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2021年度大学入試科目別出題分析①国語

2021年度個別試験における、主要大学の出題傾向と回答のポイント、対策を科目ごとにご紹介します。
第1回は国語。
2022年度の入試対策としてお役立てください。

1.各大学について

【北海道大学】
第一問と第二問は現代文(評論)、第三問は古文、第四問は漢文が出題されま
した。

第一問は青山拓央『心にとって時間とは何か』から出題、「今」の把握を起点に時間と認識との関係を論じる哲学的な文章でした。問一の漢字問題はいずれも標準的なものでしたが、2は「支度」と「仕度」の2通りの解答があります。問二の指示語の指示内容説明、問三の比喩表現の一般化は定番の出題でした。問四は傍線部の前後がヒントになります。問五は21段落目以降の内容を正確に理解できるかが鍵になります。問題文の分量は昨年よりも多めで、テーマとしてはやや難解なものだったかもしれません。

第二問は池内恵「すばらしい『まだら状』の新世界」から出題、従来の傾向とは異なる、「イスラーム国」の国際化の過程を論じた文章でした。問一は抜き出し問題でしたが、字数が多いため絞り込みに時間を要したかもしれません。問二は本文から具体例を探すようにしましょう。問三は傍線部直後の内容の理解が必要になります。問四は傍線部直前の一文や一つ前の段落に着目しましょう。問五は本文中の「イスラーム国」の拡大について述べた部分に着目しましょう。全体として標準的なレベルの大問でした。

第一問、第二問とも、制限字数内に要素を過不足なく端的に盛り込む練習を
積むことが肝要といえます。

第三問は「枕詞」を全体のテーマにした上で、メインである『文照聞書』、および『古今集』仮名序、『古今集』真名序と計三つの文章が出題され、入試改革が意識されていたといえます。問一の現代語訳は基本的なレベルでしたが、傍線部ロの「正義」の訳出は要注意です。問二、問三は該当箇所の要点を制限字数内に端的に盛り込む必要があります。問四は筆者の説を巡る北村季吟の言葉を手掛かりに傍線部の意味を把握しましょう。問題文の分量は増えましたが、出題は標準レベルでした。

第四問は桓譚『新論』から出題、問題発生後の対処よりも未然の防止の方が
重要だと説く文章でした。問一の語句の読みはいずれも基本事項なので、ここでの失点は避けましょう。問二は再読文字「且」の把握と「火災」の歴史的仮名遣いが鍵です。問三は「其」の内容を明示して説明しましょう。問四の75字以内での説明は例年見られる出題形式でした。「彼の人」が指す人物をミスなく把握しましょう。こちらも問題文の分量は増えましたが標準的なレベルの大問でした。

【東北大学】
第一問は現代文(評論)、第二問は現代文(小説)、第三問は古文、第四問は漢文が出題されました。

第一問は河本英夫『経験をリセットする-理論哲学から行為哲学へ』から出
題、経験を言葉で表していく過程について、吟遊詩人の営みを踏まえつつ述べる言語哲学的な文章でした。問一の漢字書き取りは全体として標準的なレベルでした。問二は直後の段落、および三つ先の段落をヒントに傍線部を具体化する必要があります。問三は傍線部直後の内容を、要点を押さえまとめましょう。問四は傍線部を含む段落の要点を抽出しましょう。問五は例年見られる本文全体を踏まえた説明問題でした。やや難易度は高めですが、傍線部直後の部分が「詩人」についての理解の補助になります。

第二問は重松清「鷹乃学習」からの出題でした。中高受験も含め頻出の作家
です。問一の語句の意味についての問題では例年の「文脈に即して」の注記がなくなりました。問二は「私」と翔太の置かれた状況、直前の会話の内容をヒントに、傍線部に表れる「私」の心情を推察しましょう。問三は傍線部中の指示内容の把握がポイントです。問四はツバメの話をした「私」の意図、スペースの後も含む母親の返答に関わる記述に着目しましょう。問五は本文中の「巣立ち」や「急行列車」が意味するところを押さえる必要があります。比喩の理解が必要な説明問題は東北大学頻出です。

第三問は浅井了意『かなめいし』からの出題、震災後の神社信仰を巡る筆者
の批評を述べた文章でした。問一の口語訳は文脈を踏まえ意訳する必要があ
り、やや難解だったかもしれません。問二は直前の文章を踏まえ言葉を補いましょう。問三は「三条寺町より~」の記述に着目すれば容易に内容を理解できますが、端的にまとめる必要があります。問四は筆者が傍線部のように批評する対象の内容を把握し、直前までの文章を要約しましょう。問五は直後の内容に着目し、豊国神社が崇められる理由を本文から読み取りましょう。

第四問は潘士藻『闇然堂類纂』から出題、儒学者の薬の売買を巡る行為につ
いて書かれた文章でした。問一は基本的な語句を確実に押さえ、後ろとの接続に注意すれば比較的容易に得点できます。問二は「問」「酬」を文脈に応じて訳す必要があります。問三は仮定形「微~」と否定形「不得~」に留意しましょう。前者はやや発展的な内容でした。問四は「市」「質」の意味を本文から読み取りましょう。問五は儒生の母のせりふから金の布が意味するところを把握することが鍵です。

全体として問題のレベルは標準的でしたが、問題文の分量は増加傾向にあ
りました。制限字数の厳しい問題も多く、要素を端的に過不足なくまとめる練習を積むことが有効といえます。

【東京大学】
例年通り、第一問は現代文(評論)、第二問は古文、第三問は漢文、文科のみ
の第四問は随想から出題されました。

第一問は松嶋健「ケアと共同性―個人主義を超えて」から出題、単純な二者間関係にとどまらない共同的な「ケアの論理」について述べた文章でした。本文の主張に関わる「『ケアの論理』―『選択の論理』」や、「『社会』を中心におく論理―『人間』を中心におく論理」など、二項対立の記述が多く含まれており、そこに着目すれば全体の論旨を比較的容易につかむことができるはずです。傍線部の記述も二項対立を踏まえたものが多く、それをいかに的確に説明できるかが鍵だったといえるでしょう。問題構成は内容説明4問と漢字1問、記述量は例年通りでした。従来と同様、解答に必要な要素を過不足なく押さえ、自分の言葉で端的にまとめることが重要になります。

第二問は入試頻出の『落窪物語』から出題、継母にいじめられて育った姫君
と結婚した中納言道頼が、葵祭での復讐を企てるという文章でした。問題文の分量は昨年よりやや減少し、和歌も含まれなかったものの、人物関係が把握しづらくやや難度の高い出題となっていました。今回も例年同様、「誰がどうしたのか」「主語を補って」など人物関係を明示することを要求する設問が多く見られたので、まずリード文を読んで場面や主要人物について理解し、読解の上では注釈も活用しつつ行為やせりふの主語を押さえていくことが大切だったといえます。設問数や記述量は例年通りでした。

第三問は井上金峨『霞城講義』から出題、長期的な視野から改革をすること
の重要性、また目先の利益が明確でない改革を断行することの難しさを説く、江戸時代の日本の論説文でした。大意を把握しやすい文章でしたが、解答にあたっては細部の論理関係を正確に押さえる必要があります。選択形の訳出が問われた文科問三(理科問二)など、句形の知識に絡めた出題が多く見られたのも特徴的でした。設問数や記述量は例年通り。「わかりやすく」「平易な現代語に」などの設問文中の指示には留意する必要があります。

第四問は夏目漱石「子規の画」からの出題、手元に残された絵を通じた、漱石の、友人である正岡子規への追慕が述べられた文章でした。問題文の分量は昨年よりもかなり少なく、内容も平易なものでしたが、表現の意味する内容の把握が難しい部分もいくつかありました。近年としては珍しく心情を問う問題が2題出されており、登場人物のせりふや筆者の思いが述べられた箇所に着目することが重要になります。出題数、記述量とも例年通り。抽象的な表現の意味を押さえ簡潔にまとめる力が要求されました。

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【一橋大学】

第一問は現代文(評論)、第二問は明治文語文、第三問は現代文(評論)の文章
を200字以内で要約する問題が出題されました。

第一問は鶴岡真弓「『芸術人類学』の誕生―『根源からの思考』」から出題、西洋各地域の「文明」観、「文化」観の相違を軸に人類学について論じる文章でした。問一が漢字書き取り、問二が30字以内での内容説明、問三が30字以内での理由説明、問四は60字以内での内容説明でした。問一は「渉猟」がやや難解だったほか、「喪失」もミスしやすいものだったかもしれません。問二は「西洋人類学の土台に~」以降の部分を核に第1段落の内容をまとめましょう。問三は解答を紡ぎだすのが難しかったかもしれませんが、傍線部を含む2人の人類学者の調査の相違に「文化」「文明」がいかに関わっているかを考えましょう。問四は第1段落、第3段落を参考にしつつ、第6段落以降のドイツとの対比も踏まえ記述しましょう。各問とも必要な要素を厳しい制限字数内に簡潔にまとめることが要求されており、根拠となる部分の論の構造に留意しつつ核となる箇所のみを抽出し端的に書くことを意識する必要があります。

第二問は大西祝「悲哀の快感」から出題、他者の悲しみに自他の違いを超えて同情し、精神的な充足を得ることが人間の本性に関わることを述べる文章した。問一は現代語訳、問二は25字以内での理由説明、問三は60字以内での理由説明でした。問一は、イは二重否定の訳出、ウは「可なり」の意味の把握がポイントでした。問二は傍線部を含む一文の冒頭に「故に」とあるので、その直前の一文の内容を理由説明として適切な形に再構成しましょう。問三は傍線部と同義の表現を第2段落、第3段落から探した上で、両段落に共通する記述に留意して解答を作成すると良いでしょう。明治文語文は一般的な古文の文章に比べ文体が独特なため、近年の過去問や予想問題等を活用し、文体に慣れておく必要があります。また、政治・文化論や時事評論が出題されることが多いため、日本近代史の基礎知識を確認しておきましょう。こちらも第一問と同様、短い字数で簡潔に説明することが求められました。

第三問は中村桃子『翻訳がつくる日本語-ヒロインは「女ことば」を話し続ける』から出題。例年見られる200字以内での要約問題でした。「言葉遣いと結びつくアイデンティティ」→「本質主義,及びその課題を踏まえた構築主義」→「翻訳の考え方」という論の展開を捉え、「たとえば~」で示されている箇所をはじめとする具体例を取り除きつつ、本文の論の順番に忠実な形でまとめるようにしましょう。一橋大学の要約で確実に得点するためには、さまざまなジャンルの文章を200字以内で要約する練習を積むことが有効です。その際には、意味段落ごとのまとまりを捉え各々の主題を明確にすること、また文中に繰り返し登場する表現や内容に着目し論旨の把握につなげることを意識してください。

【名古屋大学】

第一問は現代文(評論)、第二問は古文、第三問は漢文が出題され、理学部・医学部は第一問のみが課されました。

第一問は安藤英由樹、渡邊淳司「ウェルビーイングの見取り図」から出題、情報技術の進歩が人間の幸せを抑圧している背景をふまえ、人間の心の豊かさに関する概念である「ウェルビーイング」を検討していく文章でした。問一の漢字は確実に得点したいところです。問二は傍線部前後の段落から要点を抽出し、制限字数におさまるよう端的にまとめる必要があります。問三は各傍線部の直前部分をヒントに、同義の記述を、傍線部を含む段落から探しましょう。問四は空欄補充問題が出題されましたが、前の段落の記述と空欄直前の記述を比較検討することが解答につながります。問五は二つの指定語句の関係を文中から読み取れれば一気に書きやすくなります。問六は設問で示された定義と本文内容の対応がやや分かりづらかったかもしれません。全体として解答に戸惑いそうな問題が多い印象でした。問二、問六は要素を過不足なく端的にまとめることを意識する必要があります。

第二問は入試頻出の藤原道綱母『蜻蛉日記』から出題、来訪が途絶えがちな夫を待つ作者の思いが和歌も交え綴られた文章でした。問一の現代語訳は、傍線部中の語句を正確に訳出した上で、主語や指示内容を、本文を踏まえ的確に補うことが求められました。問二は傍線部を正確に訳出し、直前部の内容との関連を考えて記述する必要があります。問三はAの「まつ」、Bの「みなつき」と「なく」が掛詞になっていることに注意して解答することが求められました。助動詞の識別なども要注意です。全体としては昨年同様やや難度の高い大問でした。

第三問は王先謙「荀子集解序」から出題、筆者の荀子への評価を述べる文章でした。問一、問二は平易な知識を問う問題なので確実に正答しましょう。問三は「待」「性」を適切に訳してください。問四は仮定形と傍線部中の対比に着目しましょう。問五は反語形の把握がポイントです。問六は訓点をヒントに構造をつかみましょう。問七は文中の筆者の主張を整理しまとめましょう。全体としては平易な問題が多く、それらを落とさずに得点出来るかが鍵だったといえます。

【早稲田大学】 

政治経済学部において、今年度から一般入試の方式に変更があり、大学入学共通テスト(100点)と学部独自試験である「総合問題」(100点)の合算で選抜が行われるようになりました。後者の「総合問題」は従来の「国語」「英語」などの枠組みにとらわれない日英両言語による長文読解問題とされていますが、第一問は和文、第二問は英文、第三問は英作文が出題されました。ここでは第一問について分析していきます。

第一問は日本の少子高齢化について述べた、図表を10含む3,500字程度の文章が出題されました。全体の分量としては7月に発表されたサンプル問題と同程度になります。小問は計7問出題され、問1~6が空欄補充、図表選択、図表読み取りなどの選択式問題、問7が本文の図表を適宜用いることを条件とする200字以内での意見論述問題でした。いずれの問題でも図表の正確な読み取りが要求された上、多重選択方式の調査結果などやや複雑な処理が必要なものも含まれていたため困惑した受験生が多かったかもしれません。

それに加えて、問7では図表から読み取ったことを援用して論を構築し、字数内に簡潔にまとめる力も問われていました。今後も同様な形式での出題が予想されるため、サンプル問題や共通テスト形式の問題を活用し、図表の傾向や必要な情報を素早く抽出する練習を積むことが有効といえるでしょう。文章の主旨や各図表の引用意図を把握するための読解力が必要になることは言うまでもありません。

【京都大学】
第一問と第二問は現代文、第三問は古文が出題されました。

第一問は随筆で、文理共通の題材となっています。西谷啓治「忘れ得ぬ言葉」より、友人との思い出から本当の人間関係について考察した文章でした。問一、四は理由説明問題、問二、三は内容説明問題でした。問一は傍線中の指示語や「忘れ得ぬ言葉」という表現に注目します。問二は傍線部に2か所ある「罪」の意味を区別し、それぞれを説明します。問三は「世間知らず」について「以前に言われた意味」と対比させ「別の意味」を説明します。問四は「書物からきた言葉」と「生き身の人間」の言葉を比較してまとめます。また、問五は文系のみの出題で理由説明問題です。傍線部直後の「そういう人間関係」や本文文末の「そういう不思議な『縁』」の内容を中心に説明します。

《文系》

第二問は例年通り随筆が出題されました。石川淳「すだれ越し」より、昭和20年ごろの自らのありようを回顧する文章です。問一の理由説明問題は「いくさのあひだ~ゐたのだから」に着目します。問二の内容説明問題は「カナリヤが雷にうたれる」という比喩表現を説明します。問三は、戦時下の筆者の姿勢を、直後のエピソードなども踏まえつつ説明する内容説明問題です。問四は傍線中の指示語に注目して理由を説明します。問五は条件に沿って内容を説明する問題です。問三で答えた内容と関連させると良いでしょう。

第三問は平安時代の歴史物語『栄花物語』から出題されました。「伊周配流」の様子を描いた文章です。問一は傍線部の現代語訳です。(1)(2)とも敬語表現や副詞の呼応に注意しながら必要な言葉を補って訳します。問二、三は内容説明問題です。問二は「すずろはし」の意味がきちんと把握できているかがポイントでした。問三は人物関係を整理しましょう。問四の和歌の現代語訳は「まし」「けり」の用法を押さえましょう。

《理系》

第二問・評論は岡井隆「韻と律」より、短歌の音数律、五七五七七の定型を考察する文章です。問一の内容説明問題は、解答のまとめ方がやや難しいですが、最初の意味段落の内容を踏まえて説明しましょう。問二は、二つ目の意味段落の内容を踏まえて傍線部の理由を説明します。問三の内容説明問題は、本文で述べられている「短歌の本質」を踏まえて斎藤茂吉の作歌態度について説明します。

第三問は室町時代の歌論書、正徹『正徹物語』より、歌を議論することについて述べた文章です。問一の現代語訳は、「ここの詞」「かくは」について言葉を補いながら具体化し、仮定条件や不可能表現を丁寧に訳出します。問二の理由説明問題は、傍線部直前「上手の歌……おけば」の内容をまとめましょう。問三の理由説明問題は、問題文1行目「よく心得て解了ある」の意味を明らかにしましょう。

【大阪大学】

大阪大学は文学部と文学部以外で出題が分かれます。

《文学部》

第一問と第二問は現代文、第三問は古文、第四問は漢文が出題されました。第一問は評論で、東浩紀『観光客の哲学』より、現代社会における規律訓練と生権力という概念の並存について論じた文章です。問二の理由説明問題は、ホテルの例から「規律社会」と「管理社会」について具体的に説明します。問四の内容説明問題は、二つの判断基準を使い分けている点を明記しましょう。

第二問は林京子「トリニティからトリニティへ」より、長崎で被爆した「私」が原爆実験の跡地を訪れ、初めて自分が被爆者であることを受け止める場面です。問二の表現効果を問う設問は「無音」「波」の意味をそれぞれ考えます。問三の理由説明問題は、今まで泣かなかった理由・泣いた理由の二つを説明します。

第三問は鎌倉時代の歌学書で、順徳院『八雲御抄』です。「和歌に長ずる」とはどういうことかを説いた文章です。問二の内容説明問題は「管弦」と「歌」の対比に着目して「心」の内容を押さえます。問四の理由説明問題は、冒頭の「歌を詠むこと、心のおこる所なり」を踏まえて、古語をむやみに使うべきではない理由をまとめます。

第四問は蔡邕『琴操』と『論語』、二つの文章からの出題です。問二の現代語訳は、抑揚の句形に注意します。問三の現代語訳と問四の内容説明問題は「道」の意味を把握することがポイントです。問四の内容説明問題は「貴」を具体的に説明します。

《文学部以外》

第一問と第二問は現代文、第三問は古文が出題されました。 

第一問は評論で、帚木蓬生『ネガティブ・ケイパビリティ-答えの出ない事態に耐える力』からの出題でした。「ネガティブ・ケイパビリティ」という概念について説明した文章です。問二の内容説明問題は、医学の1分野として確立されているという事実を踏まえます。問三の理由説明問題は、端的に「対象の本質に迫ることができる」点を説明します。問四の理由説明問題は「著者のことなどどうでもよくなった」に込められた含意を踏まえます。

第二問も評論からの出題です。早川誠『代表制という思想』より、現代政治における、代表民主主義と直接民主制について論じた文章でした。問二の内容説明問題は標準です。問三の理由説明問題は、現状では代表制が採用されているが、直接制が「劣る」わけではないことを押さえます。問四の全文把握問題は、代表制の「総合的な判断」によってもたらされる事項を考えます。

第三問は紫式部『紫式部日記』より、筆者が自分の境遇に思いをはせる文章です。問一の現代語訳は基本です。問四の現代語訳の(イ)は、「心にくからむ」「うたがはる」が訳しづらいでしょう。問五の和歌の現代語訳は、注を参照して「寒さ」に着目できるかがポイントとなります。

【神戸大学】

第一問は現代文(評論)、第二問は古文、第三問は漢文が出題されました。

第一問の題材は青山拓央『心にとって時間とは何か』で、北海道大学でも同
じ出典から出題されています。責任にまつわる「非難から修正へ」という提言について述べた文章です。問二の内容説明問題は、提言に従うと犯罪への無反省的な態度を容認せざるを得ない点を説明します。問四の全文把握問題は、過去志向と未来志向、認識と効果の違いを意識します。

第二問は『平家物語』からの出題です。平重盛が見た夢と、息子に無文の太刀を譲る場面を描いた文章です。問一の現代語訳は、敬語の訳出に注意します。問二の理由説明問題は、重盛が平家一門の命運を悟った点を明記します。問三の(2)の内容説明問題は、無文の太刀がどのような意味を持つのかを考えます。

第三問は沈括『夢渓筆談』より、馬の描き方を、牛・虎や鼠の描き方と比較して述べた文章です。問一の現代語訳のイは、再読文字「当」に注意します。問三の内容説明問題は、「見小馬無毛」の主語が「庸人」である点を押さえます。問四の書き下しの②「須」は「すべからく……べし」と読む再読文字です。

【九州大学】

九州大学は文学部と文学部以外で出題が分かれます。共通問題として現代文・古文・漢文それぞれ1題ずつあり、それに加えて文学部では古文が1題、文学部以外では現代文が1題出題されます。

《共通問題》

現代文は今福龍太『宮沢賢治-デクノボーの叡知』より、模倣の能力が人類文化における創造性の根源にあるということから、デジタル化した現代社会における文字の重要性について論じた文章です。問二は「具体的に」という表現に注目し、「内臓」「洞窟壁画」といった比喩表現を説明します。

古文は『大鏡』より、粟田殿の長男・福足君を中心とするエピソードです。問三、問五のイの内容説明問題は、人物関係を整理してまとめる必要があり
ます。文学部で出題された問六の文学史問題は、歴史物語を比較し相違点を
挙げるという珍しい形式で出題されました。

漢文は欧陽脩「送徐無党南帰序」です。欧陽脩がかつての教え子の徐無党へ送った戒めの言葉の一部分が出題されました。文学部で出題された問三や問五の説明問題はまとめ方が難しいですが、問三は「如此」に着目し、問五は作者が悲しいと思う理由を字数制限に注意しながら、それぞれまとめます。

《文学部》

文学部で出題された古文は、小林一茶の俳文集『我春集』からの出題です。問五は本文の内容を踏まえ、「月」が何を示しているのかを考えます。問六は、本文中の老婆の言動とそれに対する「しぶとき烏滸の者」という評価に着目した上で、条件に沿って「さはいへ」以下にも注意してまとめます

《文学部以外》

文学部以外で出題された現代文(評論)は、大浦康介『対面的 〈見つめ合い〉の人間学』より、人間に限りなく近いロボットであるアンドロイドを作ろうとするときに重要な要素について論じた文章です。問四は、文脈を正確に読み取り「成功した」の内容を具体的に説明しつつ、理由を説明します。問五は傍線部の「ここでも」という表現に注意し、問四の解答と関連させてまとめます。

2.今後の学習について

現代文では、例年通り哲学・社会学の分野から多く出題されています。普段
の生活の中ではあまり触れることがなく、テーマが読み取りづらいものもありますが、日頃の読書や学習の中で論の展開や筆者の主張を意識して読む力を養いましょう。

古典では、北海道大学・第三問のような複数テクストを用いた問題や、九州大学・第二問の問六のような本文と他作品を比較する問題など、大学入試改革を意識した出題も見られましたが、全体として大きく形式が変わるところはありませんでした。

古文は、名古屋大学の『蜻蛉日記』、京都大学の『栄花物語』、大阪大学(文学部以外)の『紫式部日記』など和歌解釈も例年通り多く見られますので、修辞法は早い段階で押さえておきましょう。

漢文も神戸大学や九州大学で、白文の書き下しや現代語訳を求める問題が出題されています。また、読解の基礎ともなりますので、句形についてはただ暗記するだけでなく、深く理解しておく必要があります。

この記事は『2021年度大学入試 出題傾向リサーチ』に掲載された記事の一部を修正・加筆したWeb版です。
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