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リベラル書籍紹介#15『その情報はどこから?-ネット時代の情報選別力-』

この連載ではY-SAPIXのオリジナル科目「リベラル読解論述研究」で使用した書籍について、担当する職員が紹介していきます。

今回は、中学生3月期で使用した『その情報はどこから?-ネット時代の情報選別力-』です。

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『その情報はどこから?-ネット時代の情報選別力-』猪谷千香
(ちくまプリマー新書、2019年)

本書は、通信機器やインターネットの普及が進んだ現代において、次から次に流れてくる情報にどう向き合うべきかを論じた書籍です。

私たちは、いつでも、どこでもインターネットにアクセスし情報を得ています。インターネット検索や無料百科事典を用いて気になることや最新のニュースについて調べたり、各種動画サイトで面白い動画を探したり、SNSで最新のトレンドや興味深いニュースについて探ったり…皆さんの中にも、以上のことを日常的に行っている方が数多くいるはずです。

しかしながら、インターネットで得られる情報は全てそのまま信じてしまっても良いのでしょうか。皆さんもご存じかもしれませんが、とりわけSNSや掲示板においては、ユーザー自身が編集や検閲を経ることなく自由に情報を発信することが可能です。そのため、そこで流れる情報には事実無根のデマや虚偽を含むフェイクニュースも少なくありません。


実際に起きた事例の紹介とその影響

本書では、このようなデマやフェイクニュースが信じられたために起こった事件がいくつか紹介されています。たとえば日本では、とあるお笑いタレントの方が、女子高生監禁殺害事件の犯人だとして1999年から10年もの間ネットの掲示板上で誹謗中傷され、19人が名誉棄損等の容疑で摘発された事件が挙げられています。そのタレントさんが事件の舞台となった東京都足立区の出身で、犯行グループと同世代であることから囁かれただけのデマでしたが、多くの人がそれを信じ込み、中傷や脅迫に及んでしまったのです。

また、アメリカでは「コメット・ピンポン」というピザ店での発砲事件が2016年にありましたが、この事件の犯人は「コメット・ピンポンが小児性愛者の巣窟で、児童売春の根城になっている」とのフェイクニュースを真に受けたことが犯行に及んだ動機でした。メキシコでは2018年に、メッセージアプリ上で流されたデマを鵜吞みにした犯人による殺人事件も発生しています。また、本書においては、2016年のアメリカ大統領選の際、ポール・ホーナー氏がネット上で流した、トランプ氏が有利になるようなフェイクニュースが多くの人にSNS上でシェアされ、ひいてはトランプ陣営選挙対策本部長までもが自身のアカウントで紹介したというものなど、政治に関わる場面でフェイクニュースの悪用や情報操作がなされたケースもいくつか紹介されています。このような事例からも、デマやフェイクニュースが人々に与える影響の大きさが窺えます。

デマやフェイクニュースを信じてしまう原因とは?

なぜ人々は根も葉もないデマやフェイクニュースを信じてしまうのでしょうか。この傾向を助長するものとして、本書ではネット上での情報の取捨選択が挙げられています。ネットショッピングで何かを購入した際、それと同じような商品がおすすめとして列挙されたり、動画サイトで普段よく見る動画と同じ系統のものが「あなたへのおすすめ」としていくつか表示されたりということは、皆さんも経験したことがあるのではないでしょうか。これらは「パーソナライズ」により、各ユーザーに最適と思われる情報がユーザーの意図しない所で選択された結果生じるものになります。著者は、このようなネットによる情報の取捨選択は、自分にとって都合のよいニュースばかりに注目する「確証バイアス」を加速させると述べています。情報に触れた際、それが事実か虚偽かに関わらず、自分好みのものであれば何でも信じるようになってしまうというわけです。

ここまで見てきたように、私たちは行動するうえで、デマやフェイクニュース、またネットによる情報の選択の影響を知らず知らずのうちに受けていることが少なくありません。流言飛語を盲信することなく、確度の高い情報を選別できるようになるためには何をすれば良いのでしょうか。著者は、「その情報がどこから来て、どんな目的を持って、どこへ流れていくのかを知ること」が肝要であるとしています。

本書を最後まで読めば、良質で信頼性の高い情報を素早く得るためにするべきことを明確に理解できるはずです。情報化社会を生き抜く術を身につけるためにも、ぜひこの本を手に取ってみてください。

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