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数学こぼれ話#5/お役立ちシリーズ vol.1 ~「命題と論証」の急所~

皆さん、こんにちは。

Y-SAPIX数学科では、高校数学の各単元を初めて学んでいる高校生を対象に、「お役立ちシリーズ」の記事を発信していきます。各単元の内容は互いに結び付いており、また難関大と言われる大学の出題ほど、単元横断的な理解が問われます。

お役立ちシリーズ vol.1のテーマは、数学Iの「命題と論証」です。他の単元に比べると抽象的で用語も多いので、苦手に思う方が多い単元です。この単元を初めて学んでいる時には「どこで役に立つのだろう?」と感じるかもしれませんが、ここで学ぶ様々な考え方は、その先の数学を学んでいくうえで欠かせません。本記事を通じて、基本的な事柄を再確認しましょう。また、+αの内容も含んでいますので、得意な方も一読の価値ありです!


〇「条件」とその周辺

・条件
$${x}$$を与えるごとに「成り立つ」または「成り立たない」が決まる数学的な文章を「$${x}$$に関する条件」と言います。以下、$${x}$$は全て実数とします。例えば「$${x>1}$$」は$${x=2}$$で成り立ち、$${x=0}$$で成り立たないことから分かるように、$${x}$$に関する条件です。

・真理集合
上で見たように、「$${x}$$に関する条件」は「成り立つ$${x}$$」と「成り立たない$${x}$$」を切り分ける、ある種の基準であることが分かります。そこで、$${x}$$に関する条件(以下、$${p}$$とする)が成り立つ$${x}$$を全て集めたものを「条件$${p}$$の真理集合$${P}$$」と呼ぶことにします。$${x}$$は実数なので、条件$${p}$$の真理集合$${P}$$は、数直線上に表現できます。やや発展的ですが、実数の組$${(x,y)}$$に関する条件$${p’}$$の真理集合$${P’}$$は、$${xy}$$平面上に「領域」として表現できます。(詳しくは、数学Ⅱの「図形と方程式」で学びます。)

・命題
真または偽が決まる数学的な文や式を「命題」と言います。後ほど詳しく見ていきますが、2つの$${x}$$に関する条件$${p}$$,$${q}$$を単に「ならば」で結んだ「$${p}$$ならば$${q}$$」は$${x}$$に関する「条件」であって、「命題」ではありません。

〇「全称」と「存在」(発展)

高校ではあまり習わないことが多いですが、全称($${\forall}$$)と存在($${\exist}$$)の考え方は、高校数学をしっかり理解するためには大切です。こちらは、「深掘りシリーズ」の方で詳しく扱っていく予定です。単なる条件が、命題へと姿を変える様子を眺めてみましょう。

・全称(all、$${\forall}$$)
$${x}$$に関する条件$${p}$$は、「全ての$${x}$$に対し、$${p}$$」とすることで、命題となります。すなわち、どのような$${x}$$に対しても$${p}$$が成り立っていれば真で、$${p}$$が成り立たないような$${x}$$が1つでもあれば偽です。
(例)「$${x}$$>1」は$${x}$$に関する条件です。一方、「全ての$${x}$$に対し、$${x}$$>1」は$${x}$$=0のような反例があるので、偽の命題です。

・存在(exist、$${\exist}$$)
$${x}$$に関する条件$${p}$$は、「ある$${x}$$に対し、$${p}$$」とすることで、命題となります。
 すなわち、$${p}$$が成り立つような$${x}$$が1つでも存在すれば真で、そのような$${x}$$が存在しなければ偽です。
 (例)「$${x}$$>1」は$${x}$$に関する条件です。一方、「ある$${x}$$に対し、$${x}$$>1」は例えば$${x}$$=2とすれば成り立つので、真の命題です。

〇「必要」と「十分」


さて、2つ前の見出しで「$${p}$$ならば$${q}$$」は条件であって、命題ではないと述べました。が、「$${p}$$ならば$${q}$$」の真偽を、学校の授業でさんざん判定しました…。
という皆さんの声が聞こえてきそうです。本当のことを言うと、命題の意味で(すなわち、真偽が定まるものとして)慣習的に書かれる「$${p}$$ならば$${q}$$」というのは、正しくは

「全ての$${x}$$に対し、$${p}$$ならば$${q}$$」

なのです。1つ前の見出しで見たように、$${x}$$に関する「条件」である「$${p}$$ならば$${q}$$」の前に、全称を表す「全ての$${x}$$に対し」が付くことで、「命題」になっているのです。そして(詳しく述べると長くなってしまうので結論だけを言うと)、

(*)「全ての$${x}$$に対し、$${p}$$ならば$${q}$$」

という命題の真偽を判定するには

条件$${p}$$が成り立つ$${x}$$に対して、必ず条件$${q}$$は成り立つか

を確認するだけで事足ります。そして、このことは

条件$${p}$$の真理集合$${P}$$は、条件$${q}$$の真理集合$${Q}$$に含まれるか

を確認することで代用できます。例え話ではありますが、

Aさんが東京に住んでいるとき、Aさんは必ず日本に住んでいる

が真であることは

東京に住んでいる人の集合は、日本に住んでいる人の集合に含まれる

という事実によって保証されることを考えれば、直感的に理解できるでしょう。
ここで、日本に住まずして東京に住むことはできないので、「日本に住んでいる」は、「東京に住んでいる」ための必要条件です。逆に、東京に住んでいるならば(それが必須かはさておき)、日本に住んでいることにはなるので、「東京に住んでいる」は、「日本に住んでいる」ための十分条件です。一般的な言い方をすると、(*)が成り立つとき

条件$${q}$$は条件$${p}$$の必要条件
条件$${p}$$は条件$${q}$$の十分条件

と言います。加えて

(**)「全ての$${x}$$に対し、$${q}$$ならば$${p}$$」

も成り立つとき、

条件$${p}$$は条件$${q}$$の必要十分条件

あるいは

条件$${p}$$は条件$${q}$$と同値である

と言います。見た目こそ違うものの、$${p}$$と$${q}$$が主張している数学的な内容は全く同じ、というわけです。「必要」と「十分」、あるいは「同値」といった考え方は数学を正しく理解していくうえで非常に重要ですので、この機会にしっかりと身に付けてほしいと思います。

それでは、次回の「お役立ちシリーズ」でお会いしましょう!

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