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リベラル書籍紹介#22 『現代語訳 論語と算盤』渋沢 栄一 、守屋 淳訳

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。


今回は、高校生10月期で使用した『現代語訳 論語と算盤』です。

渋沢 栄一 、守屋 淳訳『現代語訳 論語と算盤』ちくま新書



渋沢栄一と『論語』


皆さんは「渋沢栄一」という人物をご存知でしょうか。簡単に紹介すると、渋沢は明治維新後の日本において500近い会社の設立に関わり、「日本資本主義の父」「実業界の父」としてノーベル平和賞の候補にもなった人物です。

鉄道、電力、ガス、銀行など、私達が日常生活で享受するインフラやサービスを司る会社の多くに渋沢が関与しており、その意味では経済的な面で近現代の日本の礎を築いた偉人だと言えるでしょう。

本書は、渋沢が『論語』の教えを実業界に導入することによる資本主義の暴走の抑止を意図して上梓した『論語と算盤』から、重要な部分を抽出して現代語訳したものになります。


豊かな社会を実現するには?


本書で述べられている渋沢の言説には、「『利益の追求』と『道徳の実践』を調和させ、社会を豊かにするべき」という考えが通底しています。一般的に「道徳の実践」というと、富や地位を得ることを嫌厭することと結びつくと考えられがちな印象があります。俗世的な利得、欲望から離れ超越した境地に至ることを目指す仏教が信仰されてきた日本では、特にその傾向が強いのかもしれません。

しかし、渋沢は『論語』の一節を再解釈し「孔子は富や地位を嫌っていた訳ではない」ということを示しつつ、富や地位のために経済活動を行うことの重要性を説いています。人々が十分な利益を得ることが出来なければ国の生産力が減退し、道徳の実践に至るための体力すら持てず国が滅びるというのです。

それと同時に、渋沢は『論語』において「正しい道理を踏んだ末の富や地位」が重視されている点に着目し、道徳の大切さも述べています。いたずらに経済活動のみに邁進すると、他人の利益を強奪する等自己中心的な行為にはしり、国力を損ねることになりかねないと説かれています。

このように、「経済活動」と「道徳」が表裏一体の関係にあり、両輪として高めていくことが社会を豊かにするために不可欠だということが本書では一貫して述べられています。

学問と現実の調和、できていますか。


以上のことを踏まえつつ、渋沢は「自分を磨く」ということに関して、「学問と現実を調和させること」が肝要だとしています。人々が知識や理論に囚われ、それらを現実社会での活動に反映させる意識を欠くと社会が混乱してしまうということが、中国宋王朝を例に述べられています。

そして、このことの実現のために、知識や理論を学ぶ土台としての人格を高めること、即ち道徳を身につける必要があるということが示されています。社会での活動や道徳観念の理解のために知識や理論は欠かせない一方で、道徳がないと利己主義に陥り、社会に損失を与えかねないというのです。

じっくり考える。自分と向き合うという経験を。


このように、本書では「社会を豊かにすることに資する」ということを基本線としつつ、「われわれはどう生きるべきか」についての考えが随所に示されています。そして、それらは現代に生きる私達にも何かしらの示唆を与えるはずです。

現代社会においては、グローバル化の進展等により1つの国や地域のなかにも多様な価値観が並存するようになり、またそれらが更新される速度も増してきています。既存の価値観が瞬時のうちに陳腐化してしまう、先の見えない時代になってきているのです。

皆さんも、「自分が何のために生きているのか」「何のために勉強しているのか」を明確化できず、思い悩むことがきっとあるでしょう。そのような時に、渋沢の言説に従い「社会の増進のために自分が出来ることは何か」について思いをはせてみることで活路が見えてくることがあるのではないでしょうか。

本書を通読して渋沢の思想に深奥まで触れ、「先の読めない今の時代において、自分は何を指針に生きるべきか」について考えを巡らせてみてください。そのことが、皆さんの学業生活、ひいては人生にまで光明をもたらすはずです。

リベラル読解論述研究ってどういう授業?

https://www.y-sapix.com/method/curriculum/liberal/


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