェアな競争の場を提供すること。そのためには対象学年の生徒が身に付けておくべき事項を逸脱しない範囲で出題することが重要です。特に高1と高2では使用する語彙のレベルや構文など、難易度の設定に気を配ります。
 また、教材に関しては入試トレンドを反映させるようにもしています。Y-SAPIXではテキストを毎年更新しているので、教材の内容をアップデートさせることが可能です。そのため、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)がスタートする際にも、事前に対策問題を掲載することができました。

――昨年や今年は新型コロナウイルス感染症に関連する出題が多かったようです。時事問題は入試のトレンドになっているのでしょうか。
大河原 出題傾向には大学ごとに特色があります。早慶などの私立大学は時事問題に敏感に反応しますが、東大は小説やエッセイを、京大は抽象的な文章を扱うことが多く、時事問題が出ることはあまりありません。

――特に参考にしている大学はありますか。
大河原 やはり、東大です。極端な難問ではないのですが、非常にバランスの取れた良問なので、英語力がきちんと身に付いているかを判定するためのバロメーターになり得ます。逆に、京大の問題は難解ですね。京大や一橋大は英語力に加えて読解力も必要となる問題を出していて、帰国生よりも日本できちんと英語を学んできた生徒の方が得点できるという印象があります。

経験を重ねて研ぎ澄ました感覚で
共通テストの出題を見事に的中

――昨年度の共通テスト第一日程のリスニングでは、先生が作成した模試の問題が見事に的中したそうですね。
大河原 あの時は本当に驚きました。といっても、残念なことに、その模試の実施日は第一日程の2カ月後。ですから「的中しました!」と大々的に発表することもできませんでした。模試の実施後に生徒たちからの反響もなかったので、こちらから「実は的中していたんだよ」と言い出すわけにもいかなくて……(笑)。

――そうだったんですか……。それにしても、本番と同じ第5問で的中したというのはすごいですね。しかも、テーマだけでなく、設問までそっくりだったと聞いています。
大河原 共通テストは大問ごとにある程度テーマが設定されています。第5問では音声と一緒に資料が提示され、大学の講義を想定したようなアカデミックなテーマが出されます。問題のテーマを考えている際、英語のラジオ番組が国連の「世界幸福度調査」を取り上げているのを聴き、「これは面白い!」と思ったのです。張っていたアンテナが感度良く受信したような感じで、悩むこともなく1日で作り上げた問題でした。

――日常的に多くの問題に接していることで、テーマや設問を予測できるほど、感覚が研ぎ澄まされているのかもしれませんね。では、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
大河原 高2までに文法単元別の学習をある程度完成させておくことが難関大学合格の条件です。四択問題や並べ替え問題が解けるというレベルではなく、各単元の基本的な例文を反射的に言える・書けるレベルになるまで、やり込むことが大切です。Y-SAPIXで英語を受講している生徒は、テキスト(高校生はCore Grammar)に掲載されているKey Sentencesを音読したり、作文したりして反復練習すると良いでしょう。そうやって口や手を使って身体化された知識だけが、実際に英語を運用する力となるのです。

この記事は2022年8月22日刊行『Y-SAPIX JOURNAL』2022年9・10月号に掲載された記事のWeb版です。


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▼theyやtheirが単数!?東大英語から現代を考える!
別のnote記事「英語こぼれ話#3 三人称単数のthey」は今回取材を受けた大河原が書いたものです。

▼“リーディングでは語数は減ったが、○○は増えた?"
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