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大学歴訪録 #3 横浜市立大学

医学部&データサイエンス学部を強みに国際都市横浜で次代のリーダーを養成

国際都市横浜の総合大学といえば、金沢八景などにキャンパスを構える横浜市立大学です。近年、首都圏初のデータサイエンス学部の新設や、医学部による新型コロナウイルスの研究など、注目を集めています。2020年4月に就任した相原道子学長に、SAPIX YOZEMI GROUPの髙宮敏郎共同代表がお話を伺いました。

COVID.19の研究が大きな話題に

髙宮 新型コロナウイルス感染症は依然として予断を許さない状況にありますが、貴学は昨年、新型コロナウイルス感染症について大きな成果を上げ、話題になりましたね。

相原 医学部微生物学教室の梁明秀教授が率いる研究グループは、COVID.19(新型コロナウイルス感染症)の発生以前からコロナウイルスの研究を行っていました。その結果、昨年、まず抗ウイルス抗体の検出に成功し、続いて新型コロナウイルス抗原を特異的に検出できるモノクローナル抗体の作製にも成功。民間企業と共同研究を進め、新型コロナウイルスの抗体検出試薬を開発することができました。さらに、データサイエンス研究科の質の高い解析力を用いて検証を行い、この抗体検出法の実用化を進めています。

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横浜市立大学学長 相原 道子さん

髙宮 その点ではまさに貴学らしい研究成果だといえますね。

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SAPIX YOZEMI GROUP 髙宮 敏郎 共同代表

相原 本学の特色の一つは、医学とデータサイエンス、両方の学部を有していることでしょう。首都圏初のデータサイエンス学部を2018年に開設した後、2020年には大学院にデータサイエンス研究科を設置。他学部と連携して社会のニーズに応えられる多様な研究がより一層進められるようになっています。

髙宮 私は留学先のペンシルベニア大学で大学経営学を専攻したのですが、そこでは“mission-centered”と“market-smart”という二つの重要な概念を学びました。「大学にはそれぞれ果たすべきミッションがあるので、価値判断に迷ったときは建学の精神に立ち返って考えなさい」ということと、「一方、環境は刻々と変化していくので、柔軟に対応しなさい」ということです。貴学の場合、いつの時代も変わらぬミッションとは何でしょうか。また、時代に合わせて変えてきたのはどのような部分ですか。

相原 本学のミッションは本学ホームページにも掲載していますが、キーワードは「国際性」「横浜市と共に歩む」「研究と教育で世界をリードする」の三つです。

髙宮 相原先生は貴学の医学部のご出身ですが、それらのミッションは先生の在学中から変わっていないのでしょうか。

相原 細かな文言はその時々の学長によって異なりますが、核となる部分は変わっていないと思います。なお、「横浜市と共に歩む」については、本学が公立大学法人に移行してから、あえて言語化した部分かもしれません。

私自身の言葉に換言すれば、「激動の時代、刻々と変化する社会に役立つ人材を育てる大学でありたい」ということになります。今後、医学はもちろん、データサイエンスも人文系・理系さまざまな分野で活発に応用されていくはずです。

横浜市立大学のホームページに掲載されている「YCUミッション」は次のとおり。「国際都市横浜と共に歩み、教育・研究・医療分野をリードする役割を果たすことをその使命とし、社会の発展に寄与する市民の誇りとなる大学を目指す」

実践的な英語教育を提供女子比率の高さも特徴の一つ


髙宮 大学のミッションとして「国際性」をうたっているのは、「横浜市」という地域性が大きく関わっていると考えてよろしいですね。

相原 はい。横浜市では毎年、学術・行政・企業関連の国際イベントが数多く開催されていて、本学の学生たちは国際会議のプレセッションのスピーカーやボランティアスタッフなど、さまざまな形で参加しています。国際イベントがこれだけ多いのはまさに国際都市横浜ならでは。そのおかげで学生たちは国際的な体験をする機会に恵まれているのです。

また、グローバル推進室を中心に、本学学生の海外留学支援と外国人留学生の受け入れも積極的に行っています。2020年度はCOVID.19の影響で留学生の送り出しも受け入れもできなくなってしまいましたが、代わりにリモートで国際交流を図ろうという動きが出ました。2021年度からはオンラインでの海外交流もより盛んになっていくでしょう。

髙宮 貴学の卒業生には外交分野で活躍している方が多いという印象があります。英語教育でも独自の取り組みを行っていますね。

相原 英語を実践的に使えるようにするため、「Practical English」という授業を行っています。リスニング、リーディング、文法の週3回の授業は全て英語で行われ、スピーチやプレゼン演習もあるなど、真に使える英語4技能を集中的に身につけてもらいます。2年次もしくは3年次への進級要件は、TOEFL.ITPで500点相当以上。さらにその先を目指す学生には、よりレベルの高い「Advanced Practical English」の授業も用意しています。

髙宮 貴学は、総合大学としては珍しく、約6対4で女子学生の方が多いですね。相原先生が学生だった頃からそうだったのでしょうか。

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相原 医学部については、私が入学した頃は女子が約1割でしたが、現在は4割近くを占めるようになりました。医学部で女子学生が増えたのは、女子の医学部進学を応援する家庭が増加したからではないでしょうか。

とはいえ、男女比を意図的に5対5にする必要はないと考えています。男性に適した診療科もあれば、女性にふさわしい診療科もありますから。

髙宮 近年、「理系科目の成績が良い」というだけの理由で、医学部進学を目指す高校生が増えているとも聞いています。医学部を有する大学の学長として、どんな生徒に医学部に入学してほしいですか。また、相原先生ご自身はなぜ医学部を志望されたのでしょうか。

相原 高校生の時点ではまだ人格が確立していませんから、医師という職業を選択する明確な理由を思い描けないかもしれません。しかし、少なくとも「人の役に立ちたい」「人に喜ばれる仕事がしたい」という気持ちくらいは持っていてほしいですね。医師も医学研究者も、他者のために力を尽くす仕事ですから。
 私が医学部に進学した理由は、女性が他者から感謝される仕事に就きたいと思えば、当時は医師か教師くらいしか思いつかなかったからです。私は生まれつき声が遠くまで通りにくかったので、教師ではなく医師を選びました。

ビッグデータから新たな価値を創造するデータサイエンス学部

髙宮 貴学にデータサイエンス学部が新設されて3年たちました。手応えはいかがですか。

相原 まだ卒業生がいないので、実社会で活躍している者はいません。しかし、2020年には大学院にデータサイエンス研究科が新設され、冒頭で紹介した新型コロナウイルスの抗体検出法を用いて、COVID.19回復者の抗体保有調査を行うなど、本学の研究成果が社会実装(※)されるケースも少しずつ増えています。
 ビッグデータの活用事例では、横浜市消防局との共同研究があります。これは過去の救急車の出動回数を地区ごと、消防署ごと、時間帯ごとに集計・解析し、救急車をどの地区に何台配置すれば最も効率良く迅速に救急搬送できるかを割り出して、そのデータを横浜市に提供したというものです。

※「社会実装」とは、基礎研究などで得られた成果を社会問題の解決のために応用すること。独立行政法人科学技術振興機構の「社会技術」という概念から生まれた用語で、意味は「実用化」に近い。

髙宮 新型コロナウイルス感染症で医療態勢が逼迫している今、救急搬送された患者さんがたらい回しにされたという話をよく耳にします。どの病院のベッドが何床空いているかが瞬時に分かれば、たらい回しのような事態も避けられますね。

相原 医療とビッグデータの関係でいえば、データサイエンスが予防医学を大きく前進させる可能性もあります。例えば、ある地域の住民がこれまでどんな病気に罹患し、どんな治療を受けてきたのか、過去数十年にわたる保険診療の膨大なデータを解析したとしましょう。すると、ある病気に罹患した場合にどのような経過をたどるのか、その傾向が性別・地域別・年代別に明確になるなど、これまで見えなかった関係性が可視化されます。そのデータに各人の生活習慣を掛け合わせれば、ある病気にかからないためにはどんな生活を送ればいいのかが分かるようになるはずです。


  パソコン、スマートフォンから各種電化製品まで、社会のさまざまなモノがインターネットでつながっている今日、ネット上には公的情報からSNSの何げないつぶやきまで、日々膨大なデータが生まれ、蓄積されている。そのビッグデータを解析し、新たな社会的価値を創造するための学問が「データサイエンス」だ。横浜市立大学データサイエンス学部では、データを読み解くための数理・統計知識をベースに、社会に不可欠なコミュニケーション能力やイノベーションを生み出す発想力を駆使して、次世代に通じるビジネスを創造する人材を養成している。

アメリカの制度変更に先んじ国際認証をすでに受けた医学部

髙宮 貴学の医学部は世界医学教育連盟の基準による国際認証をすでに受けていますね。

相原 アメリカの医師国家試験制度が2023年から変更されることに伴い、本学医学部の卒業生が将来的にアメリカで医師国家試験を受験できるよう、2016年に日本医学教育評価機構の外部評価を受け、評価基準に適合していることが認定されました。

本学の医学部はもともと他大学の医学部より参加型授業が多かったのですが、認定を受けるに当たり、実習などの時間がさらに増えました。

髙宮 医学部生はとにかく勉強で忙しいという話をよく聞きます。

相原 医学部生にアルバイトをする時間はない、と思っていた方がいいでしょう。毎年一定以上の成績を残さないと進級できないので、本学に入学後もしっかり勉強してもらわなければなりません。

アメリカのECFMG(外国医学部卒業生のための教育委員会)は2010年、医師国家試験制度を変更すると発表した。その内容は「2023年以降、世界医学教育連盟の基準による国際認証評価を受けた医学部の卒業生以外、受験を認めない」というもの。そこで、日本の医学教育界は医学部のカリキュラムを国際基準に合うように変更し、日本医学教育評価機構による評価を大学別に順次実施している。


大学附属2病院と医学部の再整備も

髙宮 大学附属病院には再整備計画があるそうですね。

相原 大学附属病院は現在、福浦キャンパスの附属病院と南区浦舟町の附属市民総合医療センターの二つありますが、いずれも老朽化と狭隘化かが目立つようになりました。そこで、両病院を統合して最新の医療機器を導入し、かつ医学部と研究施設を隣接させるため、新たな地への移転・再整備を計画しています。移転先は地理的に自然災害のリスクが小さい、米軍根岸住宅地区の跡地になる予定です。今後10年から15年のスパンで計画を進めていきます。

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福浦キャンパス・附属病院


髙宮 最後に、読者へのメッセージをお願いします。

相原 私たちは日常的にさまざまな情報と接していますが、読者の皆さんは、一つの情報だけを信じるのではなく、いろいろな物の見方ができる人間であってほしいですね。それはすなわち多様性を受け入れるということです。その上で、自らの進むべき道を自分の頭で考えられる人間に育ってほしいと思います。コロナ禍でも萎縮することなく、自分にできることを模索しながら進めてください。

本学は医学部やデータサイエンス学部を擁する総合大学で、多様な学びを用意していますが、大規模大学ではないため、教員と学生の距離の近さも魅力の一つとなっています。これからも国際都市横浜から世界へ飛び立つ若者を全力でサポートしていきます。皆さんの入学を心からお待ちしています。

髙宮 本日は貴重なお話をありがとうございました。

■プロフィール

横浜市立大学学長 相原 道子さん
あいはら みちこ●医学博士。専門は皮膚科学。1980年横浜市立大学医学部卒業。西ドイツMax-Planck研究所、米国Stanford University Medical Center、小田原市立病院、横浜市立大学医学部附属病院、横浜市立大学医学部附属市民総合医療センターなどを経て、2008年横浜市立大学附属病院皮膚科教授、2011年横浜市立大学医学部皮膚科学教授。附属病院副病院長、病院長を歴任した後、2020年4月より現職。

■横浜市立大学の紹介

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横浜市立大学の源流は、1871年に現在の横浜市中区に開設された「仮病院」と、1882年に開校した「横浜商法学校」です。前者は現在の附属病院の前身に、後者は大学の前身に当たります。その後、横浜市立横浜商業専門学校、横浜市立医学専門学校と付属十全医院が統合され、1952年に現在の姿になりました。なお、2021年は附属病院の創立150周年、2028年は大学創立100周年の節目の年です。
大学は当初、商学部、文理学部、医学部の3学部でスタートし、後に文理学部を改組して国際文化学部と理学部が誕生。さらには商学部、理学部、国際文化学部を統合して国際総合科学部が設置され、医学部には看護学科を新設。2018年にはデータサイエンス学部が新設され、2019年に国際総合科学部の再編が行われました。現在は国際教養学部、国際商学部、理学部、データサイエンス学部、医学部の5学部体制です。キャンパスは金沢八景、福浦、鶴見、舞岡の4カ所と、みなとみらいにサテライトキャンパスがあります。学生数約5100人と規模はコンパクトながら、医学・データ・国際という21世紀の知の最前線で活躍する人材を養成する大学といえます。

■Y-SAPIXよりお知らせ

この記事は2021年4月21日に刊行された『Y-SAPIX JOURNAL』2021年5・6月号に掲載された記事のWeb版です。
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